シャネルの本気が宿る腕時計3選【腕時計のDNA Vol.23】

  • 文:柴田充
  • イラスト:コサカダイキ
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右上:「ムッシュー ドゥ シャネル スーパーレッジェーラ ブルー エディション」ドレッシーテイストをマットブルーのセラミックケースとスピード感のあるデザインでスポーティに演出する。右下:「J12 キャリバー 12.1」スポーティな普遍的スタイルに美しい光沢がエレガンスを添える。左下:「ボーイフレンド スケルトン」ラグレスのミニマルなレクタンギュラーケースは、マスキュリンとフェミニンの境界線を超越する。

連載「腕時計のDNA」Vol.23

各ブランドから日々発表される新作腕時計。この連載では、時計ジャーナリストの柴田充が注目の新作に加え、その系譜に連なる定番モデルや、一見無関係な通好みのモデルを3本紹介する。その3本を並べて見ることで、新作時計や時計ブランドのDNAが見えてくるはずだ。

1987年にメゾン初の腕時計「プルミエール」を発表し、シャネルは時計ビジネスに本格参入した。その中枢として開発製造を担うのがスイスのラ・ショー・ド・フォンの自社工房だ。ケースやブレスレット製造を専門にするG&Fシャトランを前身に、外装部品を内製するとともに、製造や組立を外部サプライヤーに委ねるのではなく、自社で行う垂直統合型の開発生産体制を構築したのである。専業ではないにも関わらず、その取り組みは時計業界でも早く、長期的展望に立ったウォッチメイキングにかける強い意思とオリジナリティを追求するメゾンの精神を感じさせるのだ。

2000年にはいち早くセラミックを採用したアイコンウォッチ「J12」を発表。革新的な素材だけでなく、ムーブメントにおいても名門ブランドとの協業やムーブメント会社に出資や参画し、共同開発した独自ムーブメントを搭載する。こうした高い技術力とノウハウを持つ開発生産を核に、独創的な発想やメゾンの世界観を表現したタイムピースはいまや多くの時計愛好家を魅了している。

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新作「ムッシュー ドゥ シャネル スーパーレッジェーラ ブルー エディション」

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ムッシュー ドゥ シャネル スーパーレッジェーラ ブルー エディション/見た目の重厚感に反し、その名の通り軽量かつ装着感に優れる。手巻き、高耐性マットブルーセラミック×SSケース、ケース径42㎜ブルーナイロン&カーフスキンストラップ、パワーリザーブ約72時間、3気圧防水、世界限定100本。¥8,437,000

スポーティな疾走感をシックなブルーで彩る

「J12」でセラミックの先駆になったシャネルは、その先進素材に新たな魅力を加えた。5年をかけて開発したメゾン初のマットブルーだ。ブルーは、メゾンにおいてオートクチュールのテーマカラーやフレグランスの名称にも用いられた、シンボリックなカラーでもある。 セラミックは、耐傷性や耐久性、強度を備え、美観の維持など多くの長所はあるものの、発色は難しく、黒にも近い深いブルーの調色には多くの技術開発を積み重ねた。そんなエレガントな新色を纏い発表されたコレクションの一つのが「ムッシュー ドゥ シャネル スーパーレッジェーラ ブルー エディション」だ。

「ムッシュー ドゥ シャネル」は2016年に発表された、初の自社ムーブメントである手巻き式の「キャリバー1」を搭載する。瞬転式のジャンピングアワーと240度の広角レトログラードで分を表示し、エネルギーを要する機構にも関わらず3日間の駆動時間を誇る。

メゾンにとって複雑機構の嚆矢となったマイルストーンをマットブルーに染めるとともに、オフセットしたインダイヤルや下方の半月部分はブラックにギョーシェ装飾を施す。それは、ヴィンテージカーのスピードメーターやかつてのエンジンターンの仕上げを思わせる。「スーパーレッジェーラ(=超軽量)」の名も1950年代のイタリアンレーシングカーの名車に由来し、スピード感溢れる世界観を表現するのである。

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定番「J12 キャリバー 12.1, 38mm」

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J12 キャリバー 12.1/独自キャリバー12.1は、長時間駆動にCOSC認定のクロノメーターを取得し、精度と実用性が大幅に向上した。自動巻き、高耐性セラミック×SSケース&ブレスレット、ケース径38㎜、パワーリザーブ約70時間、20気圧防水。¥1,386,000

四半世紀を経て、アイコンはさらに風格を増す

今年、「J12」は誕生から25周年を迎えた。フルセラミックの外装が美しい光沢を維持するように、その新鮮さは色褪せるどころかさらに輝きを増す。王道のスポーツウォッチのデザインにセラミックという革新的な素材を採用したのは、アーティスティック ディレクターのジャック・エリュの美学溢れるクリエイティビティからだ。当時すでにセラミックは時計でも用いられていたが、それはあくまでも実用性からに過ぎず、そこに肌に触れた時のほのかな温もりやいつまでも変わらない光沢といったエモーショナルな美しさを求めたのだった。

「J12」は、クロノグラフやGMT、ダイバーズといった多彩な機能はじめ、ジェムセッティングを施したジュエリーモデルやトゥールビヨンなど複雑機構を揃え、さらにカラーやサイズ展開などジェンダーを超越したコレクションを構築する。そして20周年の節目には、初のフルモデルチェンジでその真価をさらに極めた。

メゾンを代表する人気作の刷新として熱い注目が注がれる中、発表された「J12」は驚きとともに受け入れられた。というのもアイコニックなスタイルを一切変えることなく、を一切変えることなく、より洗練に磨きをかけ、熟成させたのである。ベゼルは幅を縮めるとともにノッチ数を増し、リューズを縮小した。インデックスは数字フォントを見直し、セラミック化した。

変更を細部にとどめる一方で、資本参加するムーブメント会社のケニッシと共同開発した初の自動巻きの独自ムーブメント「キャリバー 12.1」を搭載し、最新鋭の性能を備えた。さらに高性能とデザインをアピールするため、シースルーバックを採用した。

「すべてを変え、なにも変えない」。そのコンセプトは普遍的なスタイルを追求するメゾンの哲学を象徴し、まさにアイコンと呼ぶにふさわしい。

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通好み「ボーイフレンド スケルトン」

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ボーイフレンド スケルトン/メゾン独自のベージュゴールドは、ガブリエル・シャネルが愛したベージュの開発に約4年をかけた。手巻き、18Kベージュゴールドケース、ケースサイズ37×28.6㎜、カーフストラップ、パワーリザーブ約55時間、3気圧防水。¥8,195,000

独自のゴールドに浮かび上がる美学と技術

本格的な時計参入のスタートとなった「プルミエール」から、セラミックを採用しアイコンの存在感を築いた「J12」、そしてこれに続く第3のオリジナルコレクションとして「ボーイフレンド」が2015年に登場した。角を落とした8角形のケースは「プルミエール」にも通じるが、それが、香水「シャネル No.5」のボトルストッパーとパリのヴァンドーム広場を俯瞰した形状をモチーフにしたのに対し、よりマニッシュでシャープなレクタンギュラーに近い。

ネーミングも「彼氏の時計を借りたような」スタイルに由来し、女性目線から生まれたコレクションだったが、洗練されたデザインと程よいサイズ感は多くの男性も虜にした。2018年には本格的な機械式という新たな魅力を加え、搭載したのが自社ムーブメントの第3弾になる「キャリバー3」だ。スケルトン仕様の手巻き式の角形ムーブメントで、ブリッジは垂直に並んだ円からなるオープンワークを施し、面取りの一部をゴールドで仕上げる。角形ケースのフォルムとも調和し、ベージュゴールドの額縁にまるで絵画のようにムーブメントが美しく浮かび上がるのである。

ガブリエル・シャネルは、ツイードやスーツといったメンズクロージングをレディースファッションに取り入れることで機能美とエレガンスを融合し、躍動感あるスタイルは女性たちを解放した。その創造性はジェンダーレスなコレクションにも息づいている。

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シャネルと腕時計に通底する革新への思い

ラグジュアリーブランドが時計ビジネスへの参入に際し、自社で本格的な開発生産体制を設けるケースは少なくない。それは量産を目指すのではなく、よりオリジナリティ豊かな時計を作るための必要性からだろう。その先駆けとなったのがシャネルだ。

垂直統合した生産体制から生まれるコレクションは、メゾンの精神を象徴し、サヴォアフェールを駆使したモデルはオートクチュールに通じる稀少な価値を湛える。それに加えて、シャネルが本格的なウォッチメイキングを目指すのには、時計とのより深い共通性があるのかもしれない。

ガブリエル・シャネルがキャリアをスタートした当時、第一次世界大戦後の復興のなか、女性の社会進出が進んだ。それまでの生活習慣や慣習から女性たちをエレガントに解放したのもそのファッションだった。そしてそれは、社会の近代化や工業化を背景に懐中時計から腕時計へと移り変わる時期と合致し、躍動感ある時代を象徴した時計とも符合するのである。シャネルの時計を手にした時に感じる自然な親和性は、そうした常に革新を希求する精神が両者に通底するからではないだろうか。

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柴田 充(時計ジャーナリスト)
1962年、東京都生まれ。自動車メーカー広告制作会社でコピーライターを経て、フリーランスに。時計、ファッション、クルマ、デザインなどのジャンルを中心に、現在は広告制作や編集ほか、時計専門誌やメンズライフスタイル誌、デジタルマガジンなどで執筆中。

シャネル カスタマー ケア センター

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