1.つくり、考え、生きる——先駆者が現代に伝える言葉
展覧会ディレクターは、デザインジャーナリストの川上典李子と、キュレーター・ライターの田代かおるが担当。映像インスタレーションはドローイングアンドマニュアルの菱川勢一が手掛けた。現代はSNSなどを通じて情報交換がしやすくなったが、時間をかけた議論や、思考を深める機会は意外に少ない。偉人たちの言葉と対峙する本展覧会は多くの気づきを与えてくれる。マックス・ビル「Ulm Stool / Ulmer Hocker(ウルム・スツール/ウルマー・ホッカー)」(ハンス・グジェロ、パウル・ヒルディンガーの制作協力による、1954年デザイン)
見た目の印象や色、かたちの特徴でデザインのよしあしは語られることが多い。しかし、時代をゆり動かし、歴史を刻む優れたデザインは、単なる表層的な美しさで成立しているのではない。その事実を示し、これからの社会に必要な創造の力がなんであるかを考え直そうとする企画展『デザインの先生』が現在、東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催中だ。
名作として語り継がれるものを手掛けたデザイナーたちは、社会を読み解く鋭い洞察力を持ち、夢や希望を描き出す想像力、そして未知の可能性を察知する先見性を携えて果敢にプロジェクトに取り組んできた。
ブルーノ・ムナーリ、マックス・ビル、アキッレ・カスティリオーニ、オトル・アイヒャー、エンツォ・マーリ、ディーター・ラムス。デザインに興味がある人ならば、聞いたことがある名もあるだろう。20世紀ヨーロッパにおけるデザインの先駆者6人にフォーカスした本展覧会では、彼らの代表作の数々はもちろんのこと、貴重な記録映像や資料をもとに、伝え遺された言葉の数々を紹介。偉業を成し遂げたデザインの巨匠たちの思想と足跡をたどる。
また、ムナーリ、カスティリオーニ、マーリがそれぞれ協業を果たしたイタリアのインテリアブランド、ダネーゼの創業哲学をはじめ、ビルやアイヒャーがドイツのウルム造形大学で展開した教育活動、そして同大学で学んだデザイン教育者、向井周太郎の業績にも言及する。
膨大な情報が驚異的なスピードで世界を駆け巡る現代において、ゆるぎない確かな感覚を持ち続けることは至難の業。つくり、考え、社会を育んできた先駆者たちの姿勢は、デザインが造形にとどまらず、思想、哲学を伴う人間の活動そのものであることを教えてくれるだろう。
企画展『デザインの先生』
開催期間:〜2026/3/8
開催場所:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
開催時間:10時〜19時
休館日:火、年末年始
料金:一般¥1,600
www.2121designsight.jp