デザイナーのマイケル・ヤンツェン氏が提案する「インタラクティブ・セグメント・ハウス・オブ・ザ・フューチャー(相互作用するパーツに分かれた未来の家)」は、気象条件や、環境適応型の住まいだ。朝は東の窓を開いて太陽を迎え入れ、昼は風を取り込んで自然の力で涼み、夜は星空へと窓を向ける。そんな暮らしを追求したコンセプト案だ。
5つのセグメントが回転して環境に反応
コンセプト案の完成予想図は、家とも遊具とも秘密基地ともつかない、独特の外観だ。モスグリーン調の5枚の巨大な歯車が連結されて横倒しになっており、内部をくりぬいて住居としている。
歯車の歯に当たる部分は、有機体と工業製品の中間のようなデザインだ。ある面は無機的、またある面は複雑なカーブを描き、随所に通気口や採光窓が設けられている。
建築デザインメディアのデザインブームによると、各セグメントは手動または自動で、中心部に設けられた内部のリビングの周りを回転。太陽光、風、雨、景観に応じて好きに位置を変えられる。
曲線を描くスチール製のセグメントは、すべて同じ形状でありながら、向きによって役割が変わる。
デザインメディアのヤンコーデザインは、雨水を集めるのに適した形状の箇所もあれば、風を取り込む通気口の役割を果たすパーツもあると紹介。居住者は天候や気分に合わせてセグメントの配置を調整し、住環境を自在にコントロールできる。
ガラス床に浮かぶ開放的な居住空間
回転するセグメントに囲まれた中心部は、独特の開放感がある。外部とは一転、一面ホワイトで塗られた連続したリビング空間が広がる。スチールフレームで支えられたガラス床が、複数の歯車で成り立つ個別の空間を1つにつなぐ。
また、収納式の家具も特徴的だ。必要な家具はすべて床下の半円形キャビネットに収められ、使うときだけ引き上げて展開する。食事、仕事、就寝など、シーンに合わせた空間づくりが可能だ。
固定された壁や間仕切りがないため、一人で静かに過ごすことも、大勢で集まることも自在だ。ガラス床を通じて周囲の様子が360度見渡せ、自由に位置を動かせる窓が環境に応じて適度なプライバシーを約束する。
ヤンコーデザインは、「環境条件に呼応する、ほとんど有機的とも言える構造の中で暮らす感覚」が高まりそうだとコメントしている。
太陽光と雨水で自給自足を実現
この住宅が追求した機能性の一つに、エネルギー面での自立性がある。外装には太陽光パネルが設けられ、生活に必要な電力を生み出す。雨水を集めるセグメントや風を取り込むスクープと組み合わせることで、送電網や給水網に頼らずに暮らせる環境を目指した。
構造には軽量スチールが採用され、回転に必要な電力を低減するよう意図されている。都市部での居住に限らず遠隔地に建てても、太陽光で電気をまかない、雨水を蓄え、自然の風で室内に涼をもたらす。電力会社や水道に依存せず、快適に暮らすコンセプトだ。
住まいそのものが自然のリズムに寄り添って動き、太陽光や自然の通気を最大限に活用する。
実現への課題を超えた先に
この住宅を実際に建築するとなると、いくつかの課題も指摘されている。
ヤンコーデザインは率直に、大型のセグメントを回転させる機械の複雑さ、モーターやベアリングの継続的なメンテナンス、ガラス床やカスタム製作による建設コストの高さを指摘する。専門的な技術やケアが必要で、容易には手に入らない可能性があるという。太陽光だけで果たして回転できるかも考慮事項となるだろう。
一方、こうした技術的なハードルを別にすれば、ありきたりな住宅を一歩超えた何かを求めている人々には興味深いコンセプト案となるかもしれない。毎日目覚めるたびに違う景色が広がり、天候に合わせて家の形を変え、自分の気分次第で空間の表情を変えることができる。誰しも模様替えで気分転換を図ったことがあるはずだが、家具どころか家自体が自在に動いてしまうというわけだ。
同メディアは、「自分の人生や願望と同じくらい柔軟で想像力豊かな家」を夢見る人々にとって、このコンセプトは「建築と生きた機械の境界を曖昧にする」大胆な提案だと評価している。
住宅は一般に、日当たりや風通し、間取りといった変えることのできない条件を前提に、人がそれに合わせて暮らすものだった。この住宅は、その関係を逆転させる。家そのものが環境に応じて動き、人の望みに合わせて形を変え、まったく新しい住まいの可能性を提案している。
青葉やまと
フリーライター。1982年生まれ。大手メーカー系企業でのシステムエンジニア職を経て、2010年から文筆業に転身。IT・アートから国際政治・経済まで、幅広くニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『プレジデントオンライン』などに寄稿中。---fadeinPager---