【“手書き”を愉しむ新デバイス】「モンブラン デジタルペーパー」が持つクリエイティブな力とは

  • 文:柳澤 哲
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1906年、1本の万年筆から歩みはじめたモンブラン。長い歴史のなかで筆記文化に革命をもたらしてきたこのメゾンが、「モンブラン デジタルペーパー」なる筆記デバイスを生み出した。“書く”という行為にこだわり抜いた新たな情報端末の真価を、11月に来日した開発者、フェリックス・オブシェンカ博士の言葉から紐解いた。

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筆記デバイス「モンブラン デジタルペーパー」。アルミニウムによる軽量かつスリムな設計で、ノートを持ち歩くように日常に溶け込んでくれる。

まるで紙に書くような、繊細な筆記感

「モンブラン デジタルペーパー」の最大の特徴は、デジタルデバイスでありながら、驚くほど自然な筆記感を実現していることだ。ペン先が10.3インチのEインクディスプレイに触れた瞬間のわずかな抵抗感、擦れる音は、まるで紙に書いているかのようだ。万年筆「マイスターシュテュック」に着想を得た専用デジタルペンは筆圧を4000段階で感知。リネン、マット、スムースの3種類から選べる交換式チップは、紙に書くような質感をより細やかに表現する。

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モンブランの伝統を最先端のテクノロジーを駆使して継承し、伝える役割を担うオブシェンカ博士。

卓越したクラフツマンシップによって培われた、最高品質の筆記具による極上の筆記体験。それをデジタルの世界で再現することに挑戦したのが、モンブランのハンブルク本社でニューテクノロジー部門を統括するフェリックス・オブシェンカ博士だ。アナログとデジタルの架け橋となることを課せられた彼に、この筆記デバイスを生み出した真意を聞いた。

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モノクロの画面は余計な色の情報を排し、書くことだけに意識を向けさせる。

“手書き”が持つ力を、デジタルの利便性とつなぐ

──まずは「モンブラン デジタルペーパー」を開発するに至った経緯を教えてください。

オブシェンカ博士 私たちはスマートフォンをはじめとしたデジタルツールと常に接している状態です。それらはとても便利ですが、不必要な情報に触れてしまうことも多くあります。そんな現代において、私たちが大切にしている、信じているものこそ、“書く”ことが持つ力です。ものを書くことを通じてより深く考えることができ、目の前の仕事に集中して取り組めると思っています。
ですが、私たちは“手書き”の価値だけを尊重したいわけではありません。デジタルが叶えてくれる生産性や整理整頓のしやすさ、また人とのつながりは代え難いものです。双方が持つ力に敬意を払い、それをより人間らしく、思慮深く、日々のクリエイティビティにつながるものがつくれたらと考えました。

––––手書き、すなわちフィジカルなものと、相反するデジタルなものを融合するにあたって、もっとも大切にしたことはなんですか? 

オブシェンカ博士 ものを書くという行為自体、とても主観的なものです。どんな筆記具を使って、どこに、なにを書くかは人それぞれで、その好みはもはや感覚的なものです。そう考えたとき、果たしてどこからはじめればと頭を悩ませましたが、試作を繰り返しながら、さまざまな方の意見を集めました。カリグラファーやアーティスト、デザイナーなどの専門家たち、またペンづくりに携わっている方など、多くの方々の声から、なにが手書きの本質であるかを探るところからスタートしました。
行き着いたのが、書き心地が異なる3つのペン先をつくることでした。最高品質のさまざまな素材からつくり上げたペン先は、書き心地はもちろん、それぞれの感覚についても細部までこだわり、ペンが紙を撫でる音も再現しています。また書かれた文字などについても、どれだけインクの質感を再現し、それを素早くディスプレイに反映させられるか。実際のペンを使って紙に書いている感覚をデジタルで表現する作業は難しいものであり、大きなチャレンジでした。

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自身のデバイスを用いて、操作性や機能を解説してくれたオブシェンカ博士。

──デザイン面で意識した点があれば教えてください。

 オブシェンカ博士 筆記具はもちろん、腕時計やレザーグッズなどすべての領域において、モンブランには豊かなデザインが存在し、世界観が築き上げられています。上質な素材についての知見、熟練のクラフツマンシップも持ち併せており、まずはそれらを踏襲することからはじまりました。
開発当初から考えていたのは、ステーショナリーらしさを感じさせる、高級なノートのようなものです。このデバイスは厚さ5mmにも満たず、薄く、とても持ちやすいのですが、同時にある程度の重量感を残しています。完成までの長い道のりでいろいろな素材を見て、多くのデザイナーやテクノロジーからインスピレーションを受け、すべてを結集したのがモンブラン デジタルペーパーです。新しい、そして美しいデバイスに仕上がったと思っています。

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PDF形式の文書やデジタルブックなどにマーカーを引き、メモを添えるなど、使い方はさまざま。

––––今後、モンブランで挑戦したいこと、実現したいことがあれば教えてください。

オブシェンカ博士 引き続き、ニューテクノロジーというところにフォーカスしていきたいです。モンブラン デジタルペーパーに関しては、ソフトウェアをアップデートしていくことで、より多くの機能をお客様に提供することができます。まずはシンプルで使いやすい新たな機能を搭載していこうと考えています。
また、このデバイスは自由度が高く、人それぞれの使い方ができるところも魅力です。そのために、常にきちんと機能することが重要だと考えています。決して安価なものではありませんし、長く使っていただきたい。そのために、日々アップデートし続けたいと思っています。

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フェリックス・オブシェンカ●ベルリン工科大学、ベルリン自由大学、インシアードなどで学び、2014年にモンブラン入社。19年よりニューテクノロジー担当のディレクターとして、メゾンのすべての製品におけるデジタル分野の開発を担う。

子供の頃そうだったように、私たちは書くことに夢中になることで外界のあらゆる情報を遮断し、より深く自分自身と向き合うことができる。そこから生まれるインスピレーションは、なににも代え難い。そして、そんなクリエイティビティにデジタルの効率と利便性も備える「モンブラン デジタルペーパー」こそ、現代社会における私たちの生活をより豊かなものにしてくれるはずだ。

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