フォルクスワーゲンには独自の強みがある。世界中に熱心なファンを持つことだ。これはブランドにとって、もっとも大切なこと。

日本にも、ビートル、ゴルフ、さらに、シロッコやマイクロバスなどを“愛する”オーナーが少なからず存在する。
多くの自動車好きにとって、「私のフォルクスワーゲン」と言いたくなるモデルがあるのでは?
私にとっては、ビートル・カブリオレなどはずっと憧れのクルマであり続けている。

最近の若い人の間では、ゴルフⅡ(1983〜92年)が人気というのも、ブランドのエバーグリーン性の象徴だろう。
フォルクスワーゲンの日本法人は、日本にいるVWのファンを再定義すべく、「VWer(ヴィーワー)」と名付けた。
2025年9月に、東京・代官山でヴィーワーが80組、歴代のフォルクスワーゲン車で集まったイベント「フォルクスワーゲン・ファンミーティング」が開催された。
ビートルやマイクロバスもやってきて、にぎやかな催しとなった。

「フォルクスワーゲンのこれからの課題は、熱心なファンの期待に応えていくことです」
このとき、同じタイミングで、ドイツ本社から乗用車部門のトマス・シェファーCEOも参加。その直後のメディアとのインタビューで私にそう語った。

もちろん、いまのフォルクスワーゲンがかつてのような輝きを失っているわけではない。
「ゴルフ」やEVの「ID.4」は世界的なベストセラーの座を守っているし、「T-ROC」(と日本市場未導入のT-ROCカブリオレ)という出来のよいSUVもあれば、話題性ばつぐんのミニバン「ID.BUZZ」など、ラインナップは充実している。
「2022年7月にVWの乗用車部門のCEOに就任した際、私が設定したゴールはただひとつでした」
代官山のカフェで、シェファーCEOは語る。
「私の目標は、過去最高の“フォルクスワーゲン・ブランド”を構築することでした。ブランド力を、この先も持ち続けていたいと考えたのです」

そして言葉を続ける。
「(25年9月に開催された)ミュンヘンでの自動車ショーで、約束を守っていることを示せたと自負しています。そこでフォルクスワーゲンらしいアーバンなEVを紹介できました」
それは「ID.CROSS コンセプト」(アイディークロス)と名付けられた、全長4.1m、全高1.5mのクロスオーバータイプ(SUVとハッチバックの中間的スタイル)を持ったEV。
「できるだけ多用途に使える車にすることに重点を置きました」とは、ID.CROSS コンセプト発表時における、日本法人によるリリース内の一文だ。
「長距離走行やたくさんの荷物の積載にも対応できる、家族や友人との旅行に適したオールラウンドな車」とも定義されている。26年に欧州での発売予定だそう。

「(ID.CROSSコンセプトの開発における)テーマは、買いやすい、何百万人の人に届けられるEVでした。2030年までにリードするボリュームメーカーになることが、私たちのゴールです」
そのことを念頭に、シェファーCEOの指揮の下、フォルクスワーゲンでは、新車開発プログラムを進めている。
「日本も私たちにとって重要な市場です。なにしろ日本に上陸して70年も経っています。今回のファンミーシングでもアイコニックな昔のモデルが並んでいて感動しました」
そのあと、シェファー氏はたいへん重要な発言を行った。
「欧州でEVの需要が減速しているという報道もありますが、事実ではありません。予想していたほどの伸びではない。でも、需要は確実に伸びています。将来は電気というのは確実です。早いか遅いか。スピードの問題だけです」
そこで、フォルクスワーゲンとしては、これからもEV戦略の手綱を緩めるつもりはないそうだ。

「来年はID.POLOとID.CORSS、そのあとにID.EVERY1となります。名前はもっとかっこいい名前を付ける予定ですけど、デザイン的なアイコンになるクルマです」
日本にも「ID.POLOとID.CORSSを導入する計画があります」とシェファーCEOは言う。サイズがコンパクトなのも「日本に合っているのでは」とつけ加えた。

「クルマをつくるときはバッテリーとか内燃機関とかさておき、”いいクルマ”をつくるということがなにより大事なんです」
すばらしい発言だ。全国のヴィーワーをはじめ、クルマ好きとしては、楽しみにしていようではないか。











