時を測るだけでなく、時を創造する。独自の世界観で「時間」を解釈するブランドが小さな腕時計に宿す、飽くなき創造性を探る。今回はヴァン クリーフ&アーペルの3本を見ていこう。
2025年は腕時計の“名作”が改めてフォーカスされた1年であった。そして、名作と呼ばれる腕時計には、一つひとつの物語がある。時代を超えて受け継がれる100本の腕時計、その“物語”を読み解いていこう。
『未来へ受け継ぐ 名作腕時計、100の物語』
Pen 2025年12月号
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麗しき物語とともに詩情豊かな時を刻み続ける、ヴァン クリーフ&アーペルの時計づくり
ハイジュエラーとして名高いヴァン クリーフ&アーペルだが、実は創業時から腕時計を手掛けていた。だがメゾンにとって腕時計とは単に時刻を伝えるアイテムではない。それは詩情豊かな時を紡ぐものであり、「ポエトリー オブ タイム」という独自のコンセプトのもと、創造性は無限の可能性を広げる。そのシンボルが「ポエティック コンプリケーション」だ。
コンプリケーションと呼ばれる一般的な時計の複雑機構の多くが、言葉の通り、難解な機械を誇示するのに対し、「ポエティック コンプリケーション」は一切それを感じさせない。愛、天体、自然、妖精とバレリーナといったインスピレーションに基づき、革新的な時計技術はむしろ秘められる。代わってそこから伝わるのは物語であり、研ぎ澄まされた審美性とサヴォアフェールが融合する。繊細なエングレービングや多種多様なエナメル装飾の技法を駆使したタイムピースは、優美にして深遠たる時の表現として静かに輝きを放つのである。
1.「ミッドナイト イン パリ ウォッチ」
パリの夜空に輝く星の位置をアベンチュリン文字盤に再現した、2008年誕生の名作。ディスクが1年をかけて回転し、季節ごとの星座を映し出す。昼夜や天候にかかわらず、パリを離れていても星空に思いを馳せられるロマンティックな機構だ。複雑機構のなかでも天体時計は、常に時計師の創造性を刺激し、その詩情豊かな表現こそ「ポエティック コンプリケーション」の名にふさわしい。
2. 「ミッドナイト ポン デ ザムルー ウォッチ」
時分を表示しながら男女が橋の上で近づき、3分間の口づけを交わす名作「レディ アーペル ポン デ ザムルー」を男性向けに仕立てた。口づけの後、ふたりは橋のたもとへ戻り、再び逢瀬の時を刻む。プッシュボタン式オンデマンドにも対応し、いつでも橋の頂上で出会う。ダブルレトログラード機構を備え、パリの街並みや立体的な橋には、グリザイユ エナメルや彫金などを駆使。
3.「ピエール アーペルユール ディシ エユール ダイヨール ウォッチ」
モデル名は、フランス語で「ここでの時間」と「他の場所での時間」を意味する。ふたつの小窓で2カ所の時をジャンピングアワーで示し、レトログラード式の分針で時刻を表す。正円ケースにラグをひとつだけ中央に添えた端正なスタイルは、1949年に創業家の2代目ピエール・アーペルが自身や友人のためにデザインしたメンズウォッチ「ピエール アーペル」の理念をいまに伝える。

柴田 充(時計ジャーナリスト)
1962年、東京都生まれ。自動車メーカーの広告制作会社でコピーライターを経て独立。時計、ファッション、クルマ、デザインを中心に、広告制作や編集などで活動中。

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