始まりは2017年——「Pen クリエイター・アワード」は、あらゆるジャンルのクリエイターへ敬意を表し、功績をたたえてきた。第9回となる25年は、5組の受賞が決定。そのひとりである、シェフ庄司夏子は自身の店を閉めてまで、全身全霊をかけて新たな挑戦をする。
Pen最新号、2026年1月号の第2特集は、『Pen クリエイター・アワード2025』。第9回目となる25年は、5組の受賞者を選出。彼らの2025年の活躍を振り返りつつ、その素顔に迫った。
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ティファニー「ブルー ボックス カフェ」日本初のシェフに抜擢
国を問わず、ジェンダーギャップの問題を抱える飲食業界。そのなかで、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍を遂げる女性シェフ、それが庄司夏子だ。
NYを象徴するジュエラー、ティファニーからのオファーを受け、今夏、ティファニー 銀座店の4階にオープンした、日本初の「ブルー ボックス カフェ」の監修として就任。しかも絶好調だった自身の店を閉じ、挑んでいる。
シェフ、庄司夏子のこれまでは短くも濃い。料理の道を志したきっかけは中学校の調理実習。シュー生地がふわっと膨れ上がる様子に興味を持った。家で再現して友達に配ったところ絶賛され、料理実習のある高校へ。在学中からいくつかの店で研鑽を積む。そして弱冠22歳で一千万円もの借金をし独立。生命保険にまで入る命がけの覚悟だった。後に庄司の代名詞となるバラのマンゴータルト「フルール・ド・エテ」で一世を風靡。フレンチレストラン「été」を開く。「切り立て、でき立て、料理の最高地を突き詰めてきた」とゲストを1日1組に絞り、ライブ感あふれる美食を提供。オープンから10年で、予約が取れない幻のシートとさえ言われるまでに。
そのうえ美しき風貌ともなれば、メディアが放っておかない。SNSではセレブリティとの交流など華々しい日常を綴る。「妬みは覚悟でやっています。若い次世代にシェフは夢のある職業だと思ってもらう、そのためでしかない」
スター街道をまっしぐら、順風満帆と思えるが料理の道を極める裏で庄司は一時期、逆境と闘っていた。妹の病、父の死……10代の彼女が家族を背負う、それは想像を絶する重圧だ。だが彼女はあの大変さを含めて、すべては原点に戻り感謝を感じているという。
庄司に話を聞くなかで、何度も出てきた「革命」という響き。
「ひと握りに選ばれるには腹をくくって人生のパーツを捧げないと。本気でやらないと頂には届かない。この賞はそれくらい尽力した人だけに与えられるものでしょう」
ときに世間に誤解されることもあるだろう、煌びやかな女性シェフの姿はない。そこにいるのは逞しくも清々しい、食の未来を想う女戦士だ。

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