国産最高峰の腕時計として名高いグランドセイコー。その機械式モデルをつくるのが「グランドセイコースタジオ 雫石」だ。岩手県雫石に降り立ち、美しいダイヤルの源と、熟練の名工を訪ねた。
2025年は腕時計の“名作”が改めてフォーカスされた1年であった。そして、名作と呼ばれる腕時計には、一つひとつの物語がある。時代を超えて受け継がれる100本の腕時計、その“物語”を読み解いていこう。
『未来へ受け継ぐ 名作腕時計、100の物語』
Pen 2025年12月号
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多くの人の手が関わる高級腕時計は、必然的に誰がどういった場所で製造しているかというのも、その個性を左右する大きな要素になる。スイス時計を例に見ても、都会でつくられるか雪深い山間部でつくられるかで、デザインや機構、仕上げに違いが出てくる。だからこそ時計ブランドは〝場所〟を重視するのだ。
グランドセイコーの機械式モデルが製造されるのは、岩手県雫石町にある盛岡セイコー工業だ。そして、その敷地内に象徴的に佇むのが、組み立て以降のすべての工程を行う「グランドセイコースタジオ 雫石」である。
設計は隈研吾が担当。見学用通路からは、真剣に時計に向き合う技術者たちの姿が見える。大きく跳ね上がった屋根のおかげで北向きの窓が大きくなり、雄大な岩手山が視界に飛び込んでくる。グランドセイコーと言えば白樺や岩手山などをモチーフとしたダイヤルデザインが定番だが、屋内の床タイルと屋外の無加工の石の色や質感を合わせることで視覚的な境目をなくし、建築の中からも自然が感じられる設計を徹底している。
ブランド哲学「ザ ネイチャー オブ タイム」は、自然や季節の移ろいから時計づくりのインスピレーションを得て、感性と時の本質に迫ろうとする匠の精神性を意味する。その思いを体現するのが、この場所なのだ。
ダイヤルのモチーフにもなる、豊かな自然が工房を囲む
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“現代の名工”に訊く、グランドセイコーのものづくり
機械式時計の製造には、多くのノウハウが必要となる。それは簡単に機械化できることではなく、人の手と感覚にゆだねられるところが大きい。「グランドセイコースタジオ 雫石」には、熟練の時計技術者が数多く所属し、ムーブメントの組み立てからケーシングまでを一手に担っている。ムーブメントの組み立て調整チームのトップである伊藤勉は、この道一筋25年。厚生労働省から「卓越した技能者(現代の名工)」に表彰され、昨年は黄綬褒章を受章するなど、技術者たちの憧れだ。
近年は薄型設計の「9SA5」や手巻き式の「9SA4」など、新型ムーブメントが次々と導入されているが、組み立ての現場からも開発側へ積極的にフィードバックを行っているのだという。
「いまは時計パーツの加工精度が抜群によくなって、パーツのすわりもいい。昔と比べると精度の調整もしやすくなっています。ただし、ほとんどのパーツが新設計なので、部品の摩耗を防ぐ〝注油〟は現場の知見が活きるところです。どういうやり方で注油するのか、時計技術者同士で意見を出しながら理想を探していきます」
優れた時計づくりのためにグランドセイコーは「技能の伝承」も重視する。スイスの場合は、各地にある時計学校で基礎をしっかり学んだ卒業生が時計ブランドに入社するのがセオリー。しかし「グランドセイコースタジオ 雫石」は地元の若者を採用し、時計技術者として育成することが多いという。一から人を育成していくのは容易ではない。そこで取り入れられたのが「プロフェッショナル人材制度」だ。
時計技術のスキルだけではなく、自分の後継者を指名し、育てることも課題とする。そのふたつを両立することで、ブロンズからシルバー、ゴールドへと階級が上がっていく。〝時計文化の継承者〟としての自覚を持ち、その意識を共有できる人材を育てなくてはいけないという意識が、自然と芽生えていくのである。
「教育計画書をつくり、うまくいかなかった箇所は記録に残して、フォローをしながら技術を上げていきます。感覚だけではダメで、時計の構造をきちんと理解することがとても重要です」
トップの技術者として、そして指導者としてもフル稼働する伊藤。ベテランとはいえきわめて小さなパーツを相手に、集中力が求められる作業が続くのは至難だ。
「疲れたら外を眺めるんです。自然が近いのはいいですよ。この時季は緑が窓から見えて、目も疲れにくい。ざわざわしているなぁと顔を上げたら野生動物が遊びにきていたこともありました」
終始、柔和な雰囲気で話をしてくれた伊藤。よい時計はよい人から生まれる。これもグランドセイコーの魅力なのだろう。
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「ザ・ネイチャー オブ タイム」を体現する、岩手の自然風景を映す珠玉の5本
「グランドセイコースタジオ 雫石」から生まれる美しい腕時計たち。その技術と美意識が結実した人気の5モデルを紹介しよう。
深いグリーンで表現した特別な白樺「SLGH011」
雫石の近くにある白樺の群生林の神秘的な様子を、精密な型打ち技法によって表現した。青々とした葉が茂る様子をイメージした深みのあるフォレストグリーンは、オンラインブティックの限定色。人気のハイビートモデルにトレンド感のあるカラーをまとい、腕に特別な個性を加えてくれる。
岩手山の山肌を、ダイヤルに落とし込む「SLGC001」
グランドセイコー初の機械式クロノグラフとして2023年にデビューした「テンタグラフ」。ハイビート式のムーブメント「9SC5」を搭載し、10分の1秒の計測が可能。ダイヤルには、「グランドセイコースタジオ 雫石」から見える雄大な岩手山の山肌をイメージした、ダイナミックな凹凸仕上げを加えている。
厳しくも美しい、北国の自然を表現する「SBGH347」
縦のラインのダイヤル表現は、厳冬期の岩手山で見られる「氷瀑」をイメージした。「氷瀑」は滝から流れる水が氷点下で凍りつく自然現象。アイスブルーの幻想的な色彩も美しい。ハイビートムーブメントの「9S85」を搭載。ケース径は37㎜と小ぶりなので、手元を飾るさりげないアクセントになるはず。
白樺の定番「SLGH005」と、珠玉の手巻きウォッチ「SLGW007」
右:SLGW007/手巻き、SSケース、ケース径38.6㎜、パワーリザーブ約80時間、シースルーバック、レザーストラップ、日常生活用防水。¥1,342,000/セイコーウオッチお客様相談室
「SLGH005」は白樺の美林を表現したダイヤルで、2021年の誕生以来不動の人気を誇るモデル。時計界の最高権威であるジュネーブ時計グランプリ(GPHG)にて、メンズウォッチ賞を獲得するなど世界的にも評価が高い。デュアルインパルス脱進機とツインバレルを採用することで、ハイビートとロングパワーリザーブを実現した「9SA5」を搭載する。
「SLGW007」は手巻き式ムーブメント「9SA4」を搭載。ぜんまいを巻き上げる感触や音も心地よく、その際にカチカチと動くコハゼというパーツの形状は、野鳥セキレイの姿を摸している。グランドセイコーのブランドカラーでもあるネイビーのダイヤルは、月明かりに照らされた白樺の樹皮をイメージ。9.95㎜厚の薄型ケースは、着用感が素晴らしい。
グランドセイコースタジオ 雫石
住所:岩手県岩手郡雫石町板橋61-1 盛岡セイコー工業内
TEL:019-692-5863
営業時間:9時30分〜11時30分、12時15分〜16時
完全予約制
https://gs-studio-shizukuishi.resv.jp

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