時を測るだけでなく、時を創造する。独自の世界観で「時間」を解釈するブランドが小さな腕時計に宿す、飽くなき創造性を探る。今回はルイ・ヴィトンの3本を紹介する。
2025年は腕時計の“名作”が改めてフォーカスされた1年であった。そして、名作と呼ばれる腕時計には、一つひとつの物語がある。時代を超えて受け継がれる100本の腕時計、その“物語”を読み解いていこう。
『未来へ受け継ぐ 名作腕時計、100の物語』
Pen 2025年12月号
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腕時計が教えてくれる、旅を楽しむ歓び
旅先での時間はいつもより濃厚だ。普段よりも時計を見る機会は増える。たとえスマホが便利でも、容易に時間を確認するにはやはり腕にある時計に分があるだろう。そして愛着ある一本が刻む時に、信頼と安心感を得る。旅の真髄を標榜するルイ・ヴィトンが時計製造に進出したのも当然の帰結といえる。
2002年に初の本格コレクションとして発表した「タンブール」は、16世紀の小型携行時計「ドラムクロック」をモチーフにした。コレクション名はフランス語で「太鼓」を意味し、ケースはまさにドラムの形状だったのだ。以降も各国の国旗をモチーフにしたカラフルな都市名リングを持つワールドタイマーや、空港や駅のフラップ表示から着想を得たスピン・タイム機構など豊かな創造性の原点に常に旅はある。
それは実用機能以上に旅情をかき立て、独創的なタイムピースを見ていると、旅とは「時を楽しむこと」だと気付かされる。手にすれば、いつしか心は旅路にあるはずだ。
1. 「タンブール タイコ スピン・タイム エアー」
2009年に発表した独自開発のスピン・タイム機構は、インデックスの代わりに12個のキューブを配し、1時間ごとにリレー式に回転する。メゾン名を示すキューブが色を変え、分針とともに時刻を表示する独創的な技術だ。中央のムーブメントはスケルトン仕様により宙に浮かぶように見える。ケースはタンブールのデザインを再解釈し、日本の和太鼓に由来する。


2. 「タンブール オトマティック コンバージェンス ピンクゴールド」
フェイスの全面を覆い、一部に設けた窓から時分を示す。ジャンピングアワーではなく回転ディスク式を採用し、ゆっくりと流れる時刻表示に旅の開放感を重ねる。ムーブメント設計の「ラ・ファブリク・デュ・タン」、ケース製造の「ラ・ファブリク・デ・ボワティエ」、装飾を担う「ラ・ファブリク・デ・ザール」のアトリエをジュネーブに集約してつくったメゾン初の自動巻きムーブメントを搭載。
3.「ルイ・ヴィトン モントレーオトマティック イエローゴールド」
本格的な時計製造に参入する以前の1988年に発表し、高く支持されたアーカイブが復活した。デザインを手掛けたのは、当時、パリの駅舎をオルセー美術館に改築したイタリア人建築家兼デザイナー、ガエ・アウレンティ。天頂にリューズを備えたケースはラグを排してフォルムを際立たせ、グラン・フー・エナメルを採用した文字盤のデザインは、駅のクロックや鉄道時計を彷彿とさせる。

柴田 充(時計ジャーナリスト)
1962年、東京都生まれ。自動車メーカーの広告制作会社でコピーライターを経て独立。時計、ファッション、クルマ、デザインを中心に、広告制作や編集などで活動中。

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