【宙に浮く家】洪水時に“家が上昇”! スウェーデンで開発された「シザーリフト住宅」に建築ファンが注目

  • 文:山川真智子
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スウェーデン

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photo by Oskar Omne

気候変動による豪雨や洪水に対し、様々な取り組みが進んでいるが、スウェーデンの建築家がこれまでになかった対応策を発表した。家自体をシザーリフトの上に取り付け、災害時に持ち上げてしまうという大胆なもので、不安定な世界における住宅建築の未来に新たな選択肢を提案している。

第4のアプローチ。一時的に避難する家

話題の家「リフト・ハウス」は、荷物の昇降や高所での作業などに使われるシザーリフトの上に載っており、上下の移動が可能だ。スウェーデンの国立美術館「ArkDes 」の招待を受け、建築家のウルフ・メイェグレンが展覧会「Beredd(準備せよ)」のためのインスタレーションとして作成した。この展覧会は、将来的に気候変動に直面した際の住宅や都市の強靭化をテーマにしている。

このプロジェクトでは、スウェーデンのリンショーピング大学の気候研究をもとに、防波堤などによる物理的な「防御」、未来の気候への「適応」、人や建物を移動する「撤退」という、従来型の 3 つの危機管理戦略を提示している。しかし、メイェグレンのチームは、第 4 のアプローチを提案。水害の対応策として、「撤退」という最も厳しくコストのかかる選択肢を回避し、家を上方向に移動させて安全を確保する「一時的撤退」という方法を、シザーリフトを使って具現化した。

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Photo by Sima Korenivski

見た目はかわいいけれど、緻密な計算で完成

シザーリフトを使うというユニークな試みは、建物の約 80%にリサイクル材を使用して改修された「ArkDes」から着想を得ている。美術館で使用されていたシザーリフトが廃棄予定だと知ったメイェグレンが、そこに可能性を見出したのだという。リフト部分は、伝統的なスウェーデンレッドで塗装。そのプラットフォームとなるテーブル部分に、クラシックな木造パネル、切妻屋根、煙突を備えた小さな家屋が設置された。リフトの最大積載量が 227㎏だったため、家屋には精密な計算が求められたという。煙突から窓のレースカーテンに至るまで、あらゆる要素が設計され、計測され、調整されている。 

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不確実な時代でも、建築に遊び心を

水害時に持ち上げられると、「リフト・ハウス」は水面を浮遊するかのように見えるはずだ。メイェグレンは、「建築から構造と合理性を、芸術から遊び心とパンク精神を」を自身の事務所のスローガンとして掲げる。その言葉通り、「リフト・ハウス」は見慣れているのに場違いな、しかし遊び心と真剣さをバランスよく配した移動式避難所となっている。豪雨の増加、記録的な降雨量、急激な天候変化が珍しくなくなった時代において、「リフト・ハウス」は絶え間ない緊急事態の中で生きるとはどういうことかを教えてくれる。「ArkDes」に展示されている家は居住を意図したものではないが、その冒険的な発想は、他の建築家や政策立案者をインスパイアするものとして、国際的にも注目されている。

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山川真智子

●Webライター
早稲田大学第一文学部卒業。レコード会社に勤務した後に渡米し、コミュニケーション学の修士号取得。米ノースウエスト航空機内誌の編集を経て、日本航空の機内エンターテイメントの選定買付に携わる。夫の転勤で通算9年の東南アジア滞在後、帰国して世界のニュースを紹介するライターに。現在は関西の片隅で、仕事の合間にフランス語学習に奮闘中。

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