【髙田安規子・政子】時空と生命のスケールを縫う、双子アーティストの新境地 ──資生堂ギャラリーで『Perspectives』展開催中

  • 文:住吉智恵(アートプロデューサー)
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『Spectrum』(『Electromagnetic wave』部分)2025年  サイズ可変  フィードサック(ヴィンテージ)、ベッド、ベッドカバー

一卵性双子のユニットとして活動する髙田安規子・政子は、ミクロからマクロへと広がる空間や時間の「スケール(尺度)」をテーマに、一心同体で創作を続けてきた。その表現は詩性に満ち、微かな視点のずらしによって身近なものや環境を変容させ、人々の認識をゆさぶってきた。

ギャラリーの大展示室の壁には、一面に既製品の鏡が設置されている。かつて誰かが使っていた鏡は人々の顔を断片的に映し、同時にすべての鏡の奥には、世界を映すリフレクションが無限に広がる。「宇宙と素粒子の関係のような視点」(髙田姉妹)で構想された本作は、無数の個が全体を構成する宇宙の中で、自分と世界の関係を想起させる。

見た目は牧歌的だが、緻密に構成されたパッチワークの2作品は光を主題にしている。光の電磁波の模式図を表したタペストリーと、可視光の色エネルギーをベッドカバーの布片(=光の粒子)と、サイズの異なるベッド(=スペクトラム)のスケールで示した作品(下写真)は、いずれも私たちの生活と密接に関わる自然界のサイクルや文化の継承を反映している。

地下から階段踊り場へとつながる吹き抜けに設置された書棚のインスタレーションは特に壮大だ。資生堂の社名の由来でもある易経の一節「万物資生」の考えを起点に、自身の自然観を重ねたふたりは、約500冊の本と化石や鉱物を地層に見立てて構成した。先カンブリア紀から現代に至る「知」の層を前に、私たちが立つこの時代がどんな歴史の上に積み重なってきたのかを、イメージの拡がりとして体感させる。生物の遺伝子に刻まれた38億年もの生命と進化の情報、生と死のとこしえの循環といった自然界の法則を「層」として可視化する作品世界は、視点の遠近を自在に往還し、硬直した世界観を問い直してくれる。

『髙田安規子・政子  Perspectives  この世界の捉え方』

開催期間:〜12/7 資生堂ギャラリー 
会場:資生堂ギャラリー
TEL:03 -3572 -3901
開館時間:11時〜19時(日、祝は18時まで) 
休館日:月(祝日の場合も休館
入場無料
https://gallery.shiseido.com/jp