【まるでSF映画の駅】ガラスのアーチが空を貫く、ベルギーの新ランドマーク「モンス駅」

  • 文:青葉やまと
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© Danica O. Kus.

スペイン建築界の巨匠、サンティアゴ・カラトラバが設計を手がけた新たな鉄道ターミナルが今年、ベルギーに誕生した。約20年という長期を投じた「モンス駅」は、まるでSF映画から抜け出したようなその姿で人々の話題をさらい、街を象徴する新たなランドマークになっている。

白亜の「鉄道大聖堂」が街を貫く

 

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© Danica O. Kus.

 

ベルギー南西部、フランスとの国境近くに位置するモンスに誕生したモンス駅。その近未来的な容貌が人々の目を惹いている。

今年新たに完成した駅舎は、カラトラバのトレードマークでもある白い優美な鉄骨を、シームレスなガラス屋根に融合。両脇には計10本のルーフが伸び、駅のプラットフォームやタクシーターミナルで待つ人々を雨から守る。ベルギーの英字メディア、ブリュッセル・タイムズ紙は、「SF映画に登場するかのような」印象的な姿だと称えている。

基本的な設計手法として、線路をまたぐフットブリッジ型を採用。駅舎全体がカラトラバ氏のトレードマークでもある白い鉄骨構造で統一され、約40本のアーチが優雅な曲線を描く。

光と影の心地よいリズム

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© Danica O. Kus.

構内は明るくゆとりある通路が貫き、鉄骨が光と影の美しいコントラストを演出。大屋根を支える純白の支柱に、心地よいリズムを与える。通路沿いには、ベルギー鉄道(SNCB)の販売所やバス会社のオフィス、サービスエリアや店舗などが設けられている。

外観は駅舎側面において、直線を強調した人工的な印象を帯びる。一方で、地域の広場を備えた南北2つの駅舎正面は、曲線をベースにした意匠に。広場から見上げるとカーブを多用した柔らかな印象となり、見る角度によってまったく異なる味わいをもたらす。

規模は全長約165メートルで、幅約15メートル。プラットフォーム部分と高架通路部分の2層ながら、高さは通常のビル4階分に相当する約16メートルとなっている。フランスの旅行メディア、ヴォヤージュ・アフェールズによると、カラトラバ氏は巨大な駅舎を「鉄道の大聖堂」と表現している。

ベルギーの観光名所に着想

 

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© Danica O. Kus.

モンスはベルギー第8の都市で、エノー州の州都だ。2020年時点での情報となるが、駅の利用者は1日約1万人で、旅客数でベルギー第16位の駅となっている。

ブリュッセルには、19世紀に誕生した有名なアールヌーヴォー式のアーケード、ギャルリー・サンチュベールが存在する。カラトラバ氏はそのガラス張りの天井から着想を得て、「ギャルリー・ドゥ・ラ・レーヌ」と呼ぶ天窓付きの通路を設計した。

米建築デザイン誌のアーキテクチュラル・ダイジェストは、駅舎内部で自然光が重要な役割を果たしていると指摘。ショップやレストランが並ぶこの空間は、通勤客だけでなく、駅を歩道橋として通過する市民もくつろげるよう配慮されている。列車音を遮断する擁壁を設け、店舗だけでなく通路にも暖房を効かせるなど、利用者が「空間の質」を感じられるよう工夫されている。

新駅舎は、それまで駅の南北に分断されていた2つのエリアを、開放感あふれる楕円形の巨大なガラス屋根で統合。北側の緑豊かな住宅街と南側の旧市街を結び、つながりが失われていた地域に人々の動線を取り戻した。

20年待った価値のある空間

駅舎の完成までの道のりは、決して平坦ではなかった。供用開始はおよそ10年間遅延し、完成までに当初予算の約13倍を費やした。プロジェクト期間として都合20年を要している。

ブリュッセル・タイムズ紙は、モンス駅のプロジェクト費用を近隣の比較的小規模な駅改修と比較し、少なくとも108駅を再生できた計算になると論じている。もっとも、建築中にイタリアの鋼材請負業者コルディオリが破産するなど、本来の設計とは関連のない外部要因も大きく影響した。

カラトラバ氏の建築は、過去にも建設中に遅延することがあったが、ひとたび完成すれば都市の象徴として愛されてきた実績がある。ブリュッセル・タイムズ紙は、2009年に開業したカラトラバ氏設計のリエージュ=ギユマン駅について、「批評家でさえ、この駅がリエージュの観光資産になったと認めている」と述べている。

完成に長い歳月を要したモンス駅も、今後地域の新たな顔となっていくことだろう。

青葉やまと

フリーライター。1982年生まれ。大手メーカー系企業でのシステムエンジニア職を経て、2010年から文筆業に転身。IT・アートから国際政治・経済まで、幅広くニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『プレジデントオンライン』などに寄稿中。