【デザイン好き必見】ウィーンの“暮らしのデザイン”の進化を体感。ビーダーマイヤーから世紀末へ、美意識をたどる270点

  • 文&写真:はろるど
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『ウィーン・スタイル ビーダーマイヤーと世紀末』展示風景。背後に見える絵は、「ウィーン私の部屋」(1837-42年、原画:ウィーン・ミュージアム蔵)の複製。

パナソニック汐留美術館で開かれている『ウィーン・スタイル ビーダーマイヤーと世紀末』では、ウィーンの暮らしをかたちづくった二つの時代、19世紀前半のビーダーマイヤーと世紀末にスポットを当てている。インテリアから工芸、デザインなどの作品約270点にて、両時代に共通する美意識を探る展覧会の見どころとは?

一枚の水彩画にビーダーマイヤーの美意識が凝縮!その特徴とは?

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アルベルト・パリス・ギュータースロー『アーダルベルト・シュティフターに捧ぐ—高みを目指して』1937年 アセンバウム・コレクション 展示風景 アーダルベルト・シュティフターとは、ビーダーマイヤー時代を代表する文学者。よって画家がこの文学者へのオマージュとして制作したことがわかる。

ビーダーマイヤー時代とは、政治的にはウィーン会議(1814~15年)から48年の革命までの、保守的な体制のもとにあった時代を指す。一方でデザイン史においては、18世紀末から19世紀半ばにかけてウィーンで育まれた生活文化と造形表現の広がりを意味している。抑圧的な政治状況のもと、人々の関心は公的空間から私的な生活へと移り、家庭の幸福や個人の内面が重んじられていった。

アルベルト・パリス・ギュータースローの描いた水彩画は、ビーダーマイヤー様式の美意識が凝縮されたもの。静物の緻密な描写には市民社会の倫理や慎ましさが表現され、気球には自然と理性の調和が象徴されるとともに、気象観測に代表されるような科学への好奇心も示されている。また郊外の穏やかな街並みや空に浮かぶ三日月、花瓶の下の楽譜などのモチーフにも、ビーダーマイヤーの精神が体現しているという。

ビーダーマイヤーと世紀末の作品に見る意外な共通性

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左:アントン・ケル『キャセロール鍋』 1807年 アセンバウム・コレクション Asenbaum Collection, ©Asenbaum Photo Archive 右:ヨーゼフ・ホフマン『グラーッシュ用の器』1907年 アセンバウム・コレクション Asenbaum Collection, ©Asenbaum Photo Archive

実用性と簡素さを備えた手工芸が発展したビーダーマイヤーの時代。日常の工芸品は、シンプルで幾何学的な造形に装飾が控えめに施され、丁寧な手仕事によってつくられる。また銀器や家具、ガラス、陶磁器などに至るまで、暮らしに溶け込む機能美とぬくもりを備えている。一方で、時の流れとともに装飾性が増すにつれ、さまざまな様式が共存する自由な美意識が芽生え、後のモダンデザインの土壌となった。

19世紀前半のビーダーマイヤー銀器と、20世紀初頭にデザインされたウィーン工房の作品を見比べたい。たとえば、1807年のキャセロール鍋と、1907年に制作されたグラーッシュ(ハンガリーのスープ)用の蓋付き皿。1世紀を隔てた工芸品でありながら、フォルムや佇まいには驚くほどの共通性がある。それは世紀末のデザイナーたちがビーダーマイヤーの造形に理想を見出し、自らの時代にふさわしいモダン・スタイルの礎としたからだ。---fadeinPager---

女性の文化人やパトロン、それにアーティストにも注目! 

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右上:マリア・リカルツ デザイン画「扇を持つピンクのドレスを着た女性」 1916年 島根県立石見美術館 右下左:マリア・リカルツ テキスタイルデザイン「ハゴロモグサ」 豊田市美術館 右下右:テキスタイルデザイン「グナフィッシェ」 豊田市美術館 左:フェリーチェ・リックス(上野リチ) テキスタイル「クレムリン」 1929年 島根県立石見美術館

世紀転換期のウィーンにおいて輝きを放った女性の文化人やパトロンにも注目したい。 ベルタ・ツッカーカンドルは批評家としてウィーン工房を擁護しながら、ヨーゼフ・ホフマンがプルカースドルフに建てたサナトリウムの計画に携わる。またモラヴィアの実業家の妻、オイゲニア・プリマヴェージは、ホフマン設計の別荘においてウィーン工房の理念を取り入れた内装を取り入れ、第一次世界大戦後は工房の筆頭株主にもなり、経営にも参画した。

ウィーン工房では、ジュエリーやテキスタイル、モードといった分野において、制作者としても女性を積極的に登用。テキスタイルではマリア・リカルツらがデザインを担うと、絵画的で自由な布地を生み出す。グラフィックの分野ではディタ・モーザーが、寓意的な図像を取り入れたトランプや北欧神話をモチーフとしたカレンダーなどを手掛ける。さらに女性たちが多く活動した「芸術家工房」のメンバーである、ヒルダ・イェッサーやフェリーチェ・リックスらの作品も見どころといえる。

NUNOによるオリジナルのテキスタイルも公開

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『ウィーン・スタイル ビーダーマイヤーと世紀末』展示風景。

オットー・ヴァーグナーの郵便貯金局の家具や、初期ウィーン工房の幾何学的な銀器、美しい統一意匠のテーブルウェア、精緻なジュエリーやガラスビーズの装身具、サナトリウム・プルカースドルフの家具など多彩な作品が一堂に並ぶ本展。あわせてウィーン工房と関わりを持った陶芸家のルーシー・リーや、同じく工房で活躍し、後に京都に拠点を移したフェリーチェ・リックス(上野リチ)など、ウィーン・スタイルを継承した作家も紹介されている。

壁面や展示ケースを彩るオリジナルのテキスタイルにも目を奪われる。これは日本を代表するテキスタイルデザインスタジオ、NUNOがウィーン・スタイルを独自に解釈して制作したもの。コロマン・モーザーの椅子に着想を得た『アームチェア』や『格子』、幾何学的な窓枠を思わせる『市松枠』が空間にリズムを刻んでいる。ウィーンの精神を現代の日本に響かせるような、清新で洗練された世界観へと誘ってくれる。

※画像写真の無断転載を禁じます。

『ウィーン・スタイル ビーダーマイヤーと世紀末 生活のデザイン、ウィーン・劇場都市便り』

開催期間:開催中〜2025年12月17日(水)
前期:10月4日〜11月11日、後期:11月13日〜12月17日。※会期中一部展示替えを実施
開催場所:パナソニック汐留美術館
東京都港区東新橋1-5-1
開館時間:10時〜18時
※11/7 、12/5 、12/12 、12/13 は20時まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日:水 ※ただし、12/17は開館
入館料:一般 ¥1,500
※土、日、祝日は日時指定予約 ※平日は予約不要
https://panasonic.co.jp/ew/museum

はろるど

●アートライター / ブロガー
千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。