モダニズム建築の名手・坂倉準三の設計により、1964年に竣工した三重県伊賀市の「旧上野市庁舎」。伊賀上野城の麓に立つ低層の建物は、ガラス張りの水平窓が連なる、開かれた市庁舎として親しまれてきた。老朽化により解体の危機に直面したが、今年7月にホテル「泊船」として再生。来春、1階に公共図書館が開館し、新たな文化拠点として歩み始める。
文化財として保存しながら、改修設計を担ったのはMARU。architecture(マル・アーキテクチャ)。「地域に開かれた建築に、新たな魅力を重ねることを考え、建築と環境を緩やかにつなぎました」と語る。図書館は傾斜地を活かしたスキップフロアをベースに、ホテルとつなぐ階段を増設した。さらに、人や空気の流れを意識し、曲線的に書架を配置。歩を進めるごとに印象が変化する立体的な回遊性をもたらし、外に開かれた〝公園〟のような空間となっている。一方、ホテルは内へと向かう静けさを意識した。広い回廊を介して19室が並び、客室と共用部が緩やかに連続する。居室や扉の配置は継承しつつ、タモ材の壁を復元。面影を残しながら、左官材や障子で質感を重ね、温もりある空間に仕上げた。
時代の変化に対応して現代に継承された泊船。失われつつあるモダニズム建築を、未来へ渡す取り組みが試みられている。
泊船
住所:三重県伊賀市上野丸之内116TEL:0595-48-5190
営業時間:10時30分~20時30分
全19室
料金:スタンダードツイン¥30,700〜
https://hakusen-iga.com
【設計者】MARU。architecture
高野洋平と森田祥子が共同主宰し、住宅や公共施設など幅広いプロジェクトを手掛けるマル・アーキテクチャ。老舗生花店を改修した「花重リノベーション」(2023)で日本建築学会作品選奨など多数受賞。





