上の写真をよく見てほしい。十字形の背もたれに凹型をした鞍のような座面、5本のキャスターには足を乗せるフットステップと、これまでに見たことのないデザインの椅子が存在する。
この椅子はノルウェー生まれの「カピスコ」。
横を向いたり、後ろ向きに座ったり、脚を曲げたり開いたり、可能な限り多くの姿勢が取れるよう設計されている。ヨーロッパやアジアを中心に世界中のオフィスや学校、医療現場で愛用されているロングセラーチェアだ。
この奇抜なスタイルの椅子はなぜ誕生したのか? それは座ることそのものの常識を問い直すためであった。
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モンゴルの騎馬スタイルから着想

カピスコが発売されたのはいまから41年前の1984年。
この椅子の誕生の背景には、社会の発展によるライフスタイルの変化がある。70年代は先進国を中心に、電化製品が普及し始めた時代。掃除機や洗濯機、テレビ、自家用車などの登場により人々の生活は便利になった半面、座っている時間が大幅に増え始めた。すると腰痛や頭痛、肩こりなど身体の不調に悩まされる人が増加。この“座り過ぎ”による健康上の問題が社会問題となっていく中、椅子のデザインで解決を図ろうとの考えがヨーロッパを中心に生まれていた。

ところで、座り方が社会問題となる中、ヨーロッパではモンゴルの遊牧民についてある噂が広がった。
「遊牧民には腰痛がない」
彼らは馬のゆれに応えて体幹でバランスを取り、足先は鐙(あぶみ)を使ってコントロールしていた。さらに乗馬時、人の姿勢は骨盤が立っており、上体と腿の角度が広くなっている。乗馬とは、全身を動かしながら座っている状態であることなのだ。この事に気づいた者の中から、乗馬時のように身体を自在に動かせる椅子がつくれないだろうかと考える人が出てきたのである。

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権威からの解放を目指した椅子

乗馬時のように身体を自在に動かせる椅子。そんな、これまでにない椅子を実現させたのがデザイナーのピーター・オプスヴィック(Peter Opsvik)であった。
彼はノルウェーを代表する工業デザイナー。美術大学でインダストリアルデザインを学び、ラジオメーカーのデザイナーを経て独立。オプスヴィックは当時、デザイナーとして働きながらも、家では育児もこなしていた。育児をしている中で、子どもが大人用の椅子に座ることの弊害に気づいたオプスヴィックは1972年、子どもの成長に合わせて座面と足台の高さを調節できるかの有名な「トリップ・トラップチェア」を生み出した。この椅子は2016年までに1000万脚を売り上げる大ヒット商品であった。
オプスヴィックが最初に発表したのが「バリアブル」(1979)だ。
コの字形の脚と膝あて、座面からなるユニークな椅子は、さまざまな姿勢に対応できる製品として話題になった。折しも70年代は人間工学に基づき快適性や生産性、効率を向上させることを目的とするエルゴノミクス理論(人間工学理論)が盛んに論じられており、家庭用の椅子にもこの理論が取り入れられていた。しかしオプスヴィックの椅子へのあくなき追究は最新理論にとどまらず、さらに人と椅子の成り立ちに立ち返った。
椅子とは、元来人間社会のリーダーが、自らの力を誇示するために座るものだった。彼らが背もたれに合わせて背筋を伸ばす威厳のある座り方が座り方のスタンダードとなってしまった故に、現代人を苦しめることとなる。なぜなら、この座り方は長時間座るには不向きだからである。


オプスヴィックは、この問題点に気づき、再び子どもの動きに着目した。「子どもは本来、自由な姿勢で動き回っていたはずだ。正しいとされる座り方を教育されることで人は腰痛に悩んでいるのではないか」。彼は子どものように自由に動き回る姿こそが本来の姿であると思い至ったのだ。
そうして紆余曲折の末、オプスヴィックは1984年「カピスコチェア」をついに発表したのである。十字形の背もたれ、乗馬の鞍を思わせる座面、鐙のようなフットステップは、腕と脚のための自由な空間を設け、多様な姿勢が取れるように設計されており、これまでの模索の集大成となったのだ。
さて、従来の椅子の常識を根本的に問い直したカピスコであるが、いざ自由な座り方をどうぞと言われても、なかなか想像がつきにくいだろう。そこで、次からはその座り方の実例をお見せしていこう。
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「動きながら座る」を実現へ


まず足をフットステップに乗せ、座面の奥深くまで座ってみる。
次に十字形の肘当てに肘を当てると、背筋が伸びて、肩から胸が自然と開いていくのを感じるだろう。背もたれのロックを外すとさらに背中がぐんと後ろに反り、肩甲骨周辺の凝り固まった背筋がほぐされる。足をフットステップに乗せることにより下半身の動きにも自由度が増し、脚を曲げたり斜めに座ったりとフレキシブルな動作が可能になる。さらに身体の向きを後ろに変えて座れば、本を読んだり絵を描いたり、オフィスでは隣の人とおしゃべりしたりと別の動作への移行が実にスムーズだ。


カピスコの最大の特徴は、座った途端に意識せずとも身体が動いてしまう点にある。「動きながら座る」というオプスヴィックが長年追い求めた基本コンセプトは、カピスコで結実したと言えるだろう。
ちなみにオプスヴィックはジャズバンドのミュージシャンという一面を持っていたが、カピスコは座りながらギターやキーボードなど楽器を演奏しても肩や足回りが自由に動かせることから、ミュージシャンにも愛用者が多いことも付け加えておこう。


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動きが必要な現代人へのアンサー

日本人は一日の平均着席時間が7時間と、世界的にみても座っている時間が長いという調査結果が報告されている。PCやスマートフォンの普及による仕事のデスクワーク化、ゲームや動画視聴、電車での通勤・通学など、私たちは以前にも増して座り過ぎてしまう環境の中で暮らしている。スマホの長時間使用によって前傾姿勢が続き、現代では腰痛に加え、首や肩の凝りが深刻な問題となっている。
座っていながらにして自然に身体を動かし適度なストレッチもできるカピスコは、デジタル化が進んだ現在においても理想の椅子であり続けている。


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TEL: 03-4582-3318 / Email : cr_yebisu@plus.co.jp
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