オランダ・アムステルダムを拠点とするデザインスタジオ「Modem」が、夢を短い映像として再現するAIベッドサイドデバイス「ドリーム・レコーダー(Dream Recorder)」を開発した。このデバイスは、従来の睡眠モニタリングとは一線を画し、目覚め直後に語られる夢の記憶をもとに、生成AIを使って「夢の映像」を作り出すという画期的なものだ。
使い方はとてもシンプル。ユーザーは朝起きた際にドリーム・レコーダーに向かい、夢の内容を話す。AIがその記憶を解析し、印象派のような粗いタッチの映像として再現。スクリーンに映し出されるのは、どこか懐かしくもリアルな、記憶の残像のような夢の風景だ。
ハードとソフト、すべてがオープンソース
Modemの設計思想の根底には「オープンソース」がある。ドリーム・レコーダーのコードと設計ドキュメントはすべてGitHub上で公開されており、ユーザーは市販のパーツと3Dプリンタを用いて、自ら組み立てることができる。必要な部品は、HDMIスクリーン、8GBプロセッサ、USBマイク、microSDカードなどで、全体の費用はおよそ285ユーロ(約4万9000円)に収まるという。
Modemの共同創設者であるバス・ファン・デ・ポールとアスティン・ル・クレルクは、「スマートフォンや通知に支配される一日が始まる前に、潜在意識に思いを馳せることができるようなデバイスを作りたかった」と語っている。
夢を思い出すのではなく見返す時代へ
ドリーム・レコーダーには、最大で7日分の夢映像を保存できるスロットが搭載されている。繰り返し見ることで、夢に現れるモチーフやテーマを振り返り、自身の内面との対話を深めることが可能だ。
映像のビジュアルは、アーティストのアレクシス・ジャメットによるイラストレーションをベースにAIが学習したもの。ぼやけたグラデーションやローファイなテクスチャなど、独特のタッチが夢の曖昧さと幻想性を際立たせている。さらに、FFmpegによる意図的な映像劣化処理によって、リアルすぎない夢の質感が演出されている点も興味深い。
どこかレトロで懐かしい色合いの動画。
寝室に馴染むテクノロジーのかたち
ドリーム・レコーダーのデザインは、従来のテック製品とは一線を画す。ガジェットらしい硬質な構造を避け、柔らなフォルムを採用。ナイトスタンドに自然と溶け込むことを意図して設計されている。アプリや通知もなく、夜の静寂を妨げない。
Modemは、寝室を「スマートフォンのない聖域」と定義し、そこに置かれるべきプロダクトとは何かを問い直した。暗闇の中で静かに光るこのデバイスは、控えめな存在感でユーザーと向き合う。
技術よりも意図が問われる時代へ
AIという言葉が日常に浸透しつつある今、Modemは「技術そのものではなく、どう使うかが重要だ」と語る。ドリーム・レコーダーのように、生成AIを詩的な体験や個人的な内省のために使う事例はまだ少ないが、今後こうした方向性がより注目されていくかもしれない。