「スマホショルダー」という言葉を聞いて、どんなイメージを抱くだろうか。機能性を重視したカジュアルなアイテム、あるいは一時的なトレンドアイテムといった印象を持つ人が多いかもしれない。しかし、2018年に誕生したobjcts.io(オブジェクツアイオー)は、そうした既成概念を静かに覆し続けてきた。同ブランドが展開するMagWear(マグウェア)シリーズは、スマートフォンとの関係性を根本から見直し、デジタルデバイスを「身に着ける」という新たな価値観を提示している。プロダクトの完成度はもちろん、ライフスタイルに寄り添う思想そのものが、ブランドの個性を際立たせているのだ。
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「制限からの解放」を掲げるブランドの起源と哲学

オブジェクツアイオーの誕生は、自分たちのスタイルに合う、美しく機能的なPC用バッグが存在しないという課題から始まった。そこから生まれたのは、機能性を重視すれば美しさが犠牲になり、デザインを追求すれば実用性が損なわれる、という従来の常識への疑問だ。こうした問題意識は、やがてブランド哲学として結実していく。「"現代人の移動をアップデートする"をコンセプトに、審美性と機能性が高次元で調和されたプロダクトを生み出す。多様なデバイスとともに歩む日常を、美しく軽やかに変えていく。」——オブジェクツアイオーが掲げるこのミッションステートメントは、創業時の体験を価値観へと昇華させたものだ。

この哲学を実践するため、同ブランドは独自のアプローチを採用している。一般的なマーケティング手法とは一線を画し、抽象的なターゲット像ではなく、実在する人物を軸にした製品開発を行っているのだ。例えば、最初のバックパック製作時には共同創業者を、カメラバッグ開発時にはデジタルプロダクトに造詣の深いクリエイティブ・ディレクター/写真家の市川渚氏を想定ユーザーに設定した。こうした手法により、実際に存在し、コミュニケーションが取れる人物の具体的なニーズに応えることで、結果的に同じような価値観を持つ多くの人に支持される製品が生まれる。このアプローチこそが、真に必要とされるプロダクトを生み出すための礎だ。
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都市生活に溶け込む、"装具"としての実用性と審美性

マグウェアシリーズの製品は、MagSafe対応のカラビナ付きiPhoneケースと、マグネットで着脱可能な3種類のストラップ付属型アクセサリー(カードケース、ウォレット、マイクロバッグ)で構成される。一見シンプルなシステムに映るが、実は深い考察に基づく設計思想が貫かれている。その思想は素材開発にも顕著に表れる。オブジェクツアイオーは、この分野においても決して妥協を許さない。レザーひとつを取っても、防水性能を持つものから、質感と耐久性を両立させたものまで、用途に応じて最適な素材を厳選。さらに豊富なカラーバリエーションを展開することで、ユーザーの多様なスタイルに応える選択肢を提供している。

マグウェアの真価は、細部への配慮が生み出す使用シーンの多様性にある。なかでも注目したいのが、カラビナ付きケースでの使用を前提とした設計。通常はしっかりとホールドしつつ、必要なときにはスムーズに着脱できる。その絶妙なバランスは、日常の動きと高度に調和する。さらに、平日はカードケースを装着してビジネスシーンで活用し、休日のアクティブな場面ではストラップのみのシンプルなスタイルに変更するといった使い分けも可能だ。こうした機能性は、開発段階での徹底的な検証やユーザーフィードバックを経て、かたちにされたものである。
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「持つ」から「着る」へ、変化するライフスタイル
オブジェクツアイオーのデザイン哲学において注目すべきは、iPhoneという特定ブランドへの依存を避け、あくまで「人」と「道具」の関係性に焦点を当てている点だ。生成AIに象徴される加速度的なテクノロジー進化のなかでも、生活の本質を見失わない姿勢が際立っている。彼らは、デジタルデバイスをどう扱うかではなく、どう“纏うか”という新たな視点から接しているのである。この変化は、一過性のトレンドではなく、時代とともに関係性を再構築するという哲学的な問いかけでもある。道具との付き合い方を見直すという意識が、同ブランドの開発思想に深く根を下ろしているのだろう。

機能性と美しさを高次元で融合させる挑戦は、従来の「持つ」アクセサリーから「着る」プロダクトへの進化と深く結びついている。中でも、人の行動を制約せず、むしろ広げていこうとする姿勢は、バッグ製作の経験に裏打ちされた発想と言えるだろう。この思想は、日々の所作に寄り添う道具としての視点へとつながり、マグウェアシリーズにも確かなかたちで表現されている。スマホを身体の延長として捉えるその意識は、装いと機能が交差する領域に新たな意味を与え、デバイスとの関係を生活の核心へと引き寄せていく。2025年、私たちが迎えるのは、テクノロジーとの共存が自然となる、そんな日常である。