詩人・最果タヒの言葉と出会う空間。詩のインスタレーションで埋め尽くされた企画展が、前橋文学館で開催中

  • 文:Pen編集部
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最果タヒは、第12詩集『恋と誤解された夕焼け』で第32回萩原朔太郎賞受賞。街を散策しながら詩と出合える『まちなか展示』も同時に開催している。写真:木暮伸也

スマホを手に詩を書き、素顔も経歴も明かさないまま、言葉だけを世に送り続けてきた詩人、最果タヒ。2017年にはPenクリエイター・アワードを受賞し、詩を軸に映画や音楽、アートへと活動の幅を広げてきた。前橋文学館で開催中の『第32回萩原朔太郎賞受賞者 最果タヒ展』は、受賞作『恋と誤解された夕焼け』や書き下ろしの新作を中心に、詩を“読む”だけでなく“体験する”インスタレーションとして、その世界を空間に落とし込んでいる。

4つのセクションで構成される本展の展示構成とデザインを手掛けたのは、最果の詩集装幀をはじめ、長年にわたり彼女の言葉と向き合ってきたデザイナーの佐々木俊だ。言葉を文字として届けるだけでなく、空間に解き放つことで、その可能性を広げていく試みは、会場のあちこちに息づいている。例えば、最果のスマホの中で詩が生まれる瞬間を映す「詩っぴつ中」、鮮やかな色とかたちが詩を視覚化する「詩の看板」、来場者の動きや風の揺れで二度と同じ姿を見せない「詩のモビール」、そして1秒ごとに言葉が変わり続ける詩の時計「いまなん詩''?」……。どの作品も、詩を“完成品”としてではなく、常に揺らぎ、呼吸しながら生まれ続けるものとして表現している。「詩は読み手の中で完成し、その人だけの作品になる」と最果が語るように、展示に明確な答えは用意されていない。詩は来場者の記憶や感情に呼応し、同じ言葉でも、それぞれの心の中で異なるかたちを取る。

触れる人の数だけ更新され、時にこぼれ落ちていく最果が生み出した言葉たち。その不確かさと自由さの中で、詩と向き合い、まだ知らない自分に出会う時間が、この展示にはある。

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47本のモビールで構成された「詩のモビール」。『夜空はいつでも最高密度の青色だ』や『不死身のつもりの流れ星』など、過去の詩集から抜粋された言葉を表裏に印刷。写真:木暮伸也
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黒壁には、受賞作に収載されている「世界線」や「愛になる」に加え、同展のために書き下ろした新作「真珠の詩」の3篇も展示。写真:木暮伸也
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最果タヒの詩を、グラフィックデザイナーの佐々木俊が独自のアプローチで再解釈し、鮮やかな色とかたちで大胆にグラフィック化した「詩の看板」。写真:木暮伸也
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iPhone画面で詩を綴っていく過程をキャプチャ録画した映像作品。詩が生まれる瞬間が映し出され、打たれる言葉に加え、途中で加筆や修正をしたり、止まったりする様子もリアルに再現する「詩っぴつ中」。写真:木暮伸也
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本展のロングフラッグ。写真:木暮伸也

『第32回萩原朔太郎賞受賞者 最果タヒ展 愛を囁くのは世界の方で、私たちはそれを二人で聞いている。ここで、二人で真珠になろう。』

開催期間:開催中~9月21日(日)
開催場所:萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館 2F企画展示室
群馬県前橋市千代田町3-12-10
開館時間:9時~17時 ※最終入館は16時30分まで
休館日:水
入館料:一般 ¥700
www.maebashibungakukan.jp/kikaku/7229.html