
今年4月に開催された「オートモビル カウンシル」をレポート。これまで2本の記事を掲載し、ジョルジェット・ジュジャーロのデザイン車と、ドイツ車を取り上げてきた。最終回となる今回は、イタリア車とイギリス車に焦点を当てる。まずは、スタイリッシュながら丸みを帯びたやわらかさを併せ持つ、イタリア車からだ。
フィアットアバルト1000 ビアルベーロ(1960年)
ビアルベーロとはツインカム、すなわちDOHCエンジンのこと。この時代のアバルト社の代表的なGTタイプのレーシングカーである。ボディバリエーションはいくつか存在するが、こちらは「ラウンドテール」と言われる丸みを帯びたリアエンドのモデル。「ベッカリス」とはイタリア・トリノのカロッツェリアの名称だ。
フェラーリ330GT(1967年)
330GTには、丸目4灯のシリーズ1と丸目2灯のシリーズ2の2種類あるが、こちらは人気の高いシリーズ2の最終モデル。2by2の4人乗りだ。エンジンは伝統的なコロンボV12エンジン4L、300PSを発生する。まさにフェラーリの中でもグランドツアラー的な存在だ。あのエンツォ・フェラーリが日常の足に使っていたと言われている。
マセラッティ クワトロポルテ エヴォルツィオーネV8 コーンズセリエ スペチアーレⅡ(2002年)
高額なクルマが続いたが、こちらは現実的な価格である。当時、フェラーリ傘下にあったマセラッティがフェラーリの技術支援の下、品質を向上させたモデルがエヴォルツィオーネだ。V8DOHC3.2Lツインターボエンジンは335PSを発生、0-100km/h 5.8秒は相当な速さ。コーンズセリエ スペチアーレとは当時、正規輸入元であったコーンズが特別にマセラッティにオーダーしたモデルのこと。
フェラーリ456M GTA(1999)
456Mは456GTの改良版、GTAはミッションがオートマチックであることを意味する。4人乗りトルコン4速ATのグランドツアラー的なフェラーリだ。5.5LV12エンジンからは442PSを発生。当時のカタログによると最高速は300km/hとのこと。クラシックで美しいFRフェラーリのデザインは、ピニンファリーナによるものだ。大人のフェラーリの証である。
フェラーリ 308GTB(1979年)
現代に繋がるミッドシップフェラーリの元祖的な存在。GTBがクーペボディ、GTSがタルガトップタイプのオープンモデルになる。デザインは512BBやF40を手掛けたピニンファリーナのレオナルド・フィオラヴァンティ。2.9L V8DOHCエンジンからは230PSを発生した。いまなお色褪せない美しさを湛えるフェラーリデザインの傑作である。
フェラーリ テスタロッサ(1990年)
最終モデルに近いのが、このテスタロッサ。しかも、フェラーリがオリジナル性の高さから公式認定したクラシケを取得しているのが魅力だ。4.9L水平対向12気筒から385PSの出力を発生し最高速は290km/h、まさに当時のキング・オブ・フェラーリ。そのエクゾーストノートはとても官能的だ。
FIAT 508 SIATA(1936年)
このクルマが日本に存在していたとは……と言えるほどレアなクルマである。1930年代ヨーロッパ各地のレースで活躍したクルマが、この508 SIATAだ。イタリアのチューニングメーカーSIATAがFIAT508 BalilaをベースにOHV化やキャブレターの改良を行いチューニングをしたコンペティションモデル。丸味を帯びた流麗なボディラインが実に美しい。
アルファロメオ スパイダーデュエット1300ジュニア(1969年)
1300直4DOHCエンジンからは89PSの力を発生させる。軽快なドライビングを楽しめる高回転型のツインカムエンジンを搭載し、ピニンファリーナの美しいデザインと相まって人気の高いクルマだ。パワーより運転の楽しさを追求したクラシックアルファらしいモデル。
フェラーリ 512BBi(1981年)
キャブレター仕様の512BBをメカニカルインジェクション化したモデル。5L水平対向12気筒エンジンは340PSを発生。クラシックフェラーリというと、このクルマを連想される方も多いはず。リトラクタブルヘッドライトと抑揚のある美しいデザイン、365GT4BBから始まるこのモデルの完成形だ。
コンテンポラリー コブラ427(1989)
こちらはシェルビーコブラ427のレプリカモデルである、コンテンポラリーコブラ。レプリカといってもオリジナルに極めて忠実な設計と構造を持つ、アメリカ製の高品質モデルである。‟427”はご存じ「427キュービックインチ」の意味でフォード製ビックブロックV8OHVの排気量は7L。グラマラスなボディからは豪快な走りが期待できる。一度は体験してみたい刺激的な1台だ。
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さて、ここからは、紳士の国らしくフォーマルなデザインと気品ある優雅さが特徴のイギリス車をご紹介しよう。
ジャガーXJ-6C 4.2クーペ(1977年)
XJサルーンの優雅さを纏いながら、そのままクーペにリデザインした美しいボディが特徴だ。伝統的なXKエンジンである4.2L直6DOHCエンジンは170PSを発生させる。筆者もこの同型車を運転したことがあるが、とても軽快でスポーティ。V12に比べ、維持しやすいのも美点だ。
アルヴィス コンティニューエーションモデル 4.3L ランスフィールド・コンシールド・フード(2025年)
もはやこのイベントの顔と言ってもいい存在、それが毎年出展されるアルヴィスだ。1919年の英国コベントリーで創業したアルヴィスには、当時のクルマをレストアした「レストレーションモデル」と、過去のクルマを忠実に復刻した「コンティニューエーション・シリーズ」のふたつが存在する。このクルマは後者だ。エンジンはアルヴィスオリジナルの4.3L直6OHV。アールデコ調のエクステリアにウォールナットを贅沢にあしらったインテリア。その優雅さから「世界で最も美しいクルマの一つ」と称されるのも頷ける。まさに、ため息が出るほどエレガントな一台だ。
アストンマーチン V8ボランテ(1986年)
アストン製5.3L V8DOHCエンジンは305PSを発生。最高速は230km/hに到達する。迫力のあるデザインながらエレガントさも兼ね備えるところは流石ピニンファリーナデザイン。正に紳士に相応しいスポーツカーだ。
モーガン プラス4(1964年)
クラシックなスタイルを現代にまで受け継ぐモーガン。現在もほぼ同じデザインの新車が購入可能な稀有なブランドだ。こちらのクルマは1964年製、とてもきれいにレストアされていた。スチール製のラダーフレームのシャーシーに組み合わされるボディはまさかの木製パーツ。これはドアや床、リアセクションなど軽量化のため。エンジンはトライアンフの2.1L直4OHV、出力は100PSを発生、ボディは900kgを切るため、軽快な走りだ。「プラス4」は4気筒モデル、よりパワフルなローバー製V8OHVエンジンを搭載した「プラス8」も存在する。
ロールスロイス コーニッシュ(1972年)
ボディのコーチワークは、あのマリナー・パークウォード、金に糸目をつけずにつくられたボディと、贅の限りを尽くした内装は一切の過剰さや、いやらしさがなく、まさにロールスの真骨頂といえる。コーニッシュとは南仏の海沿いの道のことで、このエレガントなオープンモデルが最も似合うシチュエーションだ。エンジンはロールス伝統の6.75L V8OHV。必要にして十分なパワーとして当時、エンジンスペックは公表されていないのもロールスらしい。こんな一台でリゾートに向かえたなら、それはまさに優雅の極みだ。
ロータスエラン 26R(1965年)
エラン・オーナーの垂涎の的、それがこの「26R」だ。レース専用のモデルでロータスのファクトリーでつくられた台数は97台と言われている。こちらのクルマはエランS2に26Rとして正式に認証されたパーツを組み込んだコンプリートモデルだ。1960年中盤、このクルマはレースで大活躍した。オリジナルは博物館級の価格となってしまったからこそ、このクルマでヒストリックカーレースに出場し、思いのまま走らせるのもよいだろう。
ロータス(ケータハム)スーパーセブン 40thアニバーサリーモデル 1.7L(1998年)
生産台数がわずか67台と言われる40th記念モデル。ダッシュボードには、その記念プレートが貼られている。ボディはヘッドカウルやフェンダーがアルミむき出し、赤い革で覆われたメーターパネルのレイアウトも助手席側にスピードメータが配置され、通常モデルとは全く異なる。極めて希少なセブンである。
ジャガーEタイプ シリーズ1(1966年)
ついにやってきたトリのクルマは、ジャガーEタイプ。しかもEタイプの中でも最も人気のあるシリーズ1だ。初期モデルは直6DOHC 3.8Lだが、1964年から4.2Lへと進化。最高出力は265PS、最高速度は240km/hにまで達する。あのフェラーリの創業者エンツォ・フェラーリが「最も美しいクルマ」と語ったのは有名な話である。クーペボディもいいが、やはりオープンモデルであるロードスターに華がある。いつかは手にしたいモデルであったが価格が高騰し容易には手の届かない存在となってしまった。
さて、このほかにも会場ではカー用品やミニカーなどを販売するマルシェと言われるショップがとてもにぎわっていた。トークショーそしてクラシックコンサートやJAZZなどの生演奏もあり、単なるクルマの祭典ではなく、大人のたしなみの場としても進化しつつあると感じる。唯一残念なことは、ビンテージカー全体の価格が近年のクラシックカーブームにより高騰してしまったことだ。もう少し手の届くモデルが増えるとうれしいと思った次第である。オートモビルカウンシルは、国内においても稀有な存在であり、真に貴重な文化的イベントといえるだろう。これからもよりクルマ文化の醸成に寄与し、世代を超えて楽しめる場として進化していくことを願ってやまない。
(紹介している情報は25年4月11日時点のものです。詳細は販売店にお問い合わせください)
オートモビル カウンシル2025
開催期間:2025年4月11日~13日
開催場所: 幕張メッセ 国際展示場 9/10/11ホール
https://automobile-council.com