モダンデザインの現代的な意味を再考する、没入型ステージ

  • 編集:猪飼尚司
  • 文:土田貴宏
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2025年のミラノデザインウィークを物語るひとつのキーワード「没入感」。数多ある出展の中でも、そのエッセンスを強く感じさせたカッシーナのクリエイションをつぶさに見ていこう。

いま、ヴィンテージが面白い。本特集では、目の肥えたクリエイターたちが愛用している品から、いま訪れるべき話題のギャラリーや海外での暮らし、人気店のオーナーが目をつけているネクストブレイクまで、ヴィンテージの魅力や注目アイテムを徹底取材してお届けする。ようこそ、まだ見ぬ、奥深きヴィンテージの世界へ。

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モダニズムを現代の視点で考察し、舞台に昇華

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1週間にわたり「ステージング・モダニティ」の会場になったのはミラノ中心部の劇場、テアトロ・リリコ。正面の舞台だけでなく客席にも複数のステージを配してパフォーマンスを行った。 photo: Omar Sartor

舞台に置かれたのは、ル・コルビュジエ、シャルロット・ペリアン、ピエール・ジャンヌレが共同で1929年に手掛けた家具コレクション。一連の鋼管家具の周囲には実物大の動物のフィギュアがあり、そしてパフォーマーがいる。

イタリアを拠点とするフォルマファンタズマによる展示「ステージング・モダニティ」は、名作家具が象徴するモダニズムの意味を現代の視点で考察し、舞台化したものだ。カッシーナがこれらの復刻を始めてから60年。その周年にふさわしい野心的な試みは、スケールの大きな物語と空間演出を通じて来場者にメッセージを伝えた。

モダニズムは一般に、自然と相対するものと位置づけられる。近代化が環境破壊や気候変動を起こしてきたことは否めないからだ。ステージング・モダニティはそんな二項対立を超え、生態系全体の中でモダニズムを捉え直す。難解な題材だが、来場者さえもその世界に取り込むような空間構成の見事さとパフォーマンスの力強さが直感的に理解を助けてくれる。

それにしても、これはデザインだろうか? 答えはイエスだ。現代のデザインは、刺激的な体験を通して新たな視点を得るためのツールでもある。今年もミラノデザインウィークは、クリエイションの確かな進歩を実感させる場として機能していた。

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1929年にコルビュジエ、ペリアン、ジャンヌレの鋼管家具が発表されたパリのサロン・ドートンヌでの伝説的な家具展をモチーフに、それぞれのステージ上に家具が配置された。 photo: Omar Sartor

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右:椅子は「フォートゥイユ グラン コンフォール」。コルビュジエらによる家具の傑作とされるが、今回の舞台では生態系の中で相対化することでそのあり方の再定義が試みられた。 左:スツール「タブレ トゥルナン デュラーブル」。パフォーマーはときには家具に座り、ときには客席に入り、ここでしかできない体験を来場者にもたらした。 photo: Omar Sartor
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