時間をかけても訪れたい! 超稀少な北欧レアピースが揃う「チッカディー&ホーム」

  • 写真:齋藤誠一
  • 文:高橋美礼
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足をのばして、時間をかけても訪れたい店がある。東京ではなかなか目にできない逸品や店主と出会うことで、自分の中に眠る感性や目が養われ、気付きを得るはずだ。

いま、ヴィンテージが面白い。本特集では、目の肥えたクリエイターたちが愛用している品から、いま訪れるべき話題のギャラリーや海外での暮らし、人気店のオーナーが目をつけているネクストブレイクまで、ヴィンテージの魅力や注目アイテムを徹底取材してお届けする。ようこそ、まだ見ぬ、奥深きヴィンテージの世界へ。

『ようこそ、 ヴィンテージへ』
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製作時の背景と一緒に魅せる、北欧レアピース

【チッカディー&ホーム】

 

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沼田寛彦(ぬまた・のぶひこ)●1976年、宮城県生まれ。2011年、仙台市に北欧ヴィンテージ家具・雑貨店「チッカディー&ホーム」をオープン。販売のかたわら、稀少なヴィンテージ家具・雑貨の収集を続け、24年に私設デザインミュージアム「ヌマタ(デザイン+アート)ミュージアム」を創設した。

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店に足を踏み入れると、70年以上前に生まれたとは思えない美しい状態のヴィンテージが並ぶ。美術館レベルの貴重な家具が、暮らしの中で使うことを前提にオーバーホールされている。

「現地へ足を運び、どういう背景でつくられたのか、理解した上で買い付けることを大切にしています。ものづくりの考えを知り、オリジナルの状態を自分の目で見て、コレクターやディーラーと会って話を聞く。貴重なヴィンテージを買ってくれるお客さんには、その背景も一緒に伝えたいから」

仙台駅からクルマを15分ほど走らせた静かな住宅街に立つ「チッカディー&ホーム」。看板が小さく外観も控えめなこの店を侮るなかれ。北欧を中心としたデザイナーのレアピースが集まる宝庫だ。オーナーの沼田寛彦は、徹底している。圧倒的な知識量に裏付けられた審美眼で、世界的にも稀少な家具を選び抜いてきた。オープン14年目のいまも、毎年2カ月ほどは海外の市場を巡り、メーカーやデザインアーカイブを訪問する。年間に買い付けるアイテムは500ピースほど。その多くは入荷後1年以内に売れてしまう。

また、手元に届いたものには、いちからメンテナンスを施す。傷んだ木材を削ぎ落とし、布地や革を張り替えるのだが、ここでも沼田の見識が冴えわたる。

「できるだけオリジナルに近づけるために必要な生地や皮革を選びます。たとえば、アイノ・アアルトがサヴォイレストランのためにデザインしたチェアは、レストランへ行って張り替え生地や仕様をチェックしてきました。デンマークにいる知人の職人にも教わるし、日本での張り替えは国家技能士検定1級の保持者が担います」

1930年代につくられた木製家具が90年以上経った現代に残されているのは、上質なものづくりと高い品質の証しでもある。

「一度きちんと直せば、また70年くらい使い続けられる。手を入れすぎると新品のようになってしまうので、製品の性質を踏まえながら、徹底的に綺麗にします」

味わい深い古さだけをよしとしない──オリジナルを入手して“受け継ぐ気持ち”で使い続けるというヴィンテージの魅力が、いっそう増幅される。

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一軒家の店舗近くにもうひとつ設けられている倉庫兼ワークショップスペースでは、大掛かりな修理を手掛ける。購入したヴィンテージを自分の手で修復したいという人も多い。
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ヴィンテージの中でもレアなカレリアンバーチ材のスツール60。価格は個体により差があるため要問い合わせ。「一般にはレッグのスリットは4本とされていますが、5本や6本のものも存在します。さまざまなディテールから年代判別も可能です」
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アルヴァ・アアルトのソファ「579」は1960年代のもの。「ふたり掛けがポピュラーですが、自邸ではこの3人掛けを愛用していたと言われています。ゼブラ柄のクッションも当店ではアアルトの自邸と同じものです」。ソファー¥2,680,000、クッションは非売品。
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コーア・クリントのフォーボーチェアは1930年代製をレストアした。「木の部分は剥離してからカンナをかけて、ラタンを編み直し、革も張り替えてあります。できる限りオリジナルの状態を取り戻してさらに長く使ってほしいですから」。¥1,680,000。
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倉庫の中にも、優れた家具や雑貨が数多く並ぶ。右の木製スタンドミラーはエリック・ホグランによる木製家具シリーズのひとつ。¥368,000。左はガラスシェードのランプで知られるヴィルヘルム・ワーゲンフェルトによるガラス製ベース。¥198,000。
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バンブー製の持ち手が付いているカイ・ボイスンのカトラリー。各¥12,800〜。

チッカディー&ホーム

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徒歩圏内に2カ所店舗があり、写真はその1カ所。ヴィンテージ家具の取り扱いと並行して建築インテリア設計も行うオフィスや倉庫も併設。買い付けで海外渡航する期間もあるため、訪問時は事前にSNSなどの確認を。

住所:宮城県仙台市若林区遠見塚2-25-33
TEL:022-781-3060
営業時間:12時~18時
休館日:水、その他不定休
https://chickadee.jp

 

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コレクター垂涎の収蔵群! “本物”と出会える美術館を新設

【ヌマタ(デザイン+アート)ミュージアム】

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美術館の展示スペースは1階と2階に分かれている。アアルトを中心としたフィンランドの家具が並ぶ2階は、アーティストのロバート・アーウィンにインスパイアされた、縦長の窓と真っ白でシンメトリーな空間。 

宮城県川崎町の雄大な自然に囲まれた「ヌマタ(デザイン+アート)ミュージアム」。ショップを営む一方で沼田が収集してきた、稀少性が高い北欧ヴィンテージに加え、現代の優れたプロダクトやアート作品をじっくり鑑賞できる私設美術館だ。「チッカディー&ホーム」からクルマで約40分。クルマでしかアクセスできない立地だが、必見のコレクションが並ぶ。

「学生時代に旅行したロンドンで初めてデザインミュージアムを見た時の衝撃が忘れられませんでした。テレンス・コンラン卿が自身のコレクションを公開する目的で建てた小さな美術館が始まりでしたが、オリジナルの価値に触れながらデザインに親しむ場所になっていて……。ヴィトラのミュージアムなども同様です。その時の経験から、オリジナルにはデザインされた当時の考え方が表れ、作者本人をいちばん感じ取れるところに魅力があると思っています」

収蔵品は1930年代のアルヴァ・アアルトのコレクションが充実し、インテリア用品を中心に、入手困難かつコレクター垂涎のアイテムばかり。ドナルド・ジャッド、杉本博司らの芸術作品とともに唯一無二の空間を創出している。

「並べているのは、基本的に僕が欲しいものばかり。特に若い人には多くのオリジナルを見て、知ってもらいたいですね」

沼田が学生時代にロンドンで受けた衝撃を追体験する──そんな可能性に満ちた、時間と労をかけてでも訪れたい場所だ。

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1階はおもに1940〜60年代のデンマークの家具を展示。周囲の山々が借景になるように設計され、北欧家具と大自然の相性のよさを再認識させる。
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アルヴァ・アアルトが手掛けたパイミオのサナトリウムの家具は、すべて当時のオリジナル。ワードローブや洗面ボウルといった、商品化されていないコレクションも充実。
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ハンス・ウェグナーの自邸と同じダイニングセット。テーブル「JH-756」、チェア「JH-701」、ペンダントランプ「JH-604」はすべて1950〜60年代に製造されたオリジナル。壁面には、フィン・ユールが自邸に敷いていた、アンナ・トーメセンによる織物作品が。
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ディーター・ラムスが1972年にデザインしたラウンド・ダイニング・テーブルに、アーティストのトム・サックスがインスタレーションに使用したNASAチェアを組み合わせて。展示の一つひとつに、ミュージアムの個性が際立つ。
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ミュージアムショップには、グラスや陶器のヴィンテージなど、「ここでしか買えないもの」が並ぶ。また、Tシャツやキャップなどは同館のロゴなどを手掛けたグラフィックデザイナーの平林奈緒美によるオリジナルデザイン。
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北欧ヴィンテージ家具以外の展示品も充実。ディーター・ラムスのラジオやレコードプレーヤー、日本で初めて発売された当時のアップルコンピューター、オリベッティ社のデザインしたタイプライター、ソニーのラジカセなどが揃う。
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入り口のカウンターに張られているのはアルヴァ・アアルトが1950年代にデザインしたタイル。「アアルトの陶器と同じアラビア製で、アアルトミュージアムの地下のカフェでも使われているタイルを1枚ずつ施工しました」

ヌマタ(デザイン+アート)ミュージアム 

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森に囲まれた北欧のミュージアムを彷彿とさせる、自然豊かな場所に建設された同館。金土日と祝日は予約不要で入れるが、月火木は1週間前までにメールでのアポイントが必要。eメール:info@ndam.jp

住所:宮城県柴田郡川崎町今宿字向古関184-5
TEL:0224-86-9930
開館時間:10時~17時 
休館日:水(祝日の場合は翌日)
https://ndam.jp

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