フラワーチルドレンに愛されたワーゲンバスが”復活”、フォルクスワーゲン「ID. Buzz」が上陸

  • 文:小川フミオ
  • 写真:フォルクスワーゲン ジャパン
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フォルクスワーゲンのキュートなルックスのミニバン「ID. Buzz(アイディーバズ)」が、2025年6月に日本で発売された。

デザインソースは、1950年に登場して、67年まで生産されたフォルクスワーゲンのミニバン、通称「タイプ2」。1945年に連合軍の力を借りて本格的な量産体制に入ったビートルが「タイプ1」と呼ばれるのに準じた呼び名だ。モデルチェンジを繰り返して、今回の第7世代に至る。その中で「T1」と呼ばれるタイプ2の第1世代が、とりわけID. Buzzのオリジン。

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広い室内スペースがセリングポイントのID. Buzz。(写真:筆者)
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ID. Buzzと「タイプ1」を並べてプレゼンテーションをするフォルクスワーゲンジャパンのブッシュマン氏。(写真:筆者)

「1960年代のヒッピー世代にも愛された、自由の象徴でもありました」

フォルクスワーゲンジャパンのブランドディレクターを務めていたイモー・ブッシュマン氏は、東京・六本木ヒルズに一角で行われた発表会でそう語った。60年代に米国のカウンターカルチャー(反抗文化)の波をかぶった人にとって、思い入れの深いのがタイプ2。ドイツから輸入され、若者を中心に、移動と自由の概念を結びつけるのに大きな役割を果たしたという。 

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かつてDDB社が制作したマイクロバスの広告では、当時流行っていた環境保護的な概念「Think Small」をもじったコピーがユニーク。

ボディタイプは多様で、マイクロバスから商業バンまで数多くのバリエーションがあったのも人気の要因だった。もうひとつは、米国でフォルクスワーゲン車の宣伝を請け負っていたDDB(ドイル、デーン、バーンバック)社による、ユーザーと製品の距離を縮める上手な広告。

個人的に感心したのは、当時の米国でヒッピーに深く愛されたロックバンド、ザ・グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアが1995年に死去した時。タイプ2でツアーを行っていた”デッド”のリーダーの死を悼んだフォルクスワーゲン(USA)はローリングストーン誌にタイプ2のフロントビューの線画を掲載。「Jerry Garcia. 1942-1995」のコピーとともに、描かれたタイプ2は大きな涙のしずくをぽろりと流していた。

このビジュアルは後で見かけたのだけれど、デッドヘッズのみならず、ロック好きにとって強力なインパクトがあった。ユーザーとの精神的な繋がりこそ、フォルクスワーゲンが常に追い求めてきたものなのだ。

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ロングホイールベース版は7人が余裕で乗っていられるスペースを持つ。

発表会が行われた六本木の舞台には、ホワイトとイエローに塗り分けられた車体のT1が持ち込まれ、マイクロバスのレガシーを強調していたのが印象的だった。

フラワーチルドレン(当時のヒッピー)に愛されたタイプ2は「現在もフォルクスワーゲンのクラシックモデルの代表として、世界中の多くのファンを魅了しています」と、フォルクスワーゲン・ジャパンではプレス資料で説明する。

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長いルーフに大きなボディパネルだが平板に見えないデザイン性の高さが魅力的。

ID. Buzzは「そのワーゲンバス(T1のこと)を、最新の電気自動車の技術を投入して蘇らせた」モデルとされる。並べて見ると、50年代のモデルと取り違えることはまずなさそうだが、それでも、どことなく人間の顔を思わせるフロントマスクや、車体色と内装の色づかいなど、単なる移動の道具、と突き放せない雰囲気がある。

自分のクルマに“マチルダ”とか“バグ”とか「名前をつけるまで、フォルクスワーゲンとは呼べない」。ID. Buzzも、かつてT1がヒッピーに愛されたように、愛着を持って接してもらえる存在になれたら、とブッシュマン氏は言う。

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静かで力強い走りは写真の標準ホイールベース版もロングホイールベース版も同様。

日本に導入されるのは2モデル。「ID. Buzz PRO」と「ID. Buzz Pro ロングホイールベース」だ。

ID. Buzz Proは2990mmのホイールベースを持つシャシーに、全長4715mm、全幅1985mm、全高1925mmのボディが乗る。ID. Buzz Pro ロングホイールベースは、レクサスLSの3125mmより長い3240mmのホイールベースを持ち、全長4965mmの車体を載せる。全幅と全高は標準ホイールベースモデルと同一だ。

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インテリアの意匠と質感と色づかいは抜群の仕上がり。

標準ホイールベース車は6人乗りで、ロングホイールベース車は7人乗り。後者の3列目シートも大人にとって十分なスペースがある。私はそこに座ってアウトバーンを200kmぐらい走ったことがあるけれど、まったく疲れなかった。

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ロングホイールベースの室内は広く、3列目(上左)も余裕がたっぷり。

6人乗りのほうにも魅力がある。2列目シートは間に大きめのスペースが開いたキャプテンシート(アームレスト付き)なので、後ろの席とのウォークスルーが可能。さらに前席の間もウォークスルー化が可能なので、これはこれで移動中も楽しい。

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標準ホイールベース版の2列めシート(上右)はアームレストを持つキャプテンシートで、中央はウォークスルー可能。

バッテリー駆動の後輪駆動で、モーターの出力210kWとトルク560Nmは、2モデルともに共用。一充電走行距離は、標準ホイールベース車が524kmで、駆動用バッテリーの容量がすこし大きなロングホイールベース車が554km(ともにWLTC)だ。

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IDはVWのBEVのシリーズ名で、BUZZは「バズる」と「(マイクロ)バス」をかけた造語。

フォルクスワーゲン ID. Buzz Pro(同LWB)

全長×全幅×全高:4715(4965)×1985×1925mm
ホイールベース:2990(3240)mm
車重:2550(2720)kg
電気モーター×1 後輪駆動
駆動用バッテリー容量:84(91)kWh
最高出力:210kW
最大トルク:560Nm
一充電走行距離:524(554)km(WLTC)
乗車定員:6(7)名
価格: 888.9(997.9)万円
問い合わせ: フォルクスワーゲン ジャパン
www.volkswagen.co.jp