ルノワール×セザンヌ、巨匠ふたりの関係性と違いが面白い! パリを代表する美術館の名品たちが東京に集結

  • 文&写真:はろるど
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ポール・セザンヌ『セザンヌ夫人の肖像』 1885~1895年、オランジュリー美術館 妻オルタンス・フィケに室内でポーズをとらせて、多くの肖像画を制作したセザンヌ。背景には青と緑のタッチに加えて余白が用いられているが、それらは露出したカンヴァスの白い地塗り層を活かしている。

ピエール=オーギュスト・ルノワールとポール・セザンヌに焦点を当てた『ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠』が、東京・丸の内の三菱一号館美術館にて開かれている。印象派、ポスト印象派と美術史上はやや時代がずれるものの、同年代の2人の画家の意外と知られていない関係とは?

家族ぐるみの付き合いも⁉ 生涯にわたって良い関係を築く2人

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右:ピエール=オーギュスト・ルノワール『ピアノの前のイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル』 1897年頃、オランジュリー美術館 左:ピエール=オーギュスト・ルノワール『ピアノの前の少女たち』 1892年頃、オランジュリー美術館 1890年代のルノワールは決まったいくつかの主題を繰り返し描いて、その中に手紙を読んだり、ピアノを弾いたり、また花をつむといった少女たちの姿があった。

エクス=アン=プロヴァンスの銀行家の息子として生まれたセザンヌ。法学を学ぶものの、パリに出て画家へ転向すると、エクスとパリを往復して自らの制作に打ち込んでいく。セザンヌは印象派の画家の集まりに顔を出すことはあっても、ピサロやルノワールを除いて懇意になることはなかったという。一方、2歳年下のルノワールは、フランス中部リモージュの仕立て職人の家庭の生まれ。13歳で陶磁器の絵付け職人の見習いとなり、1861年に画塾にてモネやシスレーらとともに学んで画家を志す。そしてサロンに入選を重ね、印象派展開催の立役者となった。

その2人が出会ったのは、1860年代の初頭。画家フレデリック・バジールが、セザンヌをルノワールのところへ連れて紹介したのがはじまりとされている。その後もルノワールは南仏のセザンヌの元をたびたび訪ね、82年の冬にルノワールが肺炎を患った時には、家族ぐるみの付き合いとして、セザンヌとその母が献身的に看病を行う。さらに、ルノワールは自らの個展に際してセザンヌのもとに置いていた作品を戻して欲しいと手紙を送ったとされ、出自や性格こそ異なるものの、生涯にわたって良い関係を築いていたと言われている。

5つのチャプターから探る、両者の作品の違い

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ピエール=オーギュスト・ルノワール『風景の中の裸婦』 1883年、オランジュリー美術館 「ブーシェの『水浴するディアナ』は、私が初めて心を奪われた絵であり、生涯を通して初恋の人のように愛し続けてきた」とルノワールは語っていた。

「戸外制作」や「人物の形態と色彩」など5つのチャプターから、2人の画家の作品が並ぶ本展。まず「ルノワールとセザンヌ」では、静物や風景など印象派でよく登場する主題を通して、彼らの作品の共通性や差異点を浮かび上がらせている。ルノワールの『花瓶の花』とは、さまざまな花を集めて生き生きと描いたもの。暖色と寒色のコントラストが心地よいリズムを生み出している。一方のセザンヌの『青い花瓶』は奔放な筆遣いで花を描きつつ、花瓶が傾くなど構図の不安定性に関心が払われ、手前のりんごは、果物が主体のほかの静物画を思わせる。

「人物の形態と色彩」では、彼らの違いが顕著に表れているかもしれない。ルノワールの『風景の中の裸婦』は、ブーシェの『水浴するディアナ』を見て裸体を描き続けた画家による、古典的表現の影響が見られる一枚。しかし、その背景には印象派特有の分割されたタッチが用いられている。セザンヌの『セザンヌ夫人の肖像』はどうだろうか。無表情な顔をしながら椅子に座る夫人の姿は、厳粛な雰囲気に包まれていて、意図的にモデルの理想化を排除しているように思える。また、黒っぽい青色のドレスが際立っているが、背景の青や緑の色彩が顔にも配されている。---fadeinPager---

画商のポール・ギヨームと未亡人のドメニカ・ウォルター 

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右:ポール・セザンヌ『青い花瓶の花』 1880年頃、オランジュリー美術館 左:ポール・セザンヌ『花と果物』 1880年頃、オランジュリー美術館 クリーム色のカンヴァス地がそのまま見えていることから、セザンヌは元の作品をそのまま未完成に留めていたと考えられている。

出品作の大半を収集した画商のポール・ギヨームと、未亡人のドメニカ・ウォルターにも注目したい。1910年代に画商としてキャリアをはじめたギヨームは、初期からジョルジュ・デ・キリコやアメデオ・モディリアーニといった若い画家に注目し、世に送り出すことで成功を収める。すると、すでに高い評価を得ていた巨匠らの作品の収集活動も開始し、印象派とポスト印象派の中ではルノワールとセザンヌの作品だけをコレクションした。そしてギヨームの死後、コレクションはドメニカによって再編成され、フランス政府からオランジュリー美術館へと移る。

このギヨームらに関するエピソードで興味深いのが、ともにセザンヌの描いた『花と果物』と『青い花瓶の花』だ。現在は別々の作品として並べて展示されているが、実は同じ未完成のひとつの絵画。ギヨームが31年に『花と果物』を手に入れ、ドメニカがずっと後に『青い花瓶の花』を購入する。当時はいくつかの修復がなされていたため対の作品であるとは気づかなかったものの、後に専門家の修復作業によって上塗りが除去され、2作が繋がっていたことが明らかになった。04年から14年にかけいくつかの部分に分割されたと考えられている。

ミラノや香港などで開かれた世界巡回展。国内では三菱一号館美術館のみの開催!

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ポール・セザンヌ『スープ鉢のある静物』 1877年頃、オルセー美術館 密接な芸術的交流があったとされているセザンヌとピサロ。ルノワールも参加した、74年の第1回印象派展にも揃って出品している。

こうした静物に心惹かれる作品が多いのも見どころのひとつ。セザンヌの『スープ鉢のある静物』で、背景の壁の左側に描き込まれているのは、ピサロの『ジゾー通り、ガリアン神父の家』という風景画だ。ルノワールの『いちご』は、後年に南仏へ移った画家が多く手掛けた静物の一枚で、白いテーブルクロスの上の食器にたっぷりと盛られたいちごなどの果物を横長の画面に表している。またモチーフや構図においてセザンヌの影響を受けたと指摘される、ルノワールの『りんごと梨』も魅力に満ちている。

粒揃いの作品ばかりで胸も躍るが、それもそのはず。ルノワールとセザンヌの約50点の出品作は、すべてオランジュリー美術館とオルセー美術館のコレクションで占められている。実に本展はオランジュリー美術館が初めて2人の画家に焦点を当てて構成したもので、ミラノ、マルティニ(スイス)、香港を経て日本へやって来た世界巡回展だ。国内では三菱一号館美術館が唯一の会場となり、他館で開かれることはない。しばらくはお目見えしそうにないほど上質なコレクションで、ルノワールとセザンヌの魅力を堪能できる貴重な機会を逃さないようにしたい。

『オランジュリー美術館 オルセー美術館 コレクションより ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠』

開催期間:開催中〜2025年9月7日(日)
開催場所:三菱一号館美術館 
東京都千代田区丸の内2-6-2
開館時間:10時〜18時 ※入館は閉館の30分前まで
※祝日を除く金、第2水曜、9/1〜9/7は20時まで
※8月の毎週土曜(夏の特別夜間開館)も20時まで開館
休館日:月 ※祝、トークフリーデー(6/30、7/28、8/25)、9/1は開館 
入場料:¥2,500
https://mimt.jp/ex/renoir-cezanne