「人工子宮が当たり前になった未来」を体験。長谷川愛の没入型インスタレーションが描く50年後の世界

  • 文:久保寺潤子 撮影:山根 香
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作品の設定は2070年代の東京。人工子宮(パラレルタミー)の活用が一般化しており、望めば誰でも新たな生命を迎え入れることが可能になる、という想定だ。

バイオアートやスペキュラティブデザインの手法を用いて生物的課題や科学技術の進歩をモチーフにした作品を発表している長谷川愛と、「劇団 贅沢貧乏」主宰の山田由梨がコラボレーションし、人工子宮をテーマにした没入型インスタレーションを発表した。7月7日まで東京・東銀座のギャラリー、SHUTLで開催中だ。

いまから50年後の未来、東京で生きる人々の姿を想像する本展覧会。会場となるSHUTLを東銀座のとあるクリニックに見立て、鑑賞者は「患者」として来訪する。入り口のガラス窓に書かれているのは作品名でもある「パラレルタミークリニック」。待合室では白衣を着たスタッフから、問診票ならぬアンケートQRコードを渡される。年齢の欄には現在の歳に50を加えた数字を書き込み、高齢者となった未来の自分を想定。アンケート項目を記入した後はタイムラインの指示に従って会場の空間を移動しながら体験が始まる。

 

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エントランスはクリニックの待合室をイメージした無機質な空間。壁には人類の出産にまつわる年表が展示されている。

最初の部屋では人口子宮の利用を検討するという設定で、鑑賞者はAIによるいくつかの設問が投げかけられる。子どもを持つことに対する考え方を自問することで、これから展開される作品と向き合う準備を整えるのだ。さらに別の部屋では実際に人工子宮を利用している未来の人々の映像を見ることで、年齢や性別を超えて出産に向き合うリアルな世界を共有する。

 

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第2の部屋では別の視点から人々の会話が進行する。

 

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第3の部屋では「人工子宮利用説明会後の相談会」のバーチャル映像、本作品の制作過程で行なった「人工子宮利用検討に関するLARP(ライブアクションロールプレイング)」の映像を鑑賞。

これまでにも代理母や複数の親から生まれる子ども、同性カップルによる出産など多様な視点と技術を通じて「子どもを持つこと」についての作品を制作してきた長谷川。人工子宮という技術は、妊娠・出産の身体的負担から解放をもたらし得るもので、それは「痛み止めのファンタジー」であると言う。本作品で描かれる人工子宮は、年齢や性別、健康状態といった生殖の制約を取り払い、「誰もが自分の子どもを持てる」といったファンタジーを強化する一方、妊娠中絶せずに体外摘出することで、養子縁組など新たな可能性をも想起させる。

少子高齢化が刻々と進んでいる日本。このインスタレーションを通じて、さまざまな立場にある人たちが「子どもを持つこと」やその裏に潜む個人の欲望、社会的規範、未来の倫理について考えるきっかけになるだろう。

『PARALLEL TUMMY CLINIC』

開催期間:開催中〜2025年7月7日(月)
開催場所:SHUTL
東京都中央区築地4-1-8
休館日:火、水
※日時指定予約制
チケット取扱:ArtSticker
https://artsticker.app/events/59039