レクサスがミラノデザインウィークで魅せた、テクノロジーと人とが連動する「阿吽の呼吸」

  • 文:猪飼尚司
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巨大なスクリーンを構成しているのは、竹の繊維を織り込んだ糸。日本の高度なクラフト技術が無限の表現域を引き出すことを実証すべく、3カ月の制作期間をかけ、長さ35kmにもおよぶ糸を職人がすべて手編みで仕上げていったという。これにより筆舌しがたい奥行きを持った幻想的なゆらぎの風景が目の前に映し出されていく。

ミラノデザインウィーク初出展から20年が経つレクサス。今年は新世代コクピット操作デバイス「ブラックバタフライ」を、クリエイター、野添剛士と池澤樹が独自の視点から読み解いた。人の動きとともにさまざま情景を描き出す、インタラクティブな作品を発表した。

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心拍と1/fゆらぎの一致が導く、光の演出

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左:野添剛士 ●クリエイティブディレクター。2013年にクリエイティブカンパニー「SIX Inc.」設立。トヨタGRやレクサスをはじめ、日本や海外のブランドとともに未知なるコミュニケーション表現やリアル体験を生み出すことに挑戦している。
右:池澤 樹 ●アートディレクター。2020年にクリエイティブスタジオ「STUDEO」設立。コンセプト構築、商品やロゴデザインからCM、空間デザインなどのコミュニケーションまで、一気通貫したブランド戦略を手掛ける。

漆黒の空間にぼんやりと浮かび上がる高さ3m×幅10mの特大スクリーン。その前に立つと不思議と光の粒子が人の動きに呼び寄せられるように集結してはちらちらと漂い、ある瞬間に美しい自然風景が一面にぱっと広がる。レクサスが今年のミラノデザインウィークで発表した「A-Un」は、光の粒で示される来場者の心拍と1/fゆらぎとの波長がぴたりと合った時に映像が展開するという没入型のインスタレーションだ。

「スマートフォンもデジタルデバイスもAIも、人の行動や意識に応じてパーソナライズされていくもの。進化するテクノロジーと人とは、一体どのような関係で結ばれているのか。モビリティの世界にも、言葉を介さずとも互いを理解し、同調する『阿吽の呼吸』が存在するかもしれない。そんな感覚を空間で表現しました」そう語るのは、池澤樹とともに本展示をディレクションする野添剛士。レクサスの次世代モビリティに搭載される新世代コクピット操作デバイス「ブラックバタフライ」をモチーフにしているが、デバイスの機能性ではなく、いかに人間とフィジカルな関わりを持つかにフォーカスしているのがポイントだ。近付くと、光の粒が奥へと流れていくのが見える。スクリーンとして見ていたものは、実は奥行き4mの空間に複雑に糸を張り巡らせたものだった。

「距離や角度により、見る側がさらなる想像力を働かせることで、デバイスの表現もさらに豊かに進化していくのです」と語る池澤樹。

空間を体験したあと、映し出された映像の記憶だけでなく、心地よい感情が体内を巡り続けていることに気付く。

「これからのデザインに必要なのは、工業をいかに発展させるかではなく、人の力や存在をどのように捉えるか。過去の歴史を謳う世界ブランドは数多くありますが、未来の価値を創造し続けるレクサスのような企業はとても稀少です」、そう2人の意見は一致する。

次世代のモビリティやデジタルデバイスが、人の感覚をいかに揺さぶり、新しい社会を築くのかを予見させる展示だった。

レクサス「Milan Design Week」

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新世代コクピット操作デバイス「ブラックバタフライ」

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ブラックバタフライを搭載した次世代バッテリーEV(BEV)コンセプト「LF-ZC」。同会場ではバスキュール、ノースイースタン大学、レクサスインハウスデザイナーの3組も、ブラックバタフライに着想を得たインタラクティブな作品を展示した。こうしたクリエイターとの共創は来年以降も展開していく。
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ハンドルと一体化したブラックバタフライ。
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光を3次元的に映し出す「A-Un」のスクリーン。ブラックバタフライをモチーフにしている。


レクサス「Discover Together」

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「A-Un」が映しだす、日本の情景

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「A-Un」では鑑賞者の心拍をリモートセンシングし、スクリーンに投影する。心拍のリズムと風の音や雨の音など、自然界からサンプリングした1/fゆらぎがシンクロした瞬間に場面が変わり、桜や紅葉など、日本の美しい情景が映し出される。どれも日本人が古来大切にしてきた心象風景であり、移ろいゆく状況に儚さや尊さを見出す特別な感覚をも語り継いでいるように感じさせる。

レクサス/インフォメーションデスク

TEL: 0800-500-5577(9時〜17時)