まだ見ぬオーストラリア──西オーストラリア州パースへの旅へ【パース紀行・中編】

  • 文:佐々木ケイ
  • 取材協力:西オーストラリア政府観光局、ANA
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オーストラリア最大の面積を誇る西オーストラリア州。主要な都市が国土の東南部に連なる同国だが、西オーストラリア州の州都で西部最大の都市であるパースは「世界でもっとも美しい」と称される街のひとつだ。旅の味を知り尽くした大人ほど心奪われるという街の魅力をさまざまな角度から見てみよう。お次はパースを拠点に、大自然を体験できるスポットへ。

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ロットネスト島の海。ため息が出る美しさのターコイズブルー。

大都市から気軽にアクセスできる場所で、ワールドクラスの自然に触れあえるのはオーストラリアの大きな魅力だが、パースもその例にもれない。パースの沖合約19km、インド洋に浮かぶロットネスト島は、世界各国のセレブリティが訪れる人気のリゾートアイランドだ。

パースからはフェリーで、エリザベスキーにあるバラックストリート桟橋からなら約1時間30分、ヒラリーズ ヨットハーバーからは約40分、フリーマントル港からなら約30分。面積は与論島とほぼ同じ19キロ㎡で、島一周は22kmと自転車で回るのを楽しめる距離だ。実際、レンタル自転車でのサイクリングを楽しむ観光客を数多く見かけた。島全体がA級自然保護区の国立公園に指定されているため、一般車両の乗り入れを規制していて、自転車以外ならば周回バスや徒歩を目的に応じて選ぶことになる。

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ロットネスト島、フェリー乗り場の眺め。
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湾ごと、ビーチごとに異なる眺め、美しさは見飽きることがない。

20の湾と63ものビーチを有し、オーシャンビューの絶景ポイントには事欠かない。白い砂浜に映えるエメラルドグリーンの海は、この世のものとは思えない美しさで、おかしな話だが逆説的に人工的につくられたものに見えてしまうほど幻想的だ。

“世界一幸せな動物”クオッカの世界最大の生息地としても名高く、目当てに訪れる観光客も多い。人影の少ないところで息をひそめたり、林の奥深くに分け入ったりせずとも、広場のベンチやカフェのテラスなどでふつうに見ることができ、人々は“世界一幸せな”の由縁たる、口角がキュッと上がったクオッカの笑顔を撮るのに夢中だ。

そう、島全体がA級自然保護区ながら、ハイセンスなカフェやレストラン、ビーチサイドバーやスーパーマーケット、スーベニアショップなども揃っていて思い思いの時間を過ごせる。聞けば再生可能エネルギー創出の取り組みにも先進的で、自然環境や歴史的遺産を可能な限り保ちながら、 観光地として快適なインフラやファシリティを充実させて今日に至るのだそう。素晴らしい。 

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カンガルー科の小型有袋類・クオッカ。愛らしく、人を怖がらない。

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パースの北で、真っ白な砂丘と月面のような景色に出会う。

もうひとつ、パース拠点のネイチャー体験として忘れてはならないのが、ナンバン国立公園内の奇岩群・ピナクルズを見ることだ。ナンバン国立公園は、パース中心市街地からクルマで約2時間半という距離で、その途中に位置するジュンダラップの町は、郊外型のライフスタイルを嗜好する人々にいま、人気の住宅地なのだとか。車窓から見る景色は、市街地から遠ざかるにつれ地面と空の割合を増やしていき、高揚感をかき立てられる。

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ランセリン砂丘。車などの対象物が見えて初めてその広大さを実感できる。
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起伏のあるランセリン砂丘では、4WDでのドライブが迫力満点。

途中、ランセリン砂丘に立ち寄った。4WD車で砂丘に入ると、砂の白さに驚く。訪れたのは3月で、夏の終わりの陽射しを大地がレフ版のように反射し、車から降りた瞬間、肌が痛いほどだった。風が吹くたびに微粒の砂が舞い上がり、着ているものが一瞬にして真っ白になる。それでもランセリン砂丘を訪れることができて本当によかったと思う。視界から一切の人工物が消えると、砂の大地と空だけで構成される白と青のコントラストの中に放り出され、浮遊感のような不思議な感覚を覚えた。

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夕日に赤く染まるピナクルズの奇岩群。世界でここだけの景色。
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夕暮れどきから完全に夜が訪れるまで、一刻一刻の美しさを見逃さずに。

「月面のよう」と例えられるピナクルズの風景は、サンセットタイムが最も美しいとされる。大小、かたちもさまざまな奇岩群は、太古の昔、海だった地に砕けた貝殻や砂などが堆積して石灰石層を造り、何千年もの間、堆積と侵食を繰り返して形成された。自然と、年月が育んだ圧倒的な造形美に、またも現実感覚を失う。

日が沈むにつれて奇岩群が影を長くしていき、夕日に照らされた大地の色が刻々と変わっていく。太陽が完全に地平線の向こうに隠れた後もなお、光の余韻が大地を染め続ける様子がまた劇的に美しい。長い長い時間をかけて辺りが暗闇に包まれると、今度は空が星で埋め尽くされる。訪れた日は満月に近い時期だったが、それでもひと際明るく輝く浮かび上がる南十字星を簡単に見つけることができた。

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夜空に輝く南十字星。

世界には自然の驚異と言うべき景色がいくつもあると聞く。限られた人生で、いくつ見ることが叶うかだ。辿り着くまでに何日もの日数を要することもあるだろうし、ときに命がけで挑まなくてはいけない場所もあるだろう。だがロットネスト島やピナクルズは、パースから日帰りで行くことができ、ガイドツアーも充実している。利便性によって感動が目減りすることはなにもない。もしもいま誰かに「人生の価値観がひっくり返るような自然の景色を見たい」と、言われたら、パースを拠点にしたこの旅の話をするだろう。

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西オーストラリア政府観光局

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