歌舞伎町の上空で、石垣島を“美食旅”。食材の味を引き出す鉄板焼きという選択

  • 文:Pen編集部
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東急歌舞伎町タワーの45階に位置する「鉄板 天祐」で、「石垣島美食フェア」が開催中。

地上200メートル。東京の夜が、ゆっくりと窓の外でひらけていく。東急歌舞伎町タワーの45階、BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotelの「鉄板 天祐」。そこには、喧騒をひとつ上から眺めながら、自分の感覚を研ぎ澄ませる時間がある。

この春始まった「石垣島美食フェア」では、南国・石垣島の食材と向き合い、東京にいながら五感で“旅する”ようなコースが提供されている。

最初の一皿、ジーマーミ豆腐。生ピーナッツを葛で固めた自家製の逸品は、ひと口で舌の上に濃厚な香りが広がる。静かながら深い味わい。この夜の序章にふさわしい。

前菜は、もずく酢、和牛のたたき、島らっきょうの天ぷらだ。島らっきょうには、戸越銀座の塩専門店「solco」から取り寄せたピンク岩塩が添えられ、繊細な甘みを引き出していた。派手さはないが、どれも丁寧。食べ手のことをよく考えた構成で、メインの肉を最大限に引き立てるために余計を削ぎ落とした優しさを感じる。

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弾力に富んだオマール海老も、贅沢に。
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天祐サラダ。鉄板焼きコースのなかにしっかりとしたリズムをつくる。

続くのは、マンゴーソースをまとったオマールブルー。昨年は伊勢海老だったが、今年はさらにアップグレード。マンゴーの甘酸っぱさが、オマールの身の弾力としっとりした火入れによって、より豊かに広がる。

サラダにはスペイン産オリーブオイルとイタリア産ホワイトバルサミコを使用。うみぶどうの塩味と酸味が全体を軽やかに整えてくれる。次の主役に向けての流れがスムーズに組まれていた。

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石垣島きたうち牧場プレミアムビーフ。いちばんの特徴は融点の低さだという。

そして、いよいよメイン、「石垣島きたうち牧場プレミアムビーフ」。東京でこの肉を食べられるのは、牧場の系列店を除いて、ほぼここだけだという。月に4頭しか出荷されない、血統と飼育環境にこだわった雌牛。脂の融点が低く、体温でもすっと溶ける。口に入れた瞬間、その“軽さ”に驚く。重たさがなく、それでいて味はしっかり、香りは甘く、後味は澄んでいる。冷めてもなお旨い。脂の質がよい証左だと、改めて教えてくれる肉だった。

お薦めは、わさびとガーリックをのせて、和歌山産の湯浅醤油で食べること。旨味の奥行きが際立ち、素材の美しさが浮き彫りになる。

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「ここから臨む夕景が好きです」と語る、木村のぶ子シェフ。

「焼いたとき、脂が濁らないんです」と話すのは、シェフ・木村のぶ子。大学卒業後は異業種で働き、海外経験を経て料理の道へ。名古屋東急ホテルの宴会調理を経験したのち、レストラン「ロワール」で鉄板焼きを学び、セルリアンタワー東急ホテル「桜-SAKURA-」の立ち上げを経て、現在「天祐」で腕を振るう。

ブランドではなく血統と育て方にこだわるという彼女は、生産者への敬意と、食材を見る確かな目を持っている。

焼き野菜は白アスパラ、ナス、椎茸などから好きなものを選ぶスタイル。鉄板の上でゆっくりと火を通されたそれらは、確かな存在感ながらも、料理の流れに寄り添う。

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ほっとする味わいの八重山そば。秋田県産サキホコレの白米、赤だしに変更することも可能。いずれも香の物が添えられる。

締めは八重山そば。沖縄の金城製麺所から仕入れた生麺に、半日かけて炊いたスープ。豚、鰹に鶏も加えられており、繊細な味わいだ。手づくりのソーキも加わり、スープは最後の一滴まで飲み干してしまった。

最後に登場したのは、石垣産のフルーツを使ったデザート。マスカルポーネにメープル、生クリーム。そこにヨーグルトアイスの酸味加わり、後味を引き締める。6月には木村シェフが絶賛する、島本農園のパイナップルも登場するという。予約するならいまがチャンスだ。

なお、追加料金でワインペアリングコースも用意されている。シャンパンから始まる4種のワインに続き、最後は、沖縄産のパイナップルジュースと泡盛のいずれかを選択できる。

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店名の「天祐」とは、思いがけない幸運に恵まれること。10席だけの特別な空間だ。

木村シェフは「歌舞伎町だからこそ、真面目に、おいしいものを出したいんです」と語る。その言葉が、どの料理にも、どの所作にも宿っていた。鉄板焼きというスタイルにありがちな派手な演出はしない。むしろ、焼いた瞬間に立ち上る“肉の甘い香り”を届けたいという。

鉄板越しに交わす会話、富士山の稜線、香ばしい和牛の匂い。ここでの食事は、単なる「贅沢」では終わらない。それは、自分の輪郭を取り戻すような時間だった。

「鉄板 天祐」

東京都新宿区歌舞伎町1-29-1
TEL:03-6233-7654
www.bellustartokyo.jp/restaurant-bar/teppan-ten-yu.html