白壁の蔵屋敷やレンガ造りの西洋建築など、江戸から昭和初期にかけての歴史的建造物が残る岡山県の倉敷美観地区。観光客で賑わうエリアを抜けた閑静な東町に、2024年11月、「撚る屋(よるや)」が開業した。築100年を超える旧呉服問屋を改修・増築し、13室の客室とダイニング、ワインバーが併設され、食を通じた倉敷の歴史と文化を楽しめる宿として生まれ変わった。空間デザインを担当したのが、緒方慎一郎率いるシンプリシティ。商店と別邸が立つ敷地全体を再編集し、新築棟を含む4つの分棟にゾーニングした。地元の方言で 「ひやさい」と呼ばれる細い路地を敷地内にも取り込み、倉敷の豊かな町並みがそのまま連続するかのように見せている。


ゲストを出迎えるのが、レセプション棟に備えられたダイニング。ダイナミックなコの字のカウンターが囲む空間で、地元の食材を使った料理が楽しめる。また、客室は半露天風呂付きのスイートルームなど5タイプが用意され、10室は部屋に坪庭が隣接する。
新旧を活かした建物に共通するのが、倉敷の文化を感じさせる意匠だ。柱や梁、土壁、建具などを可能な限り保存し、新設部には白漆喰やレンガといった地域を象徴する素材を取り入れている。土地の記憶と現代の感性が交差する空間で、時の流れを感じながら新たな倉敷を体験したい。


撚る屋
住所:岡山県倉敷市東町2-7TEL:050-5799-4721
料金:スタンダード¥77,000~ 全13室
https://yoruya-kurashiki.com
【設計者】シンプリシティ
代表の緒方慎一郎が1998年に設立。「現代における日本の文化創造」をコンセプトに、自社ブランドの和食料理店などの展開のほか、建築やインテリアなど多岐にわたるプロジェクトのデザインを手掛ける。
※この記事はPen 2025年6月号より再編集した記事です。