プロサウナー秋山大輔が知った、サウナを通して自分を大切にするマインド

  • 写真:齋藤誠一 
  • 編集・文:井上倫子
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秋山大輔(あきやま だいすけ)●1978年生まれ、東京都出身。「サウナ師匠」として知られ、ととのえ親方(松尾大)と共にサウナクリエイティブ集団[TTNE]や、革新的なサウナを毎年ノミネートする「サウナシュラン」を立ち上げ、サウナの普及活動をする“プロサウナー”として活動。「ソロサウナtune」や「SANA MANE/SAZAE」などをプロデュース。

サウナの普及活動をする“プロサウナー”であり、“サウナ師匠”の愛称で親しまれている秋山大輔。人々の日常にすっかり浸透したブームの背景や、自身のライフスタイルについて訊いた。

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本場フィンランドのサウナに立ち返った、2020年のブーム

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フィンランドが拠点の世界No.1サウナブランド、ハルビアのショールームにて。秋山はハルビアのグローバルアンバサダーとしても活動している。

2020年頃から始まった空前のサウナブーム。ここ数年、日本各地でさまざまなサウナ施設がオープンしている。さらにはサウナと水風呂を繰り返し、休憩することで得られるリラックスした感覚「ととのう」という言葉は、サウナの本場・フィンランドで「TOTONOU」という日本語で知られるほどになった。なぜこれほどまでにサウナは人々の暮らしに浸透したのだろうか? プロデューサーとして数々のサウナ施設を手掛ける秋山大輔はこう語る。

「日本は温泉や銭湯が多いので、みんなサウナの存在は知っていたと思うんですよね。でもほとんどの人は入り方がわからなかった。それぞれ自分流の楽しみ方をしていて、サウナに何分入り、水風呂や休憩を繰り返すと“ととのう”という方程式があることを知らなかったんです。漫画の『サ道』をはじめとするメディアによってその方程式が広まり、サウナを知らない人もそのよさに気づいたのだと思います」

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[TTNE]がプロデュースした「北こぶし知床 ホテル&リゾート」内にあるサウナ。サウナ室内からオホーツク海の風景を、冬には流氷を見渡すことができる。写真は木の洞窟をイメージした「UNEUNA(ウネウナ)」。

実は日本に古くからあるサウナは、フィンランドのサウナとは違い、温度が高く湿度が低いのが特徴だ。しかし数年前から熱したサウナストーンに水をかけ、蒸気を発生させて温める「ロウリュ」が可能な、湿度の高いフィンランド式のサウナが登場したこともサウナブームに影響しているという。

「僕たちがこの仕事を始めた頃には、ロウリュできるサウナってほどんどなかったんです。本場のよさが見直され、サウナって暑くて我慢しなきゃいけないというカルチャーから、フィンランドサウナ本来の、リラックスするためのものだという認識が広まったのだと思います」

ここ数年、ロウリュで発生した蒸気を、タオルなどで撹拌させながら扇ぎ熱波を送る、ドイツ発祥の「アウフグース」に定評のあるサウナや、お茶でロウリュするサウナなど、多種多様なサウナが登場している。そのため、日本に昔からある高温の「昭和ストロング系」と呼ばれるサウナが好きな人もいれば、ロウリュができるサウナが好きな人など、好みも多様化している。数々の施設を手掛ける秋山は、サウナをつくる際にどのようなことを大切にしているのだろうか。

 

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香川県直島のグランピング型リゾート施設「SANA MANE」にあるサウナ「SAZAE」。設計は今回の特集にも登場しており、隈研吾建築都市設計事務所のパートナーであるクマタイチが担当している。

「まずはクライアントがどんなサウナをつくりたいのかヒアリングをし、ターゲットや市場調査もします。でもいちばん大切にしているのは、そこでしかできない体験にすること。たとえば2020年にオープンした『ソロサウナtune』は、それまでサウナは他人同士で入るものという常識があった中で、ひとりやふたり、3人といったプライベートなサウナ体験という新たな楽しみ方を提案しました。いまや都内にこういった個室サウナは多数ありますが、それまでなかったんですよね。他にもアートで有名な直島に、『SAZAE』というサザエをモチーフにしたユニークなかたちのサウナをつくりました。新国立競技場も設計した隈研吾建築都市設計事務所と一緒につくったサウナです。地方でも都心でも、わざわざそこに足を運びたくなるような、特別なサウナをつくることを大切にしています」

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大阪・関西万博でお披露目されるサウナ「太陽のつぼみ」。朝と夜など時間帯によって色や音楽などが変化し、いままでにないサウナ体験ができる。

常に新たな発想のサウナを提案している秋山だが、2025年の大阪・関西万博でも、ユニークなサウナをお披露目するという。これまでの万博で実際に入ることができるサウナが発表されたことはなく、万博史上初のサウナが、本場フィンランドを差し置いて日本で発表されるのだ。

「サウナ室といえば木材が使われるのが当たり前ですが、このサウナは建築に使用される屋外用の膜でできています。テントサウナとも違い、膜の間に空気を入れることで断熱します。さらに、サウナの入り方もユニークです。ガイドが入る順番をあえて指定することで、新しい体験を提案する「サウナリチュアル(リチュアル=儀式)」を行う予定です」

このサウナは小橋賢児も催事企画プロデューサーとして参加している。東京駅八重洲口にある「グランルーフ」の大屋根などを手掛ける太陽工業の膜を使い、設計はKOMPAS(コンパス)の小室舞が担当している。

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サウナ室内で頭部の温度上昇を抑えたり、髪を保護するために欠かせない「サウナハット」。秋山はハルビアのサウナハットを愛用。

サウナに入るとよく眠れたり、肌がきめ細やかになったりと、身体が健康になることはよく知られている。日々忙しい経営者が好んで入るのは、運動やマッサージをするよりも短時間でリラックスできるからだ。毎晩入るという人もいるほど日常に浸透してきているサウナカルチャーだが、秋山はどのように生活に取り入れているのだろうか。

「今朝も[TTNE]でプロデュースした『TOTOPA(トトパ)』に入ってきました。仕事柄、会食とセットで入ることもあり、1日に何度も入ることもありますが、我慢しすぎず長時間入りすぎないようにしています。僕は『サウナ師匠』と名乗っていることもあり、サウナに入ると『師匠は何分入るのかな』とチェックされるんですよね(笑)。時間にこだわらず、その日の体調や気温に合わせて、自分のペースで入るようにしています」

サッカー少年だった頃からサウナを使っていたという秋山。しかしいまのサウナプロデュースの仕事を始めてから、自身の健康にさらに気を遣うようになったという。

「以前はフェスやパーティなどイベントのプロデュースをしていて、シャンパンを浴びるように飲み、夜中までクラブにいるような荒れた生活でした(笑)。いまもシャンパンは好きですが、この仕事をするようになって改めてサウナと向き合うようになって、健康に気を遣い、自分を大切にするようになりました。幸せの価値観が変わったと思います」

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サウナのプロデュースを支える、最新のガジェットたち

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秋山の愛用品。左はライカのカメラ、右はカメラがついたレイバンのサングラス。

そんな秋山が日常をよくするアイテムとして挙げてくれたのは、カメラとサングラス。右はカメラが付いたレイバンのサングラス。Metaが開発したもので、サングラスのリムにカメラがあり、かけたまま撮影したり音楽を聴いたりすることもできる。左のライカのカメラは、レンズと一体になっているので水分が入りにくくサウナ室内でも撮影できるという。

「世界各国のサウナを訪れた際に写真をインスタにアップすることも多くて。iPhoneでもうまくは撮れますけど、せっかくだからいい質感で撮りたいじゃないですか。これをスタッフに渡して、自分がモデルになって撮影していますよ(笑)。サングラスはサウナ室内では使わないですが、ロケハンの時にこのサングラスをかけたまま撮影できるので重宝しています。仕事柄オンライン会議も多く、これはマイクとスピーカーもあるので、サングラスをかけて歩きながら打ち合わせすることもありますね」

サウナに入ることで日々の体調がととのい、直感も冴えるようになったという。会いたい人に会えたり、いい仕事が舞い込んだりと、人生がよい方向に進んでいったそうだ。

「サウナだけでなく、健康のために筋トレやサーフィン、瞑想もします。海でメディテーションをしたり、サウナに入ることで、悩む時間が減り、仕事の効率も上がったと実感しています。日本人ってオフの仕方が苦手じゃないですか。どれだけ自分をオフにできるかで、オンのパフォーマンスが変わってくるのかなと思います」

毎日の生活にサウナがあることで、身体が変わるだけでなく、自らのマインドも変化していく。幸福の国・フィンランド発祥だけあって、サウナは心もポジティブにしてくれるのだ。