外界の刺激を呑むように吸収し、吐き出し続ける作家・田名網敬一の世界

  • 文:住吉智恵(アートプロデューサー)
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『死と再生のドラマ』 2019年 顔料インク、アクリル・シルクスクリーン、ガラスの粉末、ラメ、アクリル絵具/カンヴァス 200×400 ㎝(4幅対) © Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

戦後日本に花開いたポップアートの先駆者として、1960年代よりメディアやジャンルの境界を超えた活動を展開し、国際的に急速な再評価が進むアーティスト、田名網(たなあみ)敬一。武蔵野美術大学在学中にデザイナーとしてキャリアを始動し、75年には日本版月刊『PLAYBOY』の初代アートディレクターを務めるなど、日本のアンダーグラウンドなアートシーンを牽引してきた。一方、グラフィックで培った独自の方法論と技術を駆使し、多層的なレイヤーが視覚を眩惑させる絵画やコラージュ、立体、アニメーション映像など、美術史の文脈に名を刻む創作を次々と世に送り続ける。

田名網にとって視界に入るものすべてはインスピレーションの源泉だ。毎朝の散歩中に出合う光景のディテールから世間を騒がせる社会現象まで、自身を取り巻く外界の刺激を清濁併せ呑むように吸収し、想像上の曼陀羅世界に吐き出し続ける。

また、彼の創作のモチベーションは過去の記憶を手繰り寄せ、それらが脳内で変化していくさまを捉えようとする行為にある。戦渦の幼少期、空襲警報の閃光の中で見た気がした真っ赤な金魚。大病で生死をさまよう中で見た、うねり狂う松の木の幻覚。これら田名網の作品世界を構成する鮮烈なイメージの集積が、不条理な時制の波間で鮮やかなフラッシュバックを繰り返し、とどまることのない久運動を展開するのだ。

87歳を迎えた現在もなお旺盛な創作意欲を示す田名網の存在は、世代や国を超えたクリエイターたちを魅了し、御大の胸を借りたいと望む声は後を絶たない。この度の大回顧展では、60年以上にわたる活動のなかで田名網自身が触発されてきた壮大な世界線を前に、追従する世代もまた埋もれた記憶をたどり直す機会になるかもしれない。

『田名網敬一 記憶の冒険』

開催期間:8/7~11/11
会場:国立新美術館 企画展示室1E 
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時(金、土は20時まで) ※入場は閉館の30分前まで
休館日:火曜日
料金:一般¥2,000
www.nact.jp/exhibition_special/2024/keiichitanaami

※この記事はPen 2024年9月号より再編集した記事です。