銀座「ggg」での個展を振り返りながら、LAとロンドンの旅行記で賑わう TRIP#17 YOSHIROTTEN

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    グラフィック・空間・映像・アートピースなど、さまざまなアプローチで制作活動を行うアーティストYOSHIROTTEN。

    この連載は「TRIP」と題して、古くからの友人であるNORI氏を聞き手に迎え、自身の作品、アート、音楽、妄想、プライベートなことなどを織り交ぜながら、過去から現在そしてこれからを行ったり来たり、いろんな場所を“トリップ”しながら対談します。

    14日から3月23日まで、YOSHIROTTEN 個展「YOSHIROTTEN Radial Graphics Bio ヨシロットン 拡張するグラフィック」がギンザ・グラフィック・ギャラリー(以下:ggg)​​で開催された。個展タイトルの通り、グラフィックデザイナーとしてこれまで多岐にわたるジャンルで作品を発表してきたYOSHIROTTENの今までのキャリアを凝縮するような展示構成で発表。

    会期中に行われた、トークイベントやビデオリリースなど振り返りながら、会期最終週に訪れたLAとロンドンの旅行記についても賑やかな写真とともにお届け。

    ——約1ヶ月にわたる、ギンザ・グラフィック・ギャラリー(以下:ggg)の個展が無事、会期終了を迎えました。展覧会後半には、トークイベントも開催されたそうですね。

     

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    YOSHIROTTEN Radial Graphics Bio at ggg Installation View 写真  Satomi Yamauchi

     YOSHIROTTEN:本展に合わせてgggから出版された作品集の序文を書いてくれた西野慎ニ郎さんと、編集者・ライターの河尻亨一さんを招いたトークイベントになりました。西野さんは、僕が初めてちゃんと個展「PUDDLE」を発表する機会をつくってくれた人ですね。西麻布・CALM & PUNK GALLERYで2013年に個展を開催して以来、2018年に発表した個展「Future Nature」でも展示に寄せたテキストを書いてくれていて。ほかにも、GAS BOOKから2冊作品集を出版していただいてます。だから、いままでの活動を全部見てくれている貴重な存在ですね。いままでのテキストは、出来るだけ自分のことを何者なのかわかりやすく説明している内容だったのですが、今回は一切説明的なものはないのに、自分が思うようなことをまとめてくださっていて新鮮でした。

    めくれた次元を捉えて
    多くの表現者たちは“かくれた次元”“かくされた次元”に色や形を与えて、最終成果物へ持ち込むことを行なっているのかもしれない。表現結果がその時代に新鮮さを提供する際には、無いものを在る様に、在るものを無い様にエディットしていくのが表現者の真骨頂なのだと思う。

    ただ、かくれた次元をデザインや表現に要素として取り入れたとしても、自己満足で、人とは共有できない。なんらかの外部刺激や時間の変化でめくれてきた次元から、顕在化してきた要素をデザインに取り入れることは、時代の空気を捉えるといったような流行り廃りの話ではなく、物事を捉える“姿勢”の話なのだと信じる。無いものを在る様に、在るものを無い様に。めくれた次元の先との往還を、遊び心を持って愉しむ。YOSHIROTTENはそんな“姿勢”をもった表現者だと思う。相変わらず会ったときは言葉が少なく、デザインした“ブツ”だけを愛おしそうに見せてくる…物静かな佇まいを纏っているが、彼自身の視覚野では何処か彼方までぶっ飛んでいるのだろう。  


    ——西野愼二郎(GAS AS INTERFACE, GASBON METABOLISM, CALM & PUNK GALLERY)gggBooks-136 YOSHIROTTEN 序文より抜粋

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    YOSHIROTTEN Radial Graphics Bio at ggg Installation View 写真  Satomi Yamauchi

    ノリ:河尻亨一さんは、gggからの提案だったんだよね。石岡瑛子さんの書籍「TIMELESS 石岡瑛子とその時代へ」を書いている方です。僕もいま同書籍を読んでいるところだけど、石岡さんと周りの当時の人々の様子やエネルギーや色々なことが渦巻いてる感じが面白くって。石岡さんに限らず当時の広告業界の雰囲気が生々しい感じで書かれてる。

    YOSHIROTTEN :僕もこの本を読んで、どこか近いものを感じたり、もっと知りたいなと思いました。

    ノリ:会期中にリリースしたビデオもすごくよかった。よしろーくんが個人的に動かしてくれたから、僕は気づいたら撮影日だって感じでしたけど。やっぱり、よしろーくんはいつも何か機会があれば、いろいろな方面にさまざまなメディアで作って拡張していくし、その姿勢はこの会期中でも実際に起きてたように感じます。 

    ——改めて展覧会の話をすると、ビデオの冒頭に映る地下のスペースでは、今まで制作してきた膨大な数の作品がモニター上にランダムに映っていました。まさに多方面で活躍してきた軌跡が体感できる空間になっていましたね。

    YOSHIROTTEN :今までの作品を振り返ることって普段あまりしない作業だし、意外と体力が必要なんですよね。1つのプロジェクトや展覧会に対しても複数のイメージがあるので、セレクトする選択肢が無数にあって。音楽のジャケット1枚に対してもブックレットで複数アートワークが差し込まれていくし、お店のアートディレクションをとってもロゴもお店の空間もある。それらの1万点以上の作品を2ヶ月くらいにわたって、ハードディスクからつまみ出していきました。そうして選ばれた作品を最終的に約500点ほど展示しました。

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    YOSHIROTTEN Radial Graphics Bio at ggg Installation View 写真  Satomi Yamauchi

    ノリ:ランダムに作品がモニターに映っていく光景を見て、これからもどんどん新しいものを作るたびに、違う風景になっていくんだろうなあと想像していました。

    YOSHIROTTEN :そう、今後はUnreal Engineのようなところに入れ続けて、メタバース上で同じような空間を作ろうと、うちのスタッフがいま動いてくれています。もともと展示のパースとして作ったCGの空間があるので、それを実際に活用できないかなと思ったことがきっかけです。モニターの中に入っていた作品は、24年の頭までのデータだから、もう2〜3ヶ月経てばさらに増えてる。VR的な空間で観て体感できたら面白いかなと思って。

    ノリ:地下の構成について、僕も会場で説明しながら色々考えていたんですけど、よしろーくんの制作って基本的にコンピューターの中から始まって、それを現実世界の物質的な作品として立ち上げていくじゃないですか。それらが展示されている空間をすごく非現実的なように感じて。影がないからとか自分なりに考察していたんですけど。またそれがバーチャル空間にいくというプロセスは、リアルとアンリアルな世界を何度も行き来しているみたいで興味深いです。

    YOSHIROTTEN :地下の空間は、床とモニターから光を放ってるから、映像を撮るとハレーションが起きて体験としても面白かったよね。モニターの横に置いてあった軽石は、僕の地元の鹿児島から取り寄せてきたもの。いつも展覧会の時に、そういうSF的な遊び心は忍ばせていて。今回はアーカイブということもあって、地球を記憶しているとも言われる石を記憶装置的に見立てて、僕の15年間の活動も石にも刻めないかなと思って置きました。

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    YOSHIROTTEN Radial Graphics Bio at ggg Installation View 写真 Satomi Yamauchi

    ——モニター以外にも立体作品が展示してあり、なかでも輪島塗で出来た盃「SAKAZUKI」のグラデーションは印象的でした。

    YOSHIROTTEN :盃を6個組み合わせて出来たアート作品でもあり、実際に1つずつ盃を交わし合えるものとしても作りました。日本に数人しかいないような職人さんとの協業になっていて。震災の影響を受けている中で、受注が入るたびにお互いに嬉しいと思えるプロジェクトになりました。

     

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    YOSHIROTTEN Radial Graphics Bio at ggg Installation View 写真 Satomi Yamauchi

    ——こ会期後半で、おふたりはLAとロンドンに行ってましたね。LAは、こちらの記事でも紹介しているPenの取材に合わせた旅行だったそうですが。

    YOSHIROTTEN :フリーズアートフェアに行ってきました。パンデミック以来のひさしぶりのLAでした。

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    ノリ:僕も5〜6年ぶりですかね。フリーズのメインスポンサーである、ストーンアイランドが会場内で行なっている展示にPenの企画で行きました。ブランドの歴史を包括的に紹介するようなプレゼンテーションがやっていて、めちゃくちゃかっこよかったですよね。別行動だったけど、「フェリックス」という他のアートフェアにも、僕は行ってきました。真ん中にプールがあるホテルの部屋を使って開催していて、いかにもLAって感じの雰囲気だった。フリーズ以外にも、よしろーくんの友達のアーティスト・Erin D のスタジオにも遊びに行って。

    YOSHIROTTEN :ErinとパートナーのSachikoが作り始めているプロジェクトスペースも面白かったよね。LAの超一等地にある広大な宿泊施設のようなところに、音楽スタジオや制作ができるスペースを作っていて。なかにはグラミー賞を取るようなアーティストも使ってるみたいで、LAの中でもまた特殊な空間だったね

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    ノリ:夢のような時間と場所でしたよね。あの感じはヨーロッパにはないかも。THE アメリカンドリームみたいなものを感じました。ロスの人たちって、飲食店行ってもどこ行ってもテンション高く、みんなに見られているという意識が高く働いているように感じました。そういうふうに暮らしていると、誰かと出会えたり、何かが起きるような空気がめちゃくちゃあるんだなって。街全体のテンションの高さが居心地よかったです。

    YOSHIROTTEN:ロンドンは、1週間半くらいいたよね。

     

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    ロンドンの車窓

     ノリ:LAからロンドンにそのまま移動して、アートフェアからギャラリーまで一気に吸収する期間で、なんというか東京にいた自分を外からちょっと俯瞰して見る意識が芽生えましたね。ロンドンでは、アーティストの友達の平野正子さんとBIENとも会って。

    YOSHIROTTEN:早速、平野さんには仕事をお願いしたよ。

    ノリ:そうなんですね。そういうの嬉しいな。Hauser & Wirth Somersetに行けたこともいい体験になりました。南西部のサマセットにあるアート施設なんですけど、個人的には、イギリスの郊外の方に行くのは久しぶりでした。


    YOSHIROTTEN:僕もロンドンを離れたイギリスの旅は、10年前の夏至に行ったストーンヘンジ以来だったなあ。

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    ノリ:Hauser & Wirth Somersetは、イギリスのスピリチュアルカルチャーの重要な地域みたい。農家だった建物をリノベした施設には、ギャラリー、庭園、ショップがあって。お店では、周辺地域で作れたハムやソーセージ、ジャム、石鹸とかお土産にバッチリなものがたくさん。たくさん買い物しちゃった。ちょうど最近イギリスの庭文化をリサーチしていたことも相まって個人的にはかなり楽しめました。

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    YOSHIROTTEN:自分がいずれ作りたいなとイメージしていたことのひとつに近かった。ギャラリースペースもありながら、地元の人たちによる物産が売られていたり、交流できる場所でありながら、かっこいいこともしていて。日本こそ、こういうことが地方でどんどん起きたらいいなと思いました。いままで構想してきたことの中で、最大クラスのことだから実行するなら、じわじわと準備しないといけないけど、いずれかやっぱりああいう場所を作りたいなと大きなインスピレーションになりました。その規模ではないけど、次回の記事では重大発表があるので、お楽しみに!

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    ロンドンの道中で眺めた空

    アーティストYOSHIROTTENの「TRIP」 

    連載記事一覧

     

    YOSHIROTTEN

    グラフィックアーティスト、アートディレクター

    1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


    Official Site / YAR

    YOSHIROTTEN

    グラフィックアーティスト、アートディレクター

    1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


    Official Site / YAR