YOSHIROTTENがロサンゼルスで目にした、ストーンアイランドのアーティスティックなアーカイブ展

  • 写真:鈴木香織
  • 文:稲石千奈美

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まるでアートインスタレーションのような様相のアーカイブ展のメインフロア。映像、音響、照明とともに、ストーンアイランドの歴史と世界観が詰まった42体のトルソーが来場者に迫り来る。

今年2月末、ストーンアイランドのアーカイブ展がアートフェアに合わせて開催された。インスタレーションのごとき会場内に足を運び、興奮した面持ちで展示を目にするYOSHIROTTENに密着。

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1982年からのアーカイブ・ピースが、約100点並ぶコミュニティイベント

ストーンアイランドは、1982年の設立以来、徹底したリサーチをベースとした革新的な素材開発と卓越した機能性、独自のデザイン美学でストリートキッズからクリエイター、スポーツ選手、セレブリティらを続々と魅了してきた。まさしく独自のポジションを築くブランドだ。そして今年2月29日から3月3日の期間、過去に発表された貴重なアイテムやオリジナル制作映像、オーディオによるインスタレーション、トークプログラムなどを通して、その歴史をインタラクティブに体感できる大型アーカイブ展を開催した。場所はアメリカ・ロサンゼルスの中でもギャラリーやクリエイティブスタジオが活況を呈するエリア、カルバーシティだ。

世界的アートフェア『フリーズロサンゼルス』の会期に合わせた『セレクティッド ワークス‘982 -‘024』は、ストーンアイランドの歩みをたどるアーカイブ・ピースが約100点展示され、画期的なテキスタイルやガーメントダイによる染色技術、ブランドの挑戦的なビジョンを目にできるコミュニティイベントとなった。

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アーカイブ・ピースのフロア前にあるエントランス。シンプルなネオンシルエットだが、YOSHIROTTENはこのデザインに惹かれて自らここでの撮影を希望。

「素材開発の様子を追いかけた映像に引き込まれました。こんなふうに新たな素材づくりから毎シーズン取り組むブランドを見たことがない」と会場に先乗りしてコメントしたのは、アーカイブ展とフリーズのためにロサンゼルスに渡航したアーティストのYOSHIROTTEN(ヨシロットン)だ。会場で知見を得たストーンアイランドのたゆまぬ研究や実験、技術開発を続ける姿勢について、「テクノロジーと自然を絶妙なバランスで取り扱っているような見せ方に感動しました。自分の作品に通ずるところもある」と語った。

大型スクリーンに月面の映像がループし、42年間のブランド史を象徴するアーカイブジャケットが来場者を圧倒するかのように展示されるエントランス近くのインスタレーションフロアでは、「映像に月が出てきているんですけど、まるでアーカイブのジャケットを着た人々が月の住人のように思えて面白い。この素材を身に纏って地球を離れていった子たち、というか。会場に流れる音も含めて、すごくいいインスタレーションだと思いました」と、YOSHIROTTENは単なる服という存在を超えた、コズミックな感覚をキャッチしたようだ。

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左:実験的に少量限定生産される「プロトタイプリサーチシリーズ」を手に取るYOSHIROTTEN。驚異的な強度や軽量を誇るダイニーマ素材の服は50色の違う染色がなされたもの。 右:ピュアメタルシェルパーカはブラックのナイロン糸にステンレス・スチールのメッシュが施された素材で、金属ゆえに酸化が進み、時間とともに鈍い輝きに変化していく。

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シュプリームとのコラボアウターもお目見え

彼が次に興味を引かれたのは、実験的な目的でつくられる「プロトタイプリサーチシリーズ」の展示だ。大量生産がままならぬ画期的で複雑な素材や染色・加工技術を駆使して、不定期に100着しかリリースされないシリーズから過去の7作品をセレクト。その背景で上映されるのはストーンアイランドの職人たちや生産過程をドキュメントした映像だ。アーカイブ展の感想を聞いた時にYOSHIROTTENが真っ先に語ったのは、ここで初公開された長編ドキュメンタリーのことだった。

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左:作業着の安全のため1992年にリリース。反射素材の研究から誕生した素材は微小のガラスを含む樹脂加工で光を反射。リフレクティブジャケットの変遷を12タイプの展示で遡る。 右:YOSHIROTTENが思わず感動を口にしたドキュメンタリー映像。ここではブランドの飽くなき探究心や現状に甘んじない研究開発、職人による製作過程が描かれている。

ストーンアイランドが信念として掲げる「Lab -Life(モノづくりと連動するコミュニティ)」を体現し、パートナーと組んだカフェやショップが併設され、イベントスペースも用意された最後のフロア。ここではシュプリームやニューバランスなどとの歴代コラボアイテムも展示。

「シュプリームとのコラボは機能性が高い上にちゃんと遊び心が加えられている。素材やプリントも面白くないですか?」

エンボス、刺繍、ファー素材を用いるなど、ストーンアイランドのイメージとは一見異なる自由なデザインが印象的だ。 

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シュプリームやニューバランスなどとの歴代コラボアイテムが並ぶフロア。エンボス加工にYOSHIROTTENは興味津々。

研究開発が裏付ける斬新な技術や素材に、つい目を奪われがちだが、今回の大型アーカイブ展で披露されたのはブランドの根底にある人間的な探究心と、デザインや機能を徹底的に追求して服として具現化するプロダクトデザイン的なゆるぎない哲学、さらにそこに共感してブランドを盛り上げる仲間や顧客のコミュニティだ。ストーンアイランドが自身のスタイルに合っていると語るYOSHIROTTENが感動・共感したのは、アイテムに表現されているブランドの美学やコミュニティの存在ではないだろうか。

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ギフトショップはカナダ発のショップ「ベターギフトショップ」が運営。オリジナルTシャツ、アーカイブのジャケット、アートグッズなど揃う。YOSHIROTTENはレコードを物色。

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ストーンアイランドが支援する、『フリーズ ロサンゼルス』に潜入!

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世界中から95画廊が出展した今年のフリーズ ロサンゼルスの来場者数は3万2千人以上。芸術界やエンタメ界の著名人が出席したパーティも盛大だが、売り上げも好調。

アメリカ最大級のアートフェアとして盛り上がる『フリーズ ロサンゼルス』。今年も3日間で3万人以上の来場者数を記録。

どんなものがいまの自分にとってフレッシュに感じるのかと、アートとの出合いを楽しみにフリーズ会場に到着したYOSHIROTTEN。そこで新たな興味を示したのは、ハンナ・トラオレ・ギャラリーのジェームス・パーキンスの作品だった。

「使われているマテリアルが僕の好きな大理石や木で、なんか気になっていた」という作品群は画材を砂に埋めたり、自然光や風で熟成させたりと“自然”が制作過程において親密な要素だった。自身のアートのテーマとして“自然”に着眼するYOSHIROTTENらしいセンスといえる。

こちらはフリーズの「フォーカス」プログラムに選ばれた画廊のひとつ。数千万~数億円の作品を販売した画廊も多いフリーズだが、各開催地を中心に発足12年以内の画廊を紹介するプログラムも存在する。ストーンアイランドはその「フォーカス」のオフィシャルパートナーとして若手画廊とアーティストの出展を支援している。

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左:「フォーカス」で選ばれたハンナ・トラオレ・ギャラリーのブースでジェームス・パーキンスの作品世界へ。 右:ストーンアイランドが支援する「フォーカス」出展エリアの壁面では、反射素材についての映像を展示。
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左:地元の画廊ソウ&テイラーのブースで、首を上下するブルドッグのオブジェと遊ぶYOSHITOTTEN。 右:ロサンゼルスのギャラリー、マシューブラウンのブースでケント・オコナーが描いた作品を凝視。

アーカイブ展『セレクティッド ワークス ‘982-‘024』

ストーンアイランドの42年にわたる歴史とビジョンが凝縮された大型アーカイブ展を、アートフェア『フリーズ ロサンゼルス』と連動してロサンゼルスで開催。アーカイブ展は日本では2019年、韓国で23年に行われたが、アメリカ国内では初となった。

※現在この展示は終了してます。

ストーンアイランドジャパン

www.stoneisland.com/jp
Instagram:www.instagram.com/stoneisland

『フリーズ ロサンゼルス』

1991年にロンドン初の現代アート誌として始まった『フリーズ』。現在、その目玉は毎年ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス、ソウルにて開催されるアートフェアへ。ロサンゼルスでは例年グラミーやアカデミーなどアワード授賞式シーズンの真っ盛りに開催される。

YOSHIROTTEN

グラフィックアーティスト、アートディレクター

1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


Official Site / YAR

YOSHIROTTEN

グラフィックアーティスト、アートディレクター

1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


Official Site / YAR