何気ない日常の風景をトリミング。“ミニマル写真”で世界と対話する、若き写真家・金本凜太朗の視点

  • 写真:齋藤誠一
  • 文:長谷川 希

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スマホやSNSによって誰でも、いつでも、どこでも写真を投稿・発表できる時代。その中で写真家、金本凜太朗の作品は光る。日常の風景を独自の視点で切り取るグラフィックアートのような作品はSNSなどで大きな反響を生み、今年は佐藤卓がクリエイティブディレクションを手掛け、過去には石川直樹や川内倫子が担当した『大地の芸術祭』の公式カメラマンに抜擢。そんな彼に、写真との出合いとこれからの展望を訊いた。---fadeinPager---

少年時代の野鳥観察が、写真を撮るきっかけに

_22A2682.jpg金本凜太朗(かねもと・りんたろう)写真家
1998年生まれ、広島県出身。2020年に東京綜合写真専門学校卒業後、東京を拠点に活動を開始。雑誌や広告の撮影をはじめ、写真展の開催やZINE制作など、幅広いジャンルで精力的に活動中。
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一見、絵のようにも見える写真。逆さに積み重なるMILOのカップに注目し撮影した。金本の写真は、最小限の要素で構成する“ミニマル写真”と呼ばれる。

――まずはじめに、写真を撮り始めた経緯を教えてください。

小学校4年生のとき、自然好きの友人に誘われて、休み時間に野鳥観察を始めたんです。そのうち見つけた鳥を記録したいと思うようになり、休みの日には親のコンパクトデジタルカメラを借りて、ポケモン図鑑をつくるような感覚で写真を撮り始めました。

――日本野鳥の会にも入っていたとか。

そうなんです。毎週末、探鳥会(バードウォッチング)があって海や山へ行っていました。会員の中には、いいスコープを持っていたり、バズーカのように大きなレンズが付いた一眼レフを担いでいる方がいたりして、憧れましたね。その影響もあって11歳の誕生日にはコンデジの中でもグレードの高いカメラを買ってもらいました。

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左:日本野鳥の会時代に撮影した写真。さまざまな角度から狙い、図鑑に載っている動物のように切り取った。 右:スコープから覗くように撮った一枚。彼の好奇心が垣間見える。

――自分のカメラを持ち始めてから、野鳥以外も撮影するようになったのですか。

はい。ずっとカメラを持って、ご飯やおやつ、窓から見える景色、友人など、身の回りのモノをとにかく撮りまくっていました。ときには氷や、雨粒が付いた車体をズームして撮影したり。いま思うとテクスチャーに興味があるところは変わっていないですね。むしろ当時の方がいろいろなものに興味を持ってカメラを向けていたような気もします。

――当時から、将来は写真を撮る仕事がしたいという気持ちはあったのですか。

最初はそういうことは考えずに、とにかく好きだから没頭していました。中学校に上がるタイミングで、貯めていたお年玉で一眼レフを手に入れて。それまではずっとオートだったんですけど、マニュアルで撮影するようになり、ブレやボケなどの撮影技法を片っ端から試しましたね。同時にInstagramを始めて、自分の作品を発信するようにもなりました。

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撮った写真を画像処理ソフトでトリミングして“ミニマル写真”に仕上げる金本。「ひとつの要素でも、写真のなかに入れるか入れないかでかなり印象が変わるんです」

 ――初期のInstagramは正方形の写真しか投稿できなかったですよね。金本さんの写真は最小限の要素で構成する“ミニマル写真”と呼ばれると思いますが、Instagramの影響もあるのでしょうか。

そうですね。見返してみると、当時から写真をトリミングするのが当たり前になっていました。広い背景から一部を切り取る技法はこの時に確立しましたね。ちなみに、フォトコンテストに応募するようになったのも中学校時代からです。その後、高校1年生のときには日本写真家協会主催のコンテストで最優秀賞を受賞して、表彰式に出るために初めて東京へ行きました。そのとき、関係者の一人に写真の専門学校の講師がいて「うちにこない?」と誘われたのがきっかけで、卒業後に上京することになって。このときにはもう「自分には写真の道しかないな」と思い始めていました。---fadeinPager---

内向的な自分にとって、写真はコミュニケーションツール

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2019年、電車のつり革を撮影した作品。何気ない日常風景も切り取り方ひとつで世界が変わって見える。
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工事現場の作業風景を切り取った一枚。

――「写真の道しかない」というのは、他の選択肢もいろいろと検討したうえで、導き出した考えだったのでしょうか。もしくはそれ以外思い浮かばなかった……。

自分のなかで他の選択肢はまったくありませんでした。高校時代には学校のイベントでカメラマンを務めたり、Instagramのつながりで地元の広島で開催される撮影会にもよく行っていたんです。引っ込み思案な自分にとって、言葉がなくとも写真を通じてコミュニケーションをとれることが嬉しくて、「自分が世の中の役に立てるとしたらこれだ」と思いました。

――本格的な写真の勉強は専門学校が初めてだったかと思います。なにか変化はありましたか。

それまでは興味があるものを純粋に撮っていただけだったのですが、学ぶことで「これは過去に誰かが撮った写真と同じなんじゃないか」とか「最初にテーマを決めてから撮った方がいいのか」という先入観に囚われてしまうようになったんです。そんなときに知人から「君の写真は、初めて地球に降り立った宇宙人が撮影したようだね」という言葉をもらって、客観的に自分の作品を見ることができました。「撮り続ければ、それがテーマとなって浮かび上がっていくものなんだ」「僕はそのままでいいんだ」と、安心した覚えがあります。

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「気になるモノ、瞬間を撮り逃したくないので、カメラは常に持ち歩いています」

――写真を撮影するときは、どんなことを考えているのでしょうか。

たとえば街を歩いていて「ビルの窓枠の形が気になる」や「丸や四角い標識が並んでいる風景が面白いな」といったことを考えています。感情を言葉にするのが苦手なので、自分の目に映っている風景を写真で示すのが一番伝えやすい。出来上がった作品を見てもらい感想を聞くと、自分が気付かなかった一面がまた見えてきたりして、それが楽しいですね。なので、まずは写真を好きなように解釈してほしいです。

――活動を続けていくうえで大切にしていることはありますか。

ファーストインプレッションを大切にしています。難しいことですが、馴染みのある場所や被写体でも、初めて接したような気持ちで向き合いたい。仕事だと自分でセッティングしない初めての場所に行くことが多いので、その点新鮮な気持ちで臨めていますね。あとは、写真に行き詰まったら降りたことのない駅でふらっと下車してカメラを構えて、写真を始めたときの純粋な気持ちを思い出しています。---fadeinPager---

そしてつかみ取った、憧れの存在との仕事

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都内の高層ビルから街を見渡し、フットサルコートを撮った。

――仕事でいうと、今年は『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024』の公式カメラマンを担当されていますよね。

お話をいただいたときには嘘かと思いました。クリエイティブディレクターを務めている佐藤卓さんは憧れの存在。幼い頃、父親の膝の上で佐藤さんが出演した『情熱大陸』を見ていたので(笑)。両親も喜んでくれましたね。メインビジュアルになった写真は、新潟県の越後妻有というエリアをひたすら回って、そこで暮らす皆さんに声をかけてゲリラ的に撮影した中の一枚です。農機具を洗っている方に声をかけて撮らせていただいたんですが、その日は人生で一番暑くて、汗だくになりながら撮影していました。図らずも、その熱気が伝わるようなビジュアルになったなと思います。新潟県自体に初めて行ったので、見たことがない景色のなかで夢中になれました。

――ご自身にとってひとつの大きな仕事を経たうえで、これから写真家としての目標はありますか。

最近はテーマをもらって撮影する面白さも感じていて。自分の作品づくりも続けながら、いろいろな仕事にも挑戦していきたいと思っています。いままでは自分の世界で生きてきたので、写真を通じてもっと世界とつながっていきたいですね。

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大地の芸術祭 メインビジュアル

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新潟県で開催する『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024』で金本はメインビジュアルや作品撮影などを担当。会期は7月から11月まで。約300点が展示される。

LOCKET Magazine Exhibition A SKI RESORT by KANEMOTO RINTARO

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旅雑誌『LOCKET』第6号のスキー特集にて撮り下ろした作品の展示会を今年2月に鎌倉で開催。作品は一部完売、大盛況に終わった。「メインビジュアルの写真は偶然撮れた奇跡の一枚です」