「ウォッチズ&ワンダーズ」の華ともいえるのが、この大舞台に満を持して発表されるコンプリケーションウォッチ=複雑時計の新作だ。目を奪うほどに凝らされた超絶技巧も驚きのプライスも、すべては世界最大の腕時計の祭典を賑わす喝采の対象だ。
ジャガー・ルクルト「デュオメトル・ヘリオトゥールビヨン・パーペチュアル」

「デュオメトル・ヘリオトゥールビヨン・パーペチュアル」は、ジャガー・ルクルト初となる3軸トゥールビヨン構造を搭載。さらにグランドデイトを備えた永久カレンダーも装備するこのグランドコンプリケーションウォッチは、計時機能の精度を追求しながらも複雑機構を追加できるデュオメトル機構ならではの成果といっていいだろう。「精度」をテーマに据えた今年のジャガー・ルクルトを代表するモデルであり、サブダイヤルも一つひとつ繊細な仕上げが施され、複雑時計でありながらも美観を保持している。
ふたつの香箱とふたつの輪列がひとつのキャリバーに組み込まれたデュオメトルは、ひとつの輪列が時刻表示、もうひとつがその他の追加機能を動作させる。そしてシリンダー形ヒゲゼンマイを装備するヘリオトゥールビヨンは、3つのチタン製ケージを3軸上で回転させる構造。40 度に傾斜した軸で30秒に1 回転するふたつのケージと60秒で1 回転するケージが、目を惹きつけて離さない未知のアクションを見せる。時分を戻してもダメージを受けないシステムの永久カレンダーも秀逸だ。多くの動力を消費するこの時計で正確無比な計時性能を保証する技術力たるや、まさに脱帽である。
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IWC「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」

「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」は、IWC初のセキュラー・パーペチュアル・カレンダーであり、永久カレンダーの最高峰に位置する傑作だ。400年に一回だけ回転する歯車を組み込み、グレゴリオ暦の閏年の例外規定に自動的に対応。例外的に閏年ではなくなる2100年、2200年、2300年をスキップして平年表示し、2400年は正しく閏年表示を行う。
この超絶機構により、最低でも西暦3999年までは日付表示を変更する必要はない(西暦4000年を閏年にするかはまだ未定のため)。さらに、南北両半球の月相を表示する特徴的なダブルムーンフェイズは、4500万年に1日しか誤差が起きない驚異のレベルにまで進化。特殊なコンピュータプログラムを駆使して3個の中間車を用いた新しい減速輪列を開発するまでに、22兆通りを超える組み合わせをシミュレーションしたという。
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A.ランゲ&ゾーネ「ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”」

ケース素材にハニーゴールドを新採用し、初のルーメン(夜光)仕様。世界50本限定の「ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”」は、新たなステージに昇ったA.ランゲ&ゾーネのコンプリケーションモデルだ。フライバッククロノグラフをはじめ、永久カレンダーやストップセコンド機構を備え、トゥールビヨンまでも加えた複雑時計は、2016年の発表以来、世界の時計ファンの間では垂涎のモデル。その注目作が半透明ダイヤルと夜光性コーティングも携え、暗がりでもその個性を遺憾なく発揮する。
A.ランゲ&ゾーネの中でも限定モデルとなるルーメンシリーズの第6弾であり、2021年に発表された「ツァイトヴェルク・ハニーゴールド “ルーメン”」に続く、ハニーゴールドとルーメンを組み合わせた第2弾モデルである。まさに、希少を極めた複雑時計と言えるだろう。
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パテック フィリップ「ワールドタイム 5330」

選択されたタイムゾーンの現地時刻と日付を完全同期させて表示できる、特許を取得した世界初の機構を備えたワールドタイマー「ワールドタイム Ref.5330」。パテック フィリップが昨年6月に東京で開催した『ウォッチアート・グランド・エキシビション』で限定モデルとして発表したものが、待望のレギュラーモデルとして仲間入りした。世界24地点の現在時刻を一望できるワールドタイムは、外周のポインターデイトと連携。都市表示リング上に赤いドットで記されたオークランドとミッドウェイ間の国際日付変更線をどちらに跨いでも、日付は時刻に追随して前進も後退も行うことができる。
この有益な機能のために、新しいムーブメント「キャリバー240 HU C」を開発。ふたつの同軸の歯車(星車)からなる中央差動システムが制御する現地時刻の日付表示システムは特許を取得している。カーボンパターンのダイヤルや、昼夜をシルバーとブルーグレーの2色で色分けした24時間表示リングなど、細部へのこだわりも見逃せない。
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ピアジェ「アルティプラノ アルティメート コンセプト トゥールビヨン」

創業150周年を迎えたピアジェが、記念すべき年に見せた新作が「アルティプラノ アルティメート コンセプト トゥールビヨン」だ。ケースの厚みがコイン一枚ほど、わずか2mmという薄さの中にトゥールビヨンを搭載。これまでの常識ではありえないコンプリケーションウォッチは、同社が誇る超薄型時計の最高到達点である。ピアジェはこれまでにも、ケース厚7.39mmという極薄トゥールビヨン「アルティプラノ」をラインアップしてきた。
遡ること2020年には、「ジュネーブ・ウォッチ・ グランプリ(GPGH)」で「金の針賞」を受賞した、厚さ2mmの「アルティプラノ アルティメート コンセプト」を発表している。そして今回、極薄トゥールビヨンと超薄型ウォッチの超絶技巧が奇跡的に融合し、この新作が誕生した。通常は下側から支えるフライングトゥールビヨンを側面からボールベアリングを介して支持することで厚みを回避し、サファイアクリスタルの厚みも文字盤側で0.2mmにまで抑えた。あらゆる技術が駆使されながらも、それでいて美しさを誇る腕時計は、ピアジェの位置する高みをまさに示している。
さまざまな複雑時計に挑むブランドはみな、腕時計にはまだまだ進歩の可能性があることを、世界に知らしめるチャレンジャーたちだ。人智を超えるような複雑機構が目白押しとなった2024年の「ウォッチズ&ワンダーズ」は、今年も時計業界において最高の舞台であることを自ら証明してみせた。