死後に発覚した夫の秘密… 残された家族の遺品整理と片づけとは?

  • 文:横森理香

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写真はイメージ(ShutterStock)

身近な人に死が訪れたとき、葬儀から法事、遺産相続、家の整理、お墓問題など、やらなくてはならないことがたくさんある。作家・エッセイストの横森理香さんが自身の体験をもとにつづったエッセイ『親を見送る喪のしごと 亡くなったあとにすること。元気なうちにできること。』では、親を見送る世代のために、いまからできる“喪のしごと”を紹介している。

本記事では同書から一部を抜粋。死後に夫の秘密を知ってしまったある家族のケースを取り上げる。

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子どもがいる夫婦の場合

懇意のイントゥイティブカウンセラー、村山祥子さんの夫君が亡くなったのは三年前。糖尿病性昏睡だったという。朝、急激に血糖値が上がって自宅で倒れ、連絡がないのを不審に思った職場の人に発見され、搬送された。

「出勤しようと思って制服に着替えてたの。ズボンはいて、ベルトする前に倒れちゃった」

村山さんは娘たちの進学のため東京住まい。夫君は霧島の山の家から通勤、仕送りしていたという。

「私が病院に駆け付けたときは、もう亡くなっていたの」

夫君の実家は鳥栖なので、鳥栖での葬儀から始まって、さまざまな手続きのため、東京から鹿児島に何回も通わなければならなかった。

「三、四か月かかったかなぁ。いやー、大変だった」

と当時を振り返る村山さん。

「幸い、相続人が私と娘二人だけだったので、遺産分割協議書を作って、財産分与に関してはスムーズに進んだの。霧島の山の家買ったときもお世話になった、友人の司法書士にお願いして」

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知らなかった夫の秘密

「実は、私たちが知らないアパートを借りていて。呑み屋から這ってでも帰れる街中にあったんだけど、まずそこを解約するのが大変だったの」

山の家は国立公園の中にあり、街場からは車で一時間ほどかかる。呑んだら運転もできないし、呑みに行くのが好きだった夫君は、家族には内緒で部屋を借りていたのだ。

「携帯電話の履歴を辿ってね、がーっと、かなり辿って、やっとアパマンショップが出てきたのよ」

入ってみると、たいした荷物はなかったという。

「ほんとに寝るだけの部屋だから、ベッドも膨らませて作る簡易ベッドだったの」

まずそこを片づけて、アパートを解約し、夫君の会社とのやり取りから始まった。管理会社に勤めていたので、制服や備品の返却、諸々の書類作成。銀行関係、保険金請求、遺族年金の手続き、さまざまなものの名義変更。

「定期預金にあるはずだった百万円もなくなっていて。ガールズバーに二十万円、三十万円使ってたのよ」

「ひええっ」

うちの母もそうだが、人は死ぬ前、好きなことにお金を使うものなのだろうか。母はお買い物、村山さんの夫は呑み屋と、所持金は使い切る。

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時間のかかる遺品整理

「霧島は売ることにしたので、遺品整理と片づけで一年半ぐらいは毎月、鹿児島に帰っていました」

霧島の山の家は、私も家族で何度かお邪魔したことがあるが、四千ヘクタールの雑木林の中にある。環境保護の観点から、この雑木林を保護する意志で住み続けたのは、直系の村山さんではなく、夫君だった。

「鬱蒼として家に日が当たらなくなったからって木を切ると、烈火のごとく怒ってね」

そこは村山さんの父親が買った土地で、山の家も建てた。別荘として使っていたのだが、晩年は半分ぐらい住んでいて、お父様もそこで倒れた。よって、親の代からのさまざまなものが使ってない部屋に詰め込まれていた。

夫君が愛してやまなかったステレオセットと大量のレコード、CD。十代の頃から愛用していたもので、夜、お酒を飲みながら音楽鑑賞するのが好きだった。その他さまざまな調度品や家具、すべて大きなものなので、東京の家には入らない。

「母の買い集めたものはアンティークショップにタダ同然で売って、レコード九百枚、CD五百枚は東京のレコード屋さんに売ったの。段ボールを送ってくれるからそれに詰めて。DVDやMDは捨てて、オーディオや楽器は地元の音楽関係リサイクルショップに、ピアノは買ったお店が買い取ってくれたの」

片づけて、売れる状態にしても、山林は二束三文だという。

「四千万で買った土地が、たった五百万にしかならないの。それでも固定資産税がかかるより、売ったほうがいいから考えあぐねてたんだけど……」

最近になり、市が環境保護のため買い取ってくれることになった。買ったときの半値だが、二千万で売れた。

「山林は目的があって買う人には価値のあるものだけど、そうでないとお金にはならないの。だからこれは、その土地のことや買い手をよく知る地元の人に相談したほうがいいの」

亡くなってから三年。時間はかかったが、故人も環境保護の遺志を果たしたのだ。

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『親を見送る喪のしごと 亡くなったあとにすること。元気なうちにできること。』
横森理香 著
CCCメディアハウス
¥1,650

【著者】
横森理香(よこもり・りか)
作家、エッセイスト。「一般社団法人 日本大人女子協会」代表。1963 年生まれ。多摩美術大学卒業。現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代♥大人女子のための“お年頃”読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちん バブル純愛物語』はバブル時代を描いた唯一の小説と評され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブで翻訳出版されている。また、「ベリーダンス健康法」を発案、主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行う。2017年11月、「一般社団法人 日本大人女子協会」を設立、大人女子の「健康」「美」「幸せ感」を高める活動をしている。

【オフィシャルサイト】http://yokomori-rika.net/
【協会ホームページ】https://otonajoshi.or.jp/
【Ameba 公式ブログ】https://ameblo.jp/arafif-life55