築70年のビルに入居するギャラリーから高層ビル内のスペース、国宝が並ぶ美術館まで。ウェブ版『美術手帖』編集長の橋爪勇介が、東京の最新アートスポットをナビゲート。
Pen最新号は『東京がおもしろい!』。都市は新陳代謝を繰り返し、常に変化し続ける。世界屈指のメガシティ、東京はなおさらだ。アフターコロナのいま、気がつけばあちこちで新しい動きが起きていた。世界中の人々を惹きつける新旧混じり合うこの都市で、いまどこへ行くべきか? 2020年以降オープンのショップからクリエイターたちのお気に入りまで、東京の“ いま”がここにある。
『東京がおもしろい!』
Pen 2024年3月号 ¥880(税込)
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ウェブ版『美術手帖』編集長
橋爪勇介
1983年、三重県生まれ。立命館大学国際関係学部卒業。美術出版社に入社後、ウェブ版『美術手帖』の立ち上げに携わり、副編集長を経て2019年より現職。
<麻布台ヒルズが発信する、都市生活の中のアート体験>
「“体験”が重視されるいま、アートはコンテンツとしてなくてはならない存在になっています」
ウェブ版『美術手帖』編集長の橋爪勇介は、近年相次いで開業した巨大複合施設のギャラリーや美術館についてこう語る。今秋、京橋にオープンする戸田建設の高層ビル内にも、小山登美夫ギャラリーなどが入居するギャラリーコンプレックスが誕生予定。アートへの関心はますます高まっている。そんななか話題になっているのが、世界8都市に拠点をもつアメリカのギャラリー、ペースの麻布台ヒルズへの進出だ。
「世界の主要都市と比べると、東京のマーケットは弱いのですが、なぜそれでも来るのか。ペースのCEOに取材すると、ポテンシャルが高いから、と。東京は文化にどっぷり浸かることができ、訪れたいと思わせる魅力がある。そういう場所に拠点をもつのはステータスにもなるのです」
橋爪は、東京の文化を支えているのはそこに住む人々の感度の高さだ、と考えている。
「東京は古美術から現代美術まで扱うギャラリーや美術館が無数にあるミュージアムシティ。銀座には古いビルの一室にあるような画廊が点在していて老舗も多い。小粒なものから大規模施設まで、アートスポットは増え続けている」
あらゆるアートが身近な環境を楽しまない手はない。
【麻布台】麻布台ヒルズギャラリー
アートからエンターテインメントまで、人と文化をつなぐ新スペース
「近年オープンしたアートスポットの中で間違いなく話題性が高い」と橋爪も注目する麻布台ヒルズ。文化施設の展開に力が注がれており、その中核となるのが麻布台ヒルズギャラリーだ。こけら落としは環境や社会に強い関心を寄せた作品で世界的に知られるオラファー・エリアソンの個展。麻布台ヒルズ内の日本一の高さを誇るビル、森JPタワーにもパブリックアートとして彫刻を設置したことから企画された。今後ギャラリーではファッション、音楽、エンターテインメントなどのイベントも開催予定。今春開業のギャラリー、ペースなど、麻布台ヒルズに出店するアート施設とも連携していく。
【麻布台】森ビル デジタルアートミュージアム:
エプソン チームラボボーダレス
爆発的人気のミュージアムが移転、都心の地下で作品世界に浸ろう
2018年に東京・お台場に開館。翌年には世界で最も年間来館者数が多い美術館としてギネス世界記録に認定されたチームラボボーダレスが麻布台ヒルズに移転。もともと来館者の約半分は訪日外国人だったが、コロナ禍を経てさらに人気が高まり、日本を代表するアートミュージアムとして発展している。「ここを起点に麻布台ヒルズに人が集まるということもあり得る」と、橋爪。館名には、境界なくつながる作品群で構成された「地図のないミュージアム」という意味が込められ、鑑賞者を特別な知覚体験へと誘う。新作や日本未発表作品が多数公開される。
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<アートファンを魅了する、話題のギャラリー>
【虎ノ門】TOKYO NODE GALLERY A/B/C
ビジネス街に仕掛けられた、クリエイティブ拠点
2023年10月、虎ノ門ヒルズに開業したステーションタワーのTOKYO NODE(トウキョウ ノード)。運営する森ビルは「ビジネスの中心地にこそ、クリエイティビティを刺激する仕掛けが必要」との考えから、多くのオフィスが入る複合ビルにビジネス、アート、テクノロジー、エンターテインメントの垣根を越えた情報発信拠点をつくった。45階の3つのギャラリーには最高天高15mのドーム型展示室などがあり、没入体験の演出などに最適。「体験型展覧会は世界で人気。ここから実験的なアートが生まれる可能性を秘めている」と、橋爪。
【馬喰町】まるかビル
問屋街に集った、実験的アート複合施設
馬喰町のまるかビルには3つのギャラリーが入居する。ビル裏にあるDDD ホテル内のギャラリーPARCEL(パーセル)の別館parcel、デジタルアートのプラットフォームを運営するNEORT(ネオルト)が実空間で展示するNEORT++(ネオルトツー)、運営、作家ともに若い世代が担うCON_(コン)と個性あるギャラリーが集まり、2022年に誕生。問屋街であるこのエリアにはギャラリーが点在し、アートの街としても知られている。橋爪いわく、「築70年というビル自体も面白いし、若いギャラリーは街を活気づける」
【丸の内】BUG
ネーミングも気になる、開かれた表現の場
BUG(バグ)は、リクルートホールディングスの本社があるグラントウキョウサウスタワーに2023年9月に開設されたアートセンター。同社は30年以上にわたりギャラリーを運営し、展覧会や『ひとつぼ展』『「1_WALL」』など若手作家の登竜門となった公募を開催してきた実績がある。それらをアップデートしてアーティストが新しい表現に挑戦する機会と場所を提供。東京駅八重洲南口直結で、ビジネスパーソンで賑わうカフェも併設している。「立ち寄りやすい立地は、一般の人がアートに触れる機会を創出することにもなる」と橋爪。
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<国宝級の名品を誇る美術館が、続々リニューアル>
【皇居】皇居三の丸尚蔵館
皇居内で公開される、皇室ゆかりの名品
「日本美術の神髄に触れることができる」と橋爪が推すのは、名称も変わって新たなスタートを切った皇居三の丸尚蔵館。伊藤若冲『動植綵絵』、狩野永徳『唐獅子図屏風』、鎌倉時代の絵巻『春日権現験記絵』といった国宝など、皇室に代々受け継がれてきた貴重な品々を公開している。現在、収蔵庫と展示室を拡充するため新たな施設の建設が進められており、2023年11月から一部開館が始まっている。展示面積は旧施設の4倍の広さとなり、大型作品も公開可能になった。全面開館は2026年の予定。期待して待ちたい。
【丸の内】静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)
国宝や重文の品々を、由緒ある建築で堪能する
古典主義様式の佇まいが美しい明治生命館内にリニューアル開館した静嘉堂。三菱第2代社長の岩﨑彌之助と4代社長の小彌太が築いた、国宝や重要文化財を含む東洋古美術品6500件以上を収蔵する世田谷の静嘉堂文庫美術館の展示部門が移転した。彌之助は、丸の内をオフィス街として開発するにあたって美術館などの文化施設が必要と考えていたことが当時の資料からわかっており、その構想が創設130年を経て2022年に実現した。「重要文化財の建築で国宝『曜変天目』など岩﨑家の名品を鑑賞する体験は素晴らしい」と橋爪も絶賛。
【上野】国立西洋美術館
ル・コルビュジエによる、世界遺産登録の美術館
ル・コルビュジエによる建築作品としてユネスコの世界文化遺産に登録された国立西洋美術館。設計意図に忠実なかたちへと近づけるため、2022年に前庭をリニューアルした。植栽、西門からのアプローチ、柵の変更などのほか、シンボルとなっているロダンの彫刻『考える人』などを移動し、細部にわたり復原。本館の19世紀ホールは無料開放エリアとなり、全面的により開かれた美術館へと生まれ変わった。橋爪が「必見」と薦めるのは、モネの『睡蓮』はじめ収蔵品の礎を築いた松方コレクション。リニューアルを機に訪れたい。
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