タイ・バンコクで必見のデザインショップ8軒

  • 写真:松井聡美(P1〜5)、坂本陽子(P6)、森山将人(P6)
  • 文:藤村はるな

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いま、バンコクのデザインシーンの潮流に大きな変化の兆しが表れている。モダンにアレンジしつつも自国の文化やアイデンティティを取り入れる、そんな伝統回帰の流れを象徴する8店舗をピックアップした。

Pen最新号は『バンコク最新案内』。再開発が進み、新たな価値を創造するタイの首都・バンコク。本特集では、各分野の最前線で活躍するキーパーソンに話を訊くとともに、訪れるべき旬のスポットを紹介。驚くべきスピードで進化を続けるバンコクには、「いま」しか見られない姿がたくさんある。

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タイ固有のデザインとはなにか。そう問いかけられて、明確に答えられる人は少ないだろう。「自国の文化が急速に失われつつあるという危機感が、製作の原動力になっている」と語るのが、タイの伝統技術を活かしたインテリアを手がけるサムパットのラット‘ギャスパー’プリアンスックだ。

「タイ人の間でもタイの伝統的デザインや工芸品に関心がある人は決して多くありません。結果、タイで育まれてきた技術や独自の感性が消えつつあります。その危機感から、タイに残る文化や知恵を、デザインを通じて人々に伝える重要性を感じています」

こうした自国文化への回帰は、近年タイ国内で強まっている。インテリアメーカーであるポディウムのチャルーンワット・マウリークンパイロートもこう続ける。

「私たちの製品は、西洋スタイルの中にも、アジア人の感性を大事にしています。たとえば、籐やペーパーロープなどの素材を用いた家具で意識するのが陰影です。タイには影絵の文化もありますし、なにより日差しが強い。その特性を表現するため、陰影が美しく出るデザインを取り入れています」

自国の文化に対する意識の高まりはどこから生まれたのか。タイ文字をあしらったセカンドハンドグッズを中心に展開する、ジ・オンリー・マーケット・バンコクの創業者ジラワット‘メン’シールアンソイは次のように分析する。

「私も含め、いまタイのデザイン業界で活躍する世代は、若くして留学やインターネットで外国文化を吸収するなど、海外志向も強かった。ただ、コロナ禍を経て自国の文化に目を向け、その魅力を再確認した人も多く、“タイらしさ”をデザインに昇華させる動きが強まっています。また、グローバリゼーションへの反動やサステイナブルな視点から、ローカルへの関心も高い。私たちタイ人は、長い間貧しい時代を過ごしてきたので、少ない材料で新たなものを生み出すのは慣れている。今後、どんなデザインが生まれるのか、私自身も楽しみです」

世界で学んだクリエイターたちが、自国の文化を咀嚼し、かつてない熱量で新たなものづくりに取り組む。いま花開く、タイのデザインを見ていこう。

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ポディウム

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本社にあるショールームでは、ラインごとにスペースを分けて家具を配置。その場で購入することも可能だ。

ヨーロピアン家具に宿る、アジアの技術と知恵

40年間培ったクラフツマンシップと、欧州スタイルの木製家具にアジアンテイストを盛り込んだデザインで、国内外から熱視線を集めるのが家具メーカーのポディウム。日本でも「ザ・コンランショップ 代官山店」をはじめ、多数の店舗でその商品が扱われている。代表を務めているチャルーンワット・マウリークンパイロートが語る、そのコンセプトとは?

「意識するのは西洋式の家具の中に、東洋人の感性を織り込むこと。西洋と東洋が交じり合う、美しいデザインを目指しています」

エレガントで機能的なデザインには、アジアならではの知恵も詰まっている。

「西洋諸国がアジアを統治していた植民地時代、布製の欧米の家具は東南アジアではすぐに湿気ってしまいました。そこで、布の代わりに現地の籐や竹などを使うようになり、タイ独自の家具文化が育まれた。そんなアジアの歴史や文化から生まれたクラフツマンシップが、私たちの家具に活かされています」

●60/3 Soi Sibumphen,Thung Maha Mek, Sathorn, Bangkok 
TEL:0-2120-6458  10時~19時
無休 
https://podium.co.th

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サムパット

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タイで最も古い屋外娯楽といわれるナンヤイ。その技術を応用した虎の敷物は、飴色の光沢感が美しい。

消えゆく伝統文化を、モダナイズして継承

失われつつあるタイの伝統工芸技術を駆使し、重厚感あふれるインテリアを発信するサムパット。デザイナーのラット‘ギャスパー’プリアンスックは、バンコクやフランスでアートを学び、同ブランドをスタートした。

「タイも近年どんどん近代化が進んでいますが、一方で伝統工芸の需要が減り、後継者不足で職人たちもしだいに姿を消しつつある。たとえば、タイ南部の伝統文化として知られる影絵人形劇ナンヤイは、コロナ禍の影響で上演される機会が激減し、いまや影絵人形をつくれる職人はタイにわずかしかいません。貴重な伝統技術や職人を守り、継承するため、技術を活かしたアイテムを製作し国内外へ発信しています」

タイ各地の伝統工芸を探しては、現地の人とともにプロダクトづくりを進める毎日だという。「幼少期の夢は、インディアナ・ジョーンズになることだった」と語るギャスパーだが、国内の宝である文化を発掘・保存するその姿は、まさに彼が憧れたヒーローそのものだ。

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ギャスパーの作品はグッドデザイン賞も受賞。店舗は複合施設「アイコンサイアム」に入居。

●ICON CRAFT, ICON SIAM 4F,299 Soi Charoen Nakhon 5 Charoen Nakhon Rd,Khlong Ton Sai, Khlong San, Bangkok
TEL:08-1171-2553  10時~22時
休日:アイコンサイアムに準じる 
https://sumphat.com

アレキサンダー・ラモント 

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日本のタンスをエイの皮で覆った作品。江戸時代、アユタヤ朝からエイ皮を日本が輸入した記録にちなむ。

英国人作家の審美眼が光る、斬新な異素材ミックス

バンコク都内のルイ・ヴィトンや「オークラ プレステージバンコク」などにも作品が採用されるのが、タイを拠点に活動するイギリス人デザイナーのアレキサンダー・ラモント。自らの名を冠した同ブランドの特徴は、素材への強いこだわり。羊皮紙や藁などヨーロッパで身近な素材に、エイの皮や漆などアジアの伝統素材を組み合わせた作品を数多発表している。

「さまざまな素材や技術を融合させ、現代仕様にアレンジし、誰も挑戦していないデザインを生み出すのが、作品へのこだわりです」

彼の斬新なアイデアの源には、バンコクという環境は欠かせないものだという。

「13歳で初めてタイに家族旅行で訪れた時、私はこの国に恋をしました。雑踏やカラフルな乗り物、熱気など、自分が育ってきた国とはまったく異なる世界が広がっていたからです。英国人の私は、いつまでもタイでは“よそ者”です。でも、だからこそ、この国にいる限り、新たな刺激を受け続けられるのだと思います」

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幼少期に父と世界各地へ赴いた経験や、ディーラーとして旅した経験も作品に活きる。

●Warehouse 30, 60/1 Charoen Krung Soi 30, Bang Rak, Bangkok
TEL:0-2233-4968  10時~19時
休日:月 
www.alexanderlamont.com

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ピー・パラディオ

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いちばんのお薦めは壁紙。色やサイズ、モチーフなどまで自身でカスタマイズできる点も魅力。

ポップな世界観が目を引く、壁紙やクッション

ヒョウやロブスターが佇むポップな世界観で話題を呼ぶのが、アーティストのポムチャンが手がけるスウーン・スペース。同インテリアブランドを扱う「ピー・パラディオ」の経営者スパシャード・オークンギットがその理由を語る。

「ネットで海外の情報が簡単に手に入る現在、タイの若い世代のセンスは確実に上がっています。同時に、コロナ禍で室内時間が増え、インテリアへの関心度も高まっていますね」

特に需要が高いのが、温もりを感じさせるハンドクラフト要素があるアイテムだという。

「iPadなどでも簡単に作品が生まれる時代だからこそ、ポムチャンの手描きの原画を用いた壁紙や職人が刺繍したクッションが人気です」 

●129/8(Room A2), Sukhumvit Soi 49,Klong Tan Nuea, Watthana, Bangkok 
TEL:08-2441-5491  11時~18時 
休日:日 
www.facebook.com/ppalladio 

ソナイト・イノベーティブ・サーフェシーズ

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「殻」を意味する「ハスク」のプレートシリーズ。材料の40%にもみ殻を使用。日本でも2021年のグッドデザイン賞を受賞。各300〜500バーツ

もみ殻やココナツで、テーブルウエアを製作

ここ数年のデザインシーンで、注目されるサステイナビリティへの配慮。温暖化問題に焦点を当て、米のもみ殻やココナツの繊維、卵の殻などを活用した食器や雑貨を生み出すのがソナイト・イノベーティブ・サーフェシーズだ。

近年、タイでは農業廃棄物の大量焼却が、温暖化の一因として問題視されてきた。ソナイトは、当初はインテリア用タイルなどを製造販売していたが、その技術を応用。脱穀時に出るもみ殻を使用した「ハスク」シリーズをはじめ、廃棄予定の天然素材を使用した食器類を開発。流行に左右されないデザインに加え、豊富なカラーバリエーションも揃う。陶磁器よりも軽く、温もりある手触りは、まさに天然素材ならでは。 

●ICON CRAFT, ICON SIAM 4F, 299 Soi Charoen Nakhon 5 Charoen Nakhon Rd, Khlong Ton Sai, Khlong San, Bangkok
TEL:08-9813-1733  10時~22時
休日:アイコンサイアムに準じる 
https://sonitesurfaces.com

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ジ・オンリー・マーケット・バンコク

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看板商品は、タイ文字のTシャツ。各1,990バーツ

ローカルなタイ文字を、デザインとして再解釈

セカンドハンドのTシャツやリサイクル素材のバッグなどにタイ文字をあしらい、一躍話題を呼んだ同ブランド。創設者のジラワットʻメンʼシールアンソイは、海外とのコラボも多数行うタイポグラフィ・アーティストだ。彼がブランドを始めたのは、海外の人にタイ文字をはじめとするタイの文化を知ってもらい、現地の人にはこの独自文化を誇ってほしいと思ったから。使われる素材がすべてエコフレンドリーなのは、大量生産・大量消費が当たり前のファッション業界に長く身を置いていたため。そのスタイルは、次世代に強い影響を与え続けている。

●Central World Plaza 1F, 999/9 Rama 1 Rd, Pathum Wan, Bangkok 
TEL:09-5464-9242 10時~22時
休日:セントラルワールドに準じる
Instagram@theonlymarketbangkok

ガーデン・アトラス

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タイ固有のランタンをイメージしてつくられた「グリーンランタン」。1,250バーツ

タイテイスト満載の、粋なプランターに出合える

経済発展に伴い、生活様式に大きな変化が生まれているバンコク。大家族で住む一軒家から、都心のコンドミニアムなどに移り住む人が増えた結果、高まるのが観葉植物への関心だ。インテリアスタイリストとプロダクトデザイナーのふたりが営む「ガーデン・アトラス」では、オリジナルデザインの植木鉢や観葉植物などを販売している。シンプルで機能的なアイテムは、ランタンをモチーフにしたり、陶磁器や紙、竹などの素材を活かしたりと、各所にタイのディテールを感じられるのも楽しい。植物好きならずとも、そのつくりに目を奪われるはず。

●Centric Ari Station, 27/521 Ari Soi 1, Samsennai, Phaya Thai, Bangkok
TEL:09-7246-7547 11時~17時(火〜金) 10時〜17時(土、日) 
休日:月 
www.gardenatlas.co  

サイアム・ブロンズ・ファクトリー

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老舗店ゆえ、希少なローズウッドのカトラリーも手に入る。1本300バーツ〜

経年変化も愛おしい、ブロンズ食器の老舗

美しい赤褐色の光沢感や低アレルギー、加工のしやすさから、タイでは古くから親しまれてきたブロンズのカトラリー。1954年の創業時から、タイの食文化を支えてきたのが、親子2代で営む「サイアム・ブロンズ・ファクトリー」。職人の手で丹念につくられたカトラリーは、「マンダリン オリエンタル バンコク」などの高級ホテルやタイの富裕層たちに長らく愛されてきた。

ブロンズの魅力のひとつは、その経年変化にある。使い方次第で味わいは大きく変わる。時とともに変化を見せるカトラリーは、間違いなく生涯をともにする逸品となるはずだ。 

●1250 Charoen Krung Rd.,Bang Rak, Bangkok
TEL:0-2237-1534 9時~17時 
休日:土、日
www.siambronzefactory.com

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