阿蘇の自然に抱かれた、震災の記憶を紡ぐ施設【今月の建築ARCHITECTURE FILE #15】

  • 文:佐藤季代

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広場から奥の外輪山を望む。大屋根には、地元の野焼きの灰や阿蘇黄土を釉薬にした約6万枚のタイルを使用し、周囲の景色に馴染ませた。

2016年に甚大な被害をもたらした熊本地震。熊本県と9市町村が連携し、震災の被害や教訓を後世へと伝える“記憶の廻廊ミュージアム”の中核拠点として、2023年7月に体験・展示施設「熊本地震震災ミュージアム きおく(KIOKU)」がオープンした。阿蘇カルデラの南部に位置する阿蘇五岳と外輪山に囲まれ、この施設自体が敷地内の旧東海大学キャンパス跡地に残されている震災遺構「旧1号館」へのアプローチを兼ねている。

設計は公募型プロポーザルで選ばれたo+hを主宰する大西麻貴・百田有希と、地元の産紘設計が共同で担当。「自然とともに生きる」をコンセプトに、敷地の範囲を越えて阿蘇の雄大な自然環境と呼応する建築をデザインした。

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右奥の建物がモダニズム建築家・山田守による「旧東海大学阿蘇校舎1号館」。敷地からは地震による大規模山腹崩壊の跡(写真左の山腹)も見える。

 

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屋外イベントなどにも活用するふたつの広場に面して、三日月型の建物を配置。軒下の半屋外通路に沿って歩くと、奥の震災遺構へたどり着く。

ふたつの芝生広場があるなだらかな地形の中に、大きく3つに分けられた展示空間と、それらを帯状につなぐ回廊のような半屋外の軒下空間が配置されている。その上にかけられた周囲のランドスケープと調和するやわらかな曲面の一枚屋根が印象的だ。

館内では、遠方に広がる自然を目にしながら、映像や震災遺物、ジオラマなどの展示を通して、震災について改めて考え、学ぶことができる。震災の記憶をつなぎ、自然の営みを教えてくれるダイナミックで大らかな建築をぜひ訪れてみてほしい。

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ジオラマが置かれた「展示室2」では、地震のメカニズムや熊本の大地について解説。大開口越しに実際の地形と見比べることができる。

 

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入り口にある「企画展示室・交流ラウンジ」。館内の仕上げやサインなどはリサーチワークショップを行い、地域の素材や色を取り入れた。

熊本地震震災ミュージアム きおく

住所:熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陽5343-1(東海大学阿蘇キャンパス横)
開館時間:9時~17時 ※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日 ※祝日の場合は開館、翌火曜休 
料金:一般¥500 
https://kumamotojishin-museum.com
【設計者】大西麻貴+百田有希 / o+h
代表の大西麻貴は1983年、百田有希は1982年生まれ。代表作に「House H」「シェルターインクルーシブプレイス コパル」など。日本建築学会賞など受賞多数。本作は産紘設計との共同設計。

※この記事はPen 2024年1月号より再編集した記事です。