のどかな里山風景に佇む、国内初の泊まれる藤森建築【今月の建築ARCHITECTURE FILE #14】

  • 文:佐藤季代
  • 写真:ミズカイケイコ

Share:

田んぼを見下ろす小高い丘に立つ。かつてあった敷地内の田んぼを復活させるなど、時間をかけながら屋外環境を整えていく予定だ。

山梨県との県境にほど近い長野県・諏訪郡。美しい田園風景が続く小さな集落に、茅野市出身の建築家・藤森照信が手がけた、1日1組限定の一棟貸し宿「小泊(こどまり)フジ(Fuji)」が開業した。

屋根から木が突き出た「神長官守矢(じんちょうかんもりや)史料館」や木の上に建てた茶室「高過庵(たかすぎあん)など、自然との調和をコンセプトにした、ユニークでどこか懐かしさを感じさせる建築を提案する藤森。そんな藤森建築に惚れ込んだオーナーが国内では初めてとなる宿泊施設の設計を依頼し、構想13年の歳月をかけて完成させた。

02_sub_001372DSE08340.jpg
屋根には銅板と地域のシンボルツリーである桜が彩る。屋根材はオーナーが発案したクラウドファンディングで工費を募り、つくられた。

 

03_sub_DSM01246.jpeg
建物先端のバルコニーに立つと南アルプス、富士山、八ヶ岳の山並みを一望できる。四季折々に変化する風景があることも醍醐味のひとつ。

4000㎡にもおよぶ敷地の高台に、トンネルのような穴が開いた横長の建物が佇む。外観には藤森建築ではお馴染みの焼杉や手曲げ銅板が用いられ、地域のシンボルツリーである樹齢300年のしだれ桜にちなみ、屋根からは一列に並んだ13本の桜が顔を出す。童話に登場するような愛らしい建物だ。南側にはバルコニーが配され、富士山を正面に南アルプスや八ヶ岳までを一望できる。

客室は薪ストーブを囲むリビングダイニングと、離れになった寝室がひとつ屋根の下に並ぶ。漆喰仕上げの壁と天井、クリの木でつくった家具など自然素材がふんだんに用いられた空間で、ゆっくりとした時間が流れていく。雄大な自然とともに、唯一無二の建築をぜひ体感してほしい。 

04_sub_DSM01276.jpeg
離れにある寝室。チェックイン後は施設スタッフが駐在しないため、完全にプライベートな空間で思い思いに過ごすこができる。

 

05_sub_DSM03816.jpeg
ミニキッチンを併設したリビングダイニング。クリの木でできた家具やキッチンまわりなどは、空間に合わせて藤森がデザインした。

小泊フジ

住所:長野県諏訪郡富士見町(プライベート施設につき住所は非公開)
TEL:なし
料金:¥74,800~ ※1日1組(定員5名)まで
https://kodomari-fuji.jp
【設計者】藤森照信
1946年、長野県生まれ。建築史家、建築家。東京大学名誉教授、東京都江戸東京博物館館長。代表作に「高過庵」「低過庵」など。2020年に「ラコリーナ近江八幡 草屋根」で日本芸術院賞を受賞。

※この記事はPen 2023年12月号より再編集した記事です。