オーデマ ピゲからパネライまで、“奥行き” の美学を感じさせるグラデーションカラーのダイヤル3選

  • 写真:渡邉宏基(LATERNE)
  • 文:並木浩一

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1.AUDEMARS PIGUET(オーデマ ピゲ)
CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック

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自動巻き、SS×ブラックセラミックケース、ケース径41㎜、パワーリザーブ約70 時間、テキスタイル調ラバー加工ストラップ、シースルーバック、30m防水。¥3,685,000/オーデマ ピゲ ジャパン TEL:03-6830-0000

中心から外側に向かって深みを増していくダイヤルのスモークベージュが、最外周のブラックインナーベゼルと暗色のコントラストを描く。表面には間隔の狭い同心円と大胆なリブ状の放射線の加工を施し、入射光を巧みに分散。ダブルカーブを描くサファイアガラスとあいまって、グラデーションの視覚効果がさらに強調されている。

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2.JAEGER-LECOULTRE(ジャガー・ルクルト)
ポラリス・デイト

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自動巻き、SSケース、ケース径42㎜、パワーリザーブ約70時間、ラバーストラップ、シースルーバック、200m防水。¥1,619,200/ジャガー・ルクルト TEL:0120-79-1833

ダークグリーンからやわらかなグリーンまでの階調を描くラッカーダイヤル。さらに中央部分はサンレイブラッシュで表情を変え、2段階でのグラデーションを描く。そこに、同心円のアズラージュ仕上げによるミニッツトラック、粒状のテクスチュアを施したグレイン仕上げのインデックスサークル、光沢のあるオパーリン仕上げのインナーベゼルと、細部まで凝ったつくり。

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3.PANERAI(パネライ)
ラジオミール トレ ジョルニ

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手巻き、SSケース、ケース径45㎜、パワーリザーブ約3日間、カーフストラップ、100m防水。¥939,400/パネライ TEL:0120-18-7110

マットな質感のダイヤルに、ネイブーブルーからブルーブラックのグラデーションを描く。パネライでは「ブルーシェード」と呼ぶ仕上げに、大人っぽさと品格が漂う。褪色したようなベージュの夜光アラビア数字とアワーインデックス、ケース素材にはエイジド加工のステンレス・スチールを採用。マットとポリッシュの磨き分けが造形に立体感をもたらし、新品でありながら説得力のあるヴィンテージ感を演出する。

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最近の腕時計界で目覚ましい動きのひとつが、ダイヤル仕上げの進化だ。その中でも、巧みなグラデーションに唸らせられることが多い。カラーダイヤルの流行が生んだサブトレンドであったはずが、次の展開につながっている。

ひと口にグラデーションと言っても、ブランドによって表現方法も違えば呼び方もさまざまだ。中心から外に向かって明度と彩度の階調をつけていくことは共通しながらも、煙ったようなエフェクトに注目するのであれば「スモーク」ダイヤル。あるいはフランス語の「フュメ」、イタリア語の「スフマート」の名で説明される。陰影のニュアンスを強調するならば「シェード」と名乗ることも。

そしてそれらの“奥行き”に趣を感じるのは日本文化の特徴かもしれない。グラデーションのテクニックは言ってみれば、日本の伝統的な“ぼかし”技のことだ。歌川広重が『東海道五十三次』の連作で多用した、あの空の表現である。その技法はフィンセント・ファン・ゴッホが夢中になって模写したほどで、時を超えて我々の美意識を刺激する。

実際に広重のぼかしを世に示したのが熟練の摺師であったと同様に、腕時計のダイヤルのグラデーションも緻密な構想を職人の技術で具体化したものだ。奥行きとメリハリをつけるだけでなく、灼けたような褪色のヴィンテージ感を再現することも。単色カラーの平面をニュアンス豊かな視覚表現に変えるグラデーションは、21世紀の腕時計らしい美学の象徴のひとつと言えるだろう。

並木浩一

1961年、神奈川県生まれ。時計ジャーナリスト。雑誌編集長など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。新著に『ロレックスが買えない。』。

※この記事はPen 2023年12月号より再編集した記事です。