福岡の伝説的ホテルが、新たなデザインで再始動【Penが選んだ今月のデザイン】

  • 文:高橋美礼(デザインジャーナリスト)

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A_HOTEL IL PALAZZO_M8A1676_photo by Satoshi Asakawa.jpg
イタリアの巨匠アルド・ロッシが設計した建物は、いくどかのリニューアルを経たものの、象徴的なファサードはかつての姿を残している。客室は全面改装し、以前はレセプションとロビー、レストランのあった2階も天井高を残したまますべて客室に変え、全77室のホテルとなった。 photo: Satoshi Asakawa

1989年、福岡市内に誕生したホテル イル・パラッツォ。デザイナー内田繁のディレクションのもと、イタリアの建築家アルド・ロッシが設計、内田と三橋いく代がインテリアを、そしてグラフィックデザインを田中一光が担い、同じく世界のデザインに多大な影響を与えてきたエットーレ・ソットサス、ガエターノ・ペッシェ、倉俣史朗がそれぞれの個性を発揮させたバー空間をつくり上げるなど、「デザインの総合体」とも評される画期的なホテルとして多くの人々の記憶に残ってきた。

残念ながら創業からおよそ20年後、経営の都合から売却され、リニューアルを重ねたことで創業時とは異なるコンセプトの施設となっていた。しかしオーナーが変わり、2021年秋からリ・デザインプロジェクトがスタート。象徴的な建物はそのままに、客室を増やしてインテリアを一新し、10月1日から宿泊客を迎え入れている。

「最初は完璧な再現を目指す方向性もありましたが、当時と同じ色や形を繰り返すのではなく、いまの時代に合わせて再解釈しました」と話すのは、内田デザイン研究所の代表、長谷部匡だ。同研究所の稲垣留美、奥野ゆかりとともに、リ・デザインを監修しインテリアデザインを手がけた。内田の理念を継承しつつ、残されていたロッシの設計による壁面装飾の一部分を新設の地下ラウンジへ移設したり、当時の基本配色を再構成して取り入れたりと、細やかなプロセスを重ねている。時計や椅子など、ヘリテージとなる当時の家具は新たな技術で再生産した。

「デザインの力をもう一度信じて、流行に左右されない場所をつくり上げたいと考えました。とはいえ現状がピークではなく、昔とは変わってきている街の活気とともに進化していくホテルであってほしいですね」

ホテル イル・パラッツォ

住所:福岡県福岡市中央区春吉 3-13-1
TEL:0570-009-915 
料金:スーペリアクイーン¥25,000~ 全77室
https://ilpalazzo.jp

※この記事はPen 2023年12月号より再編集した記事です。