デジファブ技術を駆使した、セルフビルドの建築【今月の建築ARCHITECTURE FILE #13】

  • 文:佐藤季代

Share:

施設の入り口となるショップ兼ゲートラウンジ。屋根と外壁の素材は、地中海でも使用されている、塩害に強い亜鉛の板金を採用している。 photo: Takumi Ota

瀬戸内海に浮かぶ香川県の離島、小豆島。島の先端に位置する小高い丘に、オリーブオイルなどを製造販売する小豆島ヘルシーランドによる複合施設「千年オリーブテラス」が誕生した。エントランスとなるショップを兼ねたゲートラウンジと宿泊施設2棟が農園内に点在し、地中海から移植された樹齢千年を超える「オリーヴ大樹」のシンボルツリーをはじめ、森や海を間近に自然体験ができる。

設計を手がけたのは秋吉浩気が主宰するヴィルド(VUILD)。誰もが設計者になれる“建築の民主化”を掲げ、デジタルファブリケーション技術を活用した事業を展開する建築テック系スタートアップ企業だ。

01_main_OVGL_pre026A_DC51368.jpg
丸太が支える開放的なショップではオリーブオイルを用いたスキンケア用品などを販売。スツールなど一部の家具類も島内の木材で制作した。 photo: Takumi Ota

今年7月に開業したゲートラウンジは、大きな丸太が支えるダイナミックな木造建築が目を引く。周辺環境から導き出された多角形の空間が、まさにゲートのように訪れた人と豊かな景色をつなぐ。

03_OVGL_pre40_DC51803.jpg
施主が地元のヒノキを調達し、CNC木材加工機「SHOPBOT」を用いて加工。ビニールハウスを代用して乾燥まで行い、地産地消を目指した。 photo: Takumi Ota

構造体には地元のヒノキ材を活用。施主自ら森から調達し、ヴィルドが導入販売するCNC木造加工機で加工、さらに乾燥までを現地で行い、ヴィルド監修のもとで施工に参加した。同じく建物を支える基礎も地元産の石を用いるなど、地産地消による建築づくりで環境への負荷を低減。離島における最先端技術を活用したプロジェクトが、新たな建築の可能性を示唆している。

04_TakumiOta_OVGL_pre002_M2Z0628.jpg
施設は瀬戸内海に臨む小豆島の先端に位置する。スペイン産の樹齢1000年のオリーブ大樹に面してゲートラウンジが立つ。 photo: Takumi Ota

 

05_IMG_5719.jpg
今年9月に完成し2024年開業予定の宿泊棟はシンプルなデザイン。オリーブの森を背景に、3室の客室とスパが並ぶ。日帰り体験も可能。 photo: VUILD

千年オリーブテラス

住所:香川県小豆郡土庄町甲2473  
TEL:0879-62-8989 
料金:¥33,000~ 全3室 ※宿泊棟は2024年開業予定
営業時間:日帰り体験は9時~17時
定休日:水曜、木曜
https://1000olive-terrace.com
【設計者】ヴィルド
代表の秋吉浩気は1988年大阪府生まれ。2013年芝浦工業大学建築学科卒業。15年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士修了、17年にヴィルドを創業。「まれびとの家」でグッドデザイン賞金賞を受賞。

※この記事はPen 2023年11月号より再編集した記事です。