「シーマスター」誕生75周年を記念し、サマーブルーをテーマに、シリーズの枠を越えたコレクションを発表。さらにブランドアイコンである「スピードマスター」に革新的な「スピレートシステム」を搭載するなど、今年のオメガは話題に尽きない。
快進撃の原動力について、商品開発担当副社長のグレゴリー・キスリングに独占インタビュー。その圧倒的な技術力もさることながら、Pen最新号『腕時計のデザインを語ろう』特集との連動企画として、「デザイン」の視点から話を訊いた。
Pen最新号は『腕時計のデザインを語ろう』。腕時計の「デザイン」に焦点を当て、たどってきた歴史やディテールを振り返るとともに、プロダクトとしての魅力をひも解く。同時に、つくり手である人気ブランドのデザイナーにも話を訊いた。デザインの“本質”を知ることで、腕時計はもっと面白くなるはずだ。
『腕時計のデザインを語ろう』
Pen 2023年12月号 ¥950(税込)
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名作誕生の裏には、機能とデザインの調和が重要
――オメガでは各コレクションが長い歴史をもち、多くのレガシーが新作のスタイルにも受け継がれています。オメガにとって、デザインとはどのように位置づけられるのでしょう。
キスリング デザインはオメガにとって常に重要です。なぜかといえば、腕時計というのは単なる計時ツールではなく、それにまつわる感情も担っているからです。私たちには確立された素晴らしいレガシーが存在し、洗練を重ねた美的なデザインがあります。これを引き継ぎながら、現代のテクノロジーやトレンドを盛り込み、さらに磨きをかけていく。レガシーとイノベーション、機能と美しさ、それぞれの調和を意識しています。
――「プロプロフ」のような、機能から生まれた「ファンクショナルデザイン」もありますよね。機能とデザインの関係について、どのように捉えていますか。
キスリング 「プロプロフ」を例に出されるとは驚きました。デザインとしてはアヴァンギャルドですよね(笑)。「プロプロフ」はデザイナーではなくエンジニアが手がけたという点で、少し特殊な例かもしれません。プロフェッショナル向けのツールとして機能性を優先して生まれたデザインが、数十年という時間が経過したことで、結果的にアイコニックな存在となったのです。
機能とデザインの調和を表す例として、「スピードマスター」を挙げましょう。「スピードマスター」はタキメーターをダイヤルの外に出した最初のクロノグラフですが、目的はダイヤルの視認性、つまりは機能性を向上するためでした。でも、それが独自のデザインエレメントにもなった。以降、多くのブランドに影響を与え、いまではレーシングウォッチのスタンダードなデザインとなりました。
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過去のデザインに新たなテクノロジーを加える
――現在、腕時計においてリバイバルやヘリテージデザインが流行しています。オメガはトモグラフィー(断層撮影)を駆使した忠実な復刻と、あくまでもモチーフとしてデザインを生かすというふたつのアプローチをおこなっているように思います。いずれも技術が根底にあるという点が、オメガらしいですね。
キスリング 過去のデザインへのリスペクトは大切にしていますが、一部相反するところはあります。それは品質基準です。たとえば50年代と現在では求められる機能や性能も異なりますよね。踏襲するといっても、ある部分は妥協もしなければなりません。
また、インスパイアされてはいても、それを現代のテクノロジーを用いて表現をしていくということも大切です。複合的にさまざまなテクノロジーを組み合わせて、新たなものを生み出していく、いわば「クロステック」ですね。たとえばシーマスターの「アクアテラ」は昨年、これまでにないカラーを導入しました。PVD(物理圧着)とCVD(科学圧着)という蒸着プロセスの導入によって、アクアとテラ、つまり水と陸というふたつのテーマにインスパイアされたメタリックカラーを開発しました。過去からのインスパイアに過剰に寄りすぎることなく、いまのトレンドに沿って新たなカラーや素材を用いたのです。
原点回帰した「スピードマスター スーパーレーシング」
――今年発売された「スピードマスター スーパーレーシング」は、ムーンウォッチからさらに遡ったレーシングウォッチとしての出自を思い起こさせます。カラーリングやデザインには、どのような意味を込めたのでしょう。
キスリング まず印象的なカラーは、1万5000ガウスの耐磁性から発想しました。ブラックとイエローは警告表示に用いられるカラーリングであり、高耐磁性を象徴するのです。同時にそれは蜂を思わせる。文字盤にあしらったハニカムのパターンは、まさに巣として、多くの時計愛好家やファンを蜂のように呼び寄せたい、というユーモアも含まれています。
もちろんそれだけでなく、ハニカムはラジエターグリルなどクルマの機構にも用いられるパターンであり、1957年にレーシングカーのドライバー向けに開発されたスピードマスターの原点を意識しています。こうしたさまざまな要素を取り入れることで完成した、魔法のようなデザインなんです。
キスリングは元エンジニアであり、技術にも深い造詣をもつ。まさに、デザインと技術が両輪となったオメガの商品開発の大黒柱だ。さらに特別プロジェクトとして、グループを横断する「ムーンスウォッチ」や「スキューバ フィフティファゾムス」の開発にも携わる。その自由な発想がオメガにも注がれていることは、いうまでもない。
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