オメガが「デザイン」において最も重視することは? 商品開発担当副社長、グレゴリー・キスリングに独占インタビュー

  • 文:柴田 充
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「シーマスター」誕生75周年を記念し、サマーブルーをテーマに、シリーズの枠を越えたコレクションを発表。さらにブランドアイコンである「スピードマスター」に革新的な「スピレートシステム」を搭載するなど、今年のオメガは話題に尽きない。

快進撃の原動力について、商品開発担当副社長のグレゴリー・キスリングに独占インタビュー。その圧倒的な技術力もさることながら、Pen最新号『腕時計のデザインを語ろう』特集との連動企画として、「デザイン」の視点から話を訊いた。

Pen最新号は『腕時計のデザインを語ろう』。腕時計の「デザイン」に焦点を当て、たどってきた歴史やディテールを振り返るとともに、プロダクトとしての魅力をひも解く。同時に、つくり手である人気ブランドのデザイナーにも話を訊いた。デザインの“本質”を知ることで、腕時計はもっと面白くなるはずだ。

『腕時計のデザインを語ろう』
Pen 2023年12月号 ¥950(税込)
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グレゴリー・キスリング●オメガ 商品開発担当 副社長。マイクロテクノロジー専門のエンジニアであり、ビジネスとラグジュアリーマネジメントのふたつのMBAを取得。カルティエで5年間ムーブメント開発に携わった後、オメガに入社。現在は商品開発担当 副社長および特別プロジェクトの責任者を務める。

名作誕生の裏には、機能とデザインの調和が重要

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1957年に誕生した「スピードマスター」は、クロノグラフのタキメーターを文字盤からベゼルに移動したことで、視認性を向上。後にアポロ11号の月面着陸の際に着用されたことで、「ムーンウォッチ」と呼ばれるようになった。スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター/手巻き、SSケース&ブレスレット、ケース径42㎜、パワーリザーブ約50時間、50m防水。¥1,078,000
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1970年発表の「シーマスター プロプロフ」は、深海探査実験にも耐えうる防水性や機能性を備える。非対称のケースは、堅牢なリューズガードやベゼルの誤動作防止機構から生まれた。シーマスター プロプロフ/自動巻き、O-MEGAスティールケース、ケース径55x45㎜、パワーリザーブ約60時間、ラバーストラップ、1200m防水。¥2,200,000

――オメガでは各コレクションが長い歴史をもち、多くのレガシーが新作のスタイルにも受け継がれています。オメガにとって、デザインとはどのように位置づけられるのでしょう。

キスリング デザインはオメガにとって常に重要です。なぜかといえば、腕時計というのは単なる計時ツールではなく、それにまつわる感情も担っているからです。私たちには確立された素晴らしいレガシーが存在し、洗練を重ねた美的なデザインがあります。これを引き継ぎながら、現代のテクノロジーやトレンドを盛り込み、さらに磨きをかけていく。レガシーとイノベーション、機能と美しさ、それぞれの調和を意識しています。

――「プロプロフ」のような、機能から生まれた「ファンクショナルデザイン」もありますよね。機能とデザインの関係について、どのように捉えていますか。

キスリング 「プロプロフ」を例に出されるとは驚きました。デザインとしてはアヴァンギャルドですよね(笑)。「プロプロフ」はデザイナーではなくエンジニアが手がけたという点で、少し特殊な例かもしれません。プロフェッショナル向けのツールとして機能性を優先して生まれたデザインが、数十年という時間が経過したことで、結果的にアイコニックな存在となったのです。

機能とデザインの調和を表す例として、「スピードマスター」を挙げましょう。「スピードマスター」はタキメーターをダイヤルの外に出した最初のクロノグラフですが、目的はダイヤルの視認性、つまりは機能性を向上するためでした。でも、それが独自のデザインエレメントにもなった。以降、多くのブランドに影響を与え、いまではレーシングウォッチのスタンダードなデザインとなりました。

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過去のデザインに新たなテクノロジーを加える

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昨年新たなカラーバリエーションが追加された「シーマスター アクアテラ」。コレクションのコンセプトである自然界から着想を得たカラーを文字盤に展開した。タイムレスなデザインに時代の感性を注ぎ、スタイリッシュな魅力を纏う。シーマスター アクアテラ シェード/自動巻き、SSケース&ブレスレット、ケース径38㎜、パワーリザーブ約60時間、150m防水。¥1,023,000

――現在、腕時計においてリバイバルやヘリテージデザインが流行しています。オメガはトモグラフィー(断層撮影)を駆使した忠実な復刻と、あくまでもモチーフとしてデザインを生かすというふたつのアプローチをおこなっているように思います。いずれも技術が根底にあるという点が、オメガらしいですね。

キスリング 過去のデザインへのリスペクトは大切にしていますが、一部相反するところはあります。それは品質基準です。たとえば50年代と現在では求められる機能や性能も異なりますよね。踏襲するといっても、ある部分は妥協もしなければなりません。

また、インスパイアされてはいても、それを現代のテクノロジーを用いて表現をしていくということも大切です。複合的にさまざまなテクノロジーを組み合わせて、新たなものを生み出していく、いわば「クロステック」ですね。たとえばシーマスターの「アクアテラ」は昨年、これまでにないカラーを導入しました。PVD(物理圧着)とCVD(科学圧着)という蒸着プロセスの導入によって、アクアとテラ、つまり水と陸というふたつのテーマにインスパイアされたメタリックカラーを開発しました。過去からのインスパイアに過剰に寄りすぎることなく、いまのトレンドに沿って新たなカラーや素材を用いたのです。

原点回帰した「スピードマスター スーパーレーシング」

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スピードマスター スーパーレーシング/レーシングウォッチへの原点回帰とともに、シリコン製ヒゲゼンマイの微細な歩度調整を可能にした新開発の「スピレートシステム」を採用する。日差0〜2秒の精度を実現。自動巻き、SSケース&ブレスレット、ケース径44.25mm、パワーリザーブ約60時間、シースルーバック、50m防水。¥1,793,000

――今年発売された「スピードマスター スーパーレーシング」は、ムーンウォッチからさらに遡ったレーシングウォッチとしての出自を思い起こさせます。カラーリングやデザインには、どのような意味を込めたのでしょう。

キスリング まず印象的なカラーは、1万5000ガウスの耐磁性から発想しました。ブラックとイエローは警告表示に用いられるカラーリングであり、高耐磁性を象徴するのです。同時にそれは蜂を思わせる。文字盤にあしらったハニカムのパターンは、まさに巣として、多くの時計愛好家やファンを蜂のように呼び寄せたい、というユーモアも含まれています。

もちろんそれだけでなく、ハニカムはラジエターグリルなどクルマの機構にも用いられるパターンであり、1957年にレーシングカーのドライバー向けに開発されたスピードマスターの原点を意識しています。こうしたさまざまな要素を取り入れることで完成した、魔法のようなデザインなんです。

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グラデーションになったクロノグラフ秒針、時分針やインデックスにはイエローのスーパールミノバを採用。ハニカムパターンのブラックとのコントラストも際立つ。

キスリングは元エンジニアであり、技術にも深い造詣をもつ。まさに、デザインと技術が両輪となったオメガの商品開発の大黒柱だ。さらに特別プロジェクトとして、グループを横断する「ムーンスウォッチ」や「スキューバ フィフティファゾムス」の開発にも携わる。その自由な発想がオメガにも注がれていることは、いうまでもない。

オメガお客様センター 

TEL:03-5952-4400