映像を通して改めて知る、 巨匠アアルトの人物像【Penが選んだ今月のデザイン】

  • 文:猪飼尚司(デザインジャーナリスト)

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生涯で200を超える建物を設計した、フィンランドを代表する建築家・デザイナーのアルヴァ・アアルト。現存する建築も多く、いまでは首都ヘルシンキの大学名に彼の名前が冠され、通貨がユーロに変換される前には国の紙幣にも選ばれるなど、その存在は実に偉大だ。そんな20世紀の巨匠が生誕125年を迎える今年、彼の人間性にフォーカスした映画『アアルト』が公開される。

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成功を収めた建築家としての姿だけではなく、苦しい時代を駆け抜けた青年期、妻や子どもを愛した父親としての顔、そして哀愁漂う晩年の様子までをリアルに伝える。アルヴァ・アアルトの姿を誇張することなく、実直に描き出していることも魅力だ。

本作を手がけたのは、フィンランド人の映画監督、ヴィルピ・スータリ。ドキュメンタリーを多数手がけてきたスータリだが、建築についてはまったくの門外漢。アアルトの人物像を探るために各界の専門家に取材を続ける一方で、その本質に迫るきっかけになったのが、妻アイノと交わした手紙の数々と家族の日々を捉えた映像だった。

ともにクリエイターとしての才能を認め合いつつ、時折ユーモアたっぷりの皮肉を交えながら、愛情ある言葉を交わし合うアルヴァとアイノ。映像や写真を巧みにコラージュしながら、手紙で交わされるアルヴァとアイノのやりとりをプロ俳優が好演。まるで本人が話しているように錯覚してしまうほど、リアリティのある内容に仕上げている。

また、フィランド北部のロバニエミ出身の監督は、アアルトが設計した図書館を幼少期に日々利用していた。玄関扉や波打つ外壁の触覚を覚えているという。こうした記憶から、作品内で紹介される建築群も人の目線や感覚に重点を置き、アングルを計算したという。

映画を通して見えてくるのは、建築界の偉人というよりも、温もりと愛情にあふれた人間としてのアルヴァ・アアルト。映画を見た後に建築やデザインを見直すと、改めてアアルトの魅力を深く理解することができる。

『アアルト』

監督/ヴィルピ・スータリ
出演/アルヴァ・アアルトほか
2020年 フィンランド映画 1時間43分 10/13よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

※この記事はPen 2023年11月号より再編集した記事です。