神戸・六甲山上で2010年から毎年行われてきた「六甲ミーツ・アート芸術散歩」。14回目を迎える今年は、招待アーティストの拡充や芸術祭の拠点づくり、それに従来の会場に加えてハイキングルートで作品を鑑賞できるトレイルエリアを設置したほか、一部作品の展示期間を延長するなど、内容を大幅にグレードアップして開かれている。また社会との接続や共生を試みる表現者の作品と、その先にあるものに目を向けてもらおうとの意味を込め、同芸術祭では初めてテーマを「表現の向こう側(にあるもの)Beyond Representation」と設定。過去最大規模の計50組のアート作品が展開する、関西を代表する芸術祭のひとつとして生まれ変わった。
新たに芸術祭の拠点として位置付けられたのが、2021年にリニューアルオープンを果たしたROKKO森の音ミュージアムだ。ここではアーティストグループ山中suplexのメンバーであるコニシユウゴ(たま製作所)が、池の上にドーム型の『Moon Plants』を展示。外壁の素材は作家自ら配合した樹脂で作られていて、夜になると月明かりのような淡い光を放つ。さらに同ミュージアムでは庭のSIKIガーデンを拡張して野外アート作品展示ゾーンを整備し、三梨伸による御影石を用いたオブジェやステンレスミラーを素材とした船井美佐の作品などを公開している。いずれも六甲山の自然を借景へと取り込んでいて美しい。
鬱蒼とした緑に囲まれた新会場のトレイルエリアの展示も充実している。かつてスケートリンクとして利用されたこともある人口池の新池では、川俣正が池の中の島に木材で四角いテラスを設置。浮き橋のような木道を取り付け、コンサート、演劇、能などを野外で行える多目的オープンテラスを作り上げている。また戦前から残る古い山荘を舞台とした中﨑透による『Sunny Day Light/ハルとテル』も圧巻の作品だ。中﨑はかつて山荘を利用していた人物にインタビューを敢行し、60年以上前にこの地で結ばれたハルとテルの愛の物語を、テキストで綴られる16のエピソードとともにツアー型のインスタレーションとして表現している。多くの山荘が築かれた避暑地としての文化や人々の営みを、丹念なリサーチをもとに現代に甦らせて造形化した芸術祭のハイライトとも呼べる作品だ。
このほか、六甲有馬ロープウェー六甲山頂駅では、わにぶちみきが同地の風景を切り取り、抽象的なドット画のように表現した『Beyond the FUKEI』を展示。また六甲ガーデンテラスエリアの展望デッキでは武田真佳の『case』が神戸市街や大阪平野を見下ろすように立ち、安藤忠雄の設計による風の教会では、巨大な類人猿に雛菊(デイジー)を添えた椿昇によるバルーンの彫刻作品『Daisy Bell』が空間を支配している。かつて同芸術祭は観光業のプラットフォームを基にしていたため、それ以外への広がりは少なかったという。しかし今回は地域とのつながりをより重視し、自然に近しい場所に作品を点在させるなど、六甲山をより肌で感じられるような内容だ。新たなステージへと進化した『六甲ミーツ・アート芸術散歩2023 beyond』にてアートと自然との出会いを満喫したい。
『六甲ミーツ・アート芸術散歩2023 beyond』
開催期間:2023年8月26日(土)~11月23日(木・祝)
開催場所:神戸・六甲山上の9会場
ROKKO森の音ミュージアム、六甲高山植物園、六甲ガーデンテラスエリア、六甲ケーブル(六甲ケーブル下駅・山上駅・天覧台)、トレイルエリア、風の教会エリア、六甲有馬ロープウェー 六甲山頂駅、兵庫県立六甲山ビジターセンター(記念碑台)、六甲山サイレンスリゾート(旧六甲山ホテル)
https://rokkomeetsart.jp/