海から宇宙まで、オメガの研究開発力を示す力作3本【腕時計のDNA Vol.1】

  • 文:笠木 恵司

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右上:2023年発表の最新モデル「スピードマスター スーパーレーシング」 右下:月に行った伝説的モデルを最新ムーブメントでアップデートした現行の「スピードマスター ムーンウォッチ マスタークロノメーター」 左下:6000m防水を誇る驚異的なダイバーズモデル「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」

連載「腕時計のDNA」Vol.1

各ブランドから日々発表される新作腕時計。この連載では、時計ジャーナリストの笠木恵司が注目の新作に加え、その系譜に連なる定番モデルや、一見無関係な通好みのモデルを3本紹介する。その3本を並べて見ることで、新作時計や時計ブランドのDNAが見えてくるはずだ。

オメガといえば「月面に初めて到達した腕時計」で知られるが、その華やかな偉業の裏で特殊任務に選ばれるだけの類稀なる技術力を有し、たゆまぬ技術革新を続けてきたブランドであることは、時計ファン以外の一般ユーザーにはなかなか知られていない。

オメガは、独自のコーアクシャル脱進機を搭載し、それまで数世紀を経ても基本的な機構が変わらなかった機械式ムーブメントの調速脱進機構を初めて革新。素材面でもヒゲゼンマイにシリコンを採用するなど、高度な研究開発力を発揮してきた。さらに6000m防水という驚異的な高深度ダイバーズモデルもラインアップ。

腕時計の心臓部から深海、宇宙などのフロンティアを縦横に駆け巡るオメガを象徴する3本を選んでみた。

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新作「スピードマスター スーパーレーシング」

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スピードマスター スーパーレーシング/3時位置に12時間と60分の同軸積算計を備えたクロノグラフ。自動巻き、SSケース&ブレスレット、ケース径44.25mm、パワーリザーブ約60時間、シースルーバック、50m防水。¥1,672,000

超精密な誤差調整を可能にした新機構を搭載

COSC(スイス公式クロノメーター検定協会)による機械式腕時計の精度基準は平均日差−4秒~+6秒。ところがオメガでは、これをはるかに凌駕する日差0~2秒という超高精度ムーブメントを開発。2023年の最新作「スピードマスター スーパーレーシング」に搭載して発表した。

これまでは車輪のようなかたちのテンワ(てん輪)に取り付けた錘(おもり)の重量モーメントを変えることで精度を補正する「フリースプラング」テンプに、磁場の影響を受けないシリコン製ヒゲゼンマイを組み合わせていたが、さらに「スピレートシステム」と呼ばれる新機構を追加。それによって超精密な調整が可能になったという。

通常の時計はヒゲゼンマイに干渉して進み遅れを調整する緩急針が設定されているが、シリコンはガラス質なので割れる可能性がある。このためヒゲゼンマイに接触することなく精度を調整できる「フリースプラング」が採用されたのだが、オメガではテンプ受けの取り付け部の剛性を調整する仕組みによって問題を解消。機械式時計では驚異的ともいえる精度を実現したのである。

この新機構はシースルーのケースバックから視認できる。さらに、外観のデザインにもひと工夫がある。ブラックベースにイエローをアレンジしたハニカム模様のダイヤルもスタイリッシュで、とりわけ9時位置のスモールセコンドに配したゼブラがシンボリックだ。

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定番「スピードマスター ムーンウォッチ」

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スピードマスター ムーンウォッチ マスタークロノメーター/秒(センタークロノグラフ針)、30分、12時間積算計を備えたクロノグラフ。9時位置はスモールセコンド。手巻き、SSケース&ブレスレット、ケース径42mm、パワーリザーブ約50時間、シースルーバック、50m防水。¥1,144,000

伝説的モデルに最新ムーブメントを搭載してアップデート

「スピードマスター」は先述のスーパーレーシングの名の通り、1957年にレーシングクロノグラフとして誕生した。その後、NASAが実施した温度差や衝撃など11項目におよぶ過酷なテストを唯一クリアしたことで、宇宙飛行士の公式装備品に選定。1969年に宇宙飛行士たちが月面で装着していた第4世代の「スピードマスター プロフェッショナル」は、"ムーンウォッチ"と呼ばれるようになった。

2021年に発売された現行モデルは、最新ムーブメントの「コーアクシャル マスター クロノメーター キャリバー3861」を搭載しており、1万5000ガウスという強力な磁場でも影響を受けない。

その一方で、左右非対称なケースやステップダイヤル、「ドット・オーバー90」(回転ベゼルの90の数字の斜め上にドットがある)など伝説的モデルのディテールを精密に再現。ただし、ミニッツスケールの小目盛りがこれまでの1/5秒刻みから1/3秒刻みに変更されている。キャリバー3861の振動数が1秒3Hz(6振動)であることに対応した改良であり、オメガの精度に対する強いこだわりが感じられる。

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通好み「シーマスター ウルトラディープ」

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シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ/6000m防水のダイバーズモデルだが、ケース厚は18.1mmと意外にコンパクト。シーマスター75周年を記念した新しいコレクションのテーマである「サマーブルー」をイメージした文字盤が印象的だ。新素材、O-MEGAスティールを使用。自動巻き、SSケース&ブレスレット、ケース径45.4mm、パワーリザーブ約60時間、 6000m防水。¥1,870,000

なんといっても6000m防水!

2019年にひとり乗りの潜水艇が水深1万メートルを超えるマリアナ海溝の最深部に到達した。この潜水艇の外部で稼働するロボットアームにオメガのダイバーズモデルが取り付けられており、1平方cmあたり1トン以上にも及ぶ水圧に耐える高性能を実証。

この技術を一般モデルに転用したのが、2022年に発売された「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」だ。防水深度はなんと6000m。オーバースペックの極みともいえる圧倒的な機能が安心感を与えてくれるが、このモデルには高深度ダイバーズのお約束ともいえるヘリウム排出バルブがない。最小の分子であるヘリウムを透過させない超高度な気密性と堅牢性を備え、時計通も唸らせるほど刺激に満ちたシリーズである。

1948年に誕生した「シーマスター」は今年で75周年。これを記念して「ウルトラディープ」を含むコレクション全11モデルをサマーブルーにアレンジした新作が登場した。防水深度によって濃淡が異なっており、もちろん「ウルトラディープ」が最もダークだが、奥ゆきを感じさせるグラデーションが美しい。

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オメガはフロンティアに挑む改革者

以上の3本を見てもわかるが、オメガは多彩なフロンティア精神で果敢に革新に挑み、次々に成功してきた時計ブランドだ。海やサーキットや宇宙だけでなく、長く変わることがなかった時計の心臓部にも挑戦。オーバーホール期間を飛躍的に延長した新機構「コーアクシャル」を開発した。さらにシリコンやセラミックなど新素材も活発に研究開発している。そんなオメガの本質を象徴するエピソードが、1964年に実施されたNASAによる厳しいテストだ。

これをみごとにクリアした「スピードマスター」は、宇宙用に特別に製作されたものではない。誰でも腕にできるモデルがNASAによる選定の栄冠を勝ち得たのだ。1本だけの特別な時計ではなく、革新的で高品質・高精度な時計を数多くつくるためにはさまざまな困難に直面しなければならない。そうした艱難辛苦を敢然と克服していく稀有なDNAを創業初期から継承してきたブランドなのである。

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笠木 恵司(腕時計ジャーナリスト)

1954年、名古屋市生まれ。1990年代半ばからスイスで開催される国際的な腕時計展示会の取材を続けてきた。現地の工房視察や時計ブランドCEOのインタビュー経験なども豊富。共著として『腕時計雑学ノート』(ダイヤモンド社)

オメガお客様センター 

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