LEXUS DESIGN AWARD、ミラノで展示された4作品とは?

  • 写真(作品のみ):フランキー・ヴォーン
  • 文:猪飼尚司

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左上から時計回りに、作品を展示したパヴェルス・ヘッドストロム、ジャーミン・リュウ、パク・キョンホ&ホ・イェジン、Temporary Office。

若い才能を評価するだけでなく、第一線で活躍するクリエイターによるメンターシップを通じて、創作やアイデアの精度をさらに上げていく国際デザインコンペティション「LEXUS DESIGN AWARD(レクサスデザインアワード)」。LEXUSは一人ひとりに心の豊かさを提供したいという想いで、豊かな社会とより良い未来の創造を目指し、世界中のデザイナーとともにこのアワードを行っている。「Design for a Better Tomorrow(より良い未来のためのデザイン)」をテーマに掲げ、11年目の今年は、63の国と地域から2068点の作品が集結。サステナビリティやダイバーシティというリアルな社会問題と向き合った作品をミラノデザインウィークで発表した。

このアワードでは、世界中から作品を公募し、パオラ・ アントネッリ、カリム・ラシッド、サイモン・ハンフリーズといった第一線で活躍するデザイナーたちが審査員となり受賞者を選出する。応募作品は、そのアイデアが「Enhance Happiness(いかに人々に幸せをもたらすか)」、そしてLEXUSが重視する3つの基本原則 「Anticipate(予見する)」、「Innovate(革新をもたらす)」、「Captivate(魅了する)」をいかに具現化しているかという観点で審査される。 多様なニーズを予見し、人々に幸せをもたらすような実用的、機能的なソリューションでありつつ、魅力的で独創性溢れるデザインを求めている。

そしてLEXUS DESIGN AWARDの最大の特徴であるのが、受賞者たちがメンターと呼ばれる第一線で活躍するデザイナーたちからのアドバイスを受けながら、一緒にアイデアをブラッシュアップをすることだ。メンター自身の経験や、知見、ノウハウを惜しみなく共有する期間を設けている。

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 上段左から順に、審査員のパオラ・ アントネッリ(©2016 Marton Perlaki)、カリム・ラシッド(©Nikola Blagojevic / Spektroom)、サイモン・ハンフリーズ。下段左から順に、受賞者にアドバイスを行うメンターのマーヤン・ファン・オーベル(©Sander Plug)、スマイヤ・ヴァリー(©Lou Jasmine)、ジョー・ ドーセット、スズキ ユウリ(©Nick Glover)

審査員
パオラ・アントネッリ(Paola Antonelli)
 ニューヨーク近代美術館(MoMA)建築・デザイン部門シニア・キュレーター

カリム・ラシッド(Karim Rashid )
 デザイナー/Karim Rashid Inc. 代表

サイモン・ハンフリーズ (Simon Humphries)
 トヨタ自動車株式会社 執行役員 デザイン領域領域長 Chief Branding Officer Simon Humphries(サイモン・ハンフリーズ)

メンター
マーヤン・ファン・オーベル(Marjan van Aubel)
 マーヤン・ファン・オーベル スタジオ ソーラーデザイナー

ジョー・ドーセット(Joe Doucet)
 デザイナー/ ジョー・ドーセットXパートナーズ 代表

スズキ ユウリ
 アーティスト、デザイナー/ペンタグラム パートナー

スマイヤ・ヴァリー(Sumayya Vally)
 建築家/カウンタースペース 主宰

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ミラノデザインウィークで展示された4作品

「Fog-X」

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現代でも水を取り巻く課題は世界各地で起こっている。この問題をデザインからひも解くべく、パヴェルスが目を付けたのは砂漠に棲む生物だった。アフリカの砂漠に生息する甲虫が、器用に身体を伸ばしながら体表に結露した水分を口元に集める様子に注目。ジャケットに格納された支柱とメッシュを帆のように広げることで、空気中の霧から水分を集める装置「Fog-X」をデザインした。当初は重いバックパック型での提案だったが、メンターとの対話を通じて軽量なジャケット形状へと進化した。厳しい環境下の実験を繰り返し、霧の発生を予測するスマートフォン用GPSアプリも開発している。

 

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パヴェルス・ヘッドストロム

スウェーデン生まれ。デンマーク王立芸術アカデミーで建築を専攻後、建築家として独立。既存のエコシステムに対して、デザインを通じた包括的なアプローチを探求。デンマーク在住。

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「Print Clay Humidifier」

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日々大量に廃棄される陶器に、新しい役割と存在を与えたいと考えたジャーミンは、陶器の吸水性の高さに注目。電力を必要としない、エコでサステイナブルな加湿器を開発した。リサイクルセラミックを原料にした筒形の構造体に入れた水が、時間をかけて蒸発する。メンターのアドバイスにより構造とサイズを再考。3Dプリンターを活用し、できる限り多くの表面積が得られるようディテールを調整していった。シンプルな機構から最大の効果を導くために、ゆるやかにねじれながら立ち上がる花びらのような形状に辿り着いた。昔ながらの素材と最新のテクノロジーが見事に融合した作品。

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ジャーミン・リュウ

中国生まれ。工業デザイナー。国内でデザインを学んだ後、ドイツに留学。フォルクヴァング芸術大学で修士課程を修了。現在は、異文化とサステイナブルデザインをテーマに活動している。

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「Touch the Valley」

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立体型パズルから発想を広げ、視覚障がいをもつ人々向けの3Dパズルをデザインしたライ&リー。地形をモチーフにすることで、視覚障がいをもつ人たちが見ることのできない雄大な自然の風景を、パズルを組み立てる過程から触感で堪能することができる。また、指先で的確に地形を読み取ることができるようにと、メンターのアドバイスを受けて機能性や素材の質感、ディテールの再現など、ていねいな検証を繰り返し行った。ピースの合わせがスムーズにできるよう、磁石を内蔵。さらに高低差を示す溝を施すことで、直感的に楽しめる。

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Temporary Office

カリフォルニア大学バークレー校出身のヴィンセント・ライ(左、シンガポール)とダグラス・リー(右、カナダ)によるユニット。合理的かつ遊び心のある手法で、建設的なデザイン活動を行う。

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「Zero Bag」

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服を買うたびに、大量のパッケージをゴミとして廃棄しなければならないことに疑問を抱いたパク&ホ。いかに容易に、かつ自然なかたちでパッケージを処分することができるだろうか?と考えた。購入後に服を洗濯することに着目し、水溶性プラスチックとシート状の洗濯石鹸を組み合わせてできたパッケージを考案。そのまま洗濯機に投入すればパッケージが水に溶けてなくなると同時に、衣類に付着した化学物質も洗い流すことができる。素材の研究、メンターとの対話を重ねた結果、「Zero Bag」は服だけではなく、食品にも用途を拡大したパッケージとして進化した。

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パク・キョンホ&ホ・イェジン

ともに韓国の漢陽大学ERICAキャンパスで産業デザインを専攻中。社会や環境問題に強い関心をもち、ユーザー目線を基本姿勢とし、デザインの力で多方向の解決策を見出そうとしている。

社会問題に向き合ったアイデアがメンターとのコミュニケーションによって大きく前進し、驚きを与えてくれたLEXUS DESIGN AWARD。今回発表した彼らの活躍に期待しつつ、今後の取り組みにも注目をしていきたい。

●LEXUS DESIGN AWARD  https://lexus.jp/magazine/artdesign/lexus-design-award