歴史と伝統のブランド「レンジローバー」を、デジタルテクノロジーで加速させる

  • 写真:筒井義昭
  • 文:サトータケシ

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レンジローバーのグローバル・マネージング・ディレクターに就任したジェラルディン・インガムさんの経歴が興味深い。

いくつかの自動車メーカーでキャリアを積んだ後、Meta(Facebook)で自動車部門のグローバル・ディレクターを務めているのだ。伝統あるレンジローバーというブランドがどのようにデジタル技術を活用するのか、そして日本市場や電動車両のマーケティングをどのように考えているのか。日本に住んでいたこともあり、「原宿や表参道のエリアが好き」だと語るインガムさんに、話を訊いた。

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15年ほど前には日本に住んでいたインガムさん。「表参道や原宿のお洒落をした人々を見るのが好きでした」と、当時を振り返る。「魚はもちろんおいしかったけれど、いちばん好きなのは和牛です」と笑った。

2023年春にオープンしたジャガー・ランドローバー日比谷は皇居からもほど近い、都心の一等地にある。ビスポークオーダーを請け負うラグジュアリーな空間で、今回のインタビューは行われた。

日産、ルノー、そしてフォルクスワーゲンと、自動車業界でキャリアを積んできたインガムさんに最初に聞きたかったことは、レンジローバーというブランドと他社との違いだ。 

「デザインの美しさや高度なオフロード性能などが、レンジローバーの特徴です。加えて、ラグジュアリーな体験を提供することが、レンジローバーと他社との違いだと考えます。クルマを探す時も、購入する時も、ともに生活をする時も、レンジローバーは素晴らしい体験を提供します」

確かに、ジャガー・ランドローバー日比谷の瀟洒なインテリアに囲まれていると、優雅な時間を過ごしていることが実感できる。では、ライバルとしてレンジローバーを見ていた時と、入社して働くようになってからでは、このブランドに対するイメージは変わったのだろうか。 

「変わりましたね。ライバルとして外から見ていた時には、驚くべきプロダクトだと感じていました。実際に中に入ってみると、優れたテクノロジーがあるからこそプレミアムなモデルがつくれるのだということがわかりました」

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インタビューを行ったジャガー・ランドローバー日比谷は、2023年3月21日にオープンした新しい販売店。日本初となるSVビスポーク用コンフィグレーションラウンジでは、最先端のデジタルツールや実際のレザーとカラーサンプルによって、究極のパーソナライゼーションを可能にしている。このビスポークサービスによって、まさにレンジローバーをオーダーメイドすることが可能になった。

インガムさんは一度、自動車業界から離れて、Meta(Facebook)の自動車部門グローバル・ディレクターを経験して、再びクルマの世界へ戻ってきた。最先端のIT企業での経験は、レンジローバーというブランドでどのように活かされるのだろうか。

「Metaで体験したことは、急激な変化に遭遇しても強力なリーダーシップで迅速に対応するということです。また、人を大切にするという企業文化も学びました。ご存知のようにレンジローバーは、日産やフォルクスワーゲンといった企業に比べると、規模は小さくなります。規模が小さいということは、小回りを利かせて俊敏に動けるということです。素早く変化に対応する、という点で、Metaでの経験が役立つと思います」

インガムさんは、レンジローバーのDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する役割も担う。DXは、開発期間の短縮や在庫管理に貢献するのは間違いないけれど、レンジローバーの得意分野であるビスポークサービスにもよい影響を与えるのだろうか?

「答はイエスです。(レザーや内装素材のサンプルが並ぶ店内を指し示しながら)このように、色や素材の組み合わせは無数と言っても過言ではありません。もちろんデザイナーがお勧めする内装の組み合わせもご提案しますが、それだけではなく、デジタルのテクノロジーも大いに活用するつもりです」

こう言ってからインガムさんが続けたデジタル活用の具体例は、驚くべき内容だった。

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SVビスポークサービスで仕立てたレンジローバーの後席でくつろぐインガムさん。デジタル技術をビスポークサービスに活用する具体的な方法を語ってくれた。

「Metaで働いていた時に、小売店でメタバースを活用したことがあります」と、インガムさんは切り出した。 

「メタバースは大いに進化して、あたかも自分が仮想空間に存在しているかのように感じられます。そして将来的には100%、デジタルエクスペリエンスの時代になるはずです。たとえば日本でレンジローバーをお買いになる方が、仮想空間でロンドンのビスポークサービスを受けられるようになるかもしれません。ハンドルの手触りやレザーの匂いも、リアルに感じられるようになるでしょう。もちろん、自分の好みで仕立てたレンジローバーで、ロンドンの市街地やモナコの海岸線を走ることもできます。遠くない未来に、こうしたビスポークサービスが実現します」

ただし、とインガムさんは釘を刺した。「デジタル一辺倒ではなく、店舗にきちんとしたスタッフがいて対応することも重要だと考えています。要は、選択肢を増やすことが大切なのです。特にレンジローバーのようにプレミアムなブランドは、顧客の好みに応じていくつもの選択肢を提案できることが肝要だと考えています」

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ジャガー・ランドローバー日比谷には、2台分の車両展示スペースが確保されており、日本初導入となるSVビスポーク用のコンフィグレーションラウンジを完備する。

最後に、車両の電動化が進むこれから、日本市場のマーケティングをどのように考えているのかを尋ねた。

「日本は大切なマーケットで、事実、先日発表したレンジローバー・スポーツはたくさんの受注をいただいています。日本市場は、今後もますます成長するでしょう。昨日、日本のお客様とお話をさせていただきましたが、多くの方がレンジローバーの魅力はデザインにあるとお考えのようです。派手ではない洗練されたデザインや、モダンで落ち着いたインテリアなど、評価されている部分にさらに力を入れていきます」

レンジローバーは電動化に力を入れているけれど、BEV(バッテリーに蓄えた電気だけで走るピュアな電気自動車)の日本市場への導入をどう考えているのだろう?

「日本的なクルマの使い方だと、平日は短い距離をお乗りになる方が多いはずです。レンジローバーのプラグインハイブリッド車であれば、平日は燃料を使わずに電気だけで走ることができます。週末に遠出をする時には、ハイブリッド車として使うことができるので、ストレスや制約は感じないでしょう。BEVに関しては、率直に言ってヨーロッパのほうが普及しています。インフラの問題もありますが、メーカーや販売店がお客様にさまざまな情報を提供して、安心してBEVに乗っていただく環境を作りたいと思います。ここでも、デジタル技術が役立つはずです。BEVはサステイナブルであるだけでなく、静かで滑らかに走るというレンジローバーの美点を、さらに強調してくれる素晴らしいテクノロジーなので、普及させたいですね。実は私が入社を決めたのも、レンジローバーが電動化を推進しているという理由が大きかったのです」

最後にインガムさんは、こんな言葉でまとめた。

「伝統があるからレンジローバーが好きだとおっしゃっていただく方がいます。そしてそこに電動化やデジタルなどの進んだ技術が組み合わされることで、さらに魅力的な存在にしていきたいと思います」

世界中の自動車メーカーが新しい技術に取り組んでいることは間違いない。けれどもインガムさんのおっしゃるように、そこに歴史や伝統を組み合わせられるブランドは、世界を見渡しても数少ない。この難しくもやりがいのある仕事を任されたインガムさんが、どのような手腕を発揮するのか。活躍を期待したい。

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都心の一等地に位置するジャガー・ランドローバー日比谷は、さらにラグジュアリーな街へと再開発が進む、丸の内、日比谷、内幸町エリアをカバーする。ブラックとホワイトを基調としたインテリアカラーなど、レンジローバーのグローバルCI(コーポレートアイデンティティ)に則ったデザインになっている。

ジャガー・ランドローバー日比谷

https://retailers.landrover.co.jp/hibiya

東京都千代田区有楽町1-5-2 東宝日比谷プロムナードビル1F
営業時間:10時〜18時
☎03-3528-8666