サカナクション・山口一郎「若き日に紡いだ、いまにつながる大切な言葉の訓練」【創造の挑戦者たち#77】

  • 写真:野村佐紀子
  • 文:山田泰巨 

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Ichiro Yamaguchi●1980年、北海道小樽市生まれ。2005年にロックバンド「サカナクション」 の活動を始め、07年にメジャーデビュー。15年には、各界のクリエイタ ーとコラボレーションを行いながら音楽とさまざまなカルチャーが混ざり合うプロジェクト“NF”をスタートさせ、高い評価を得ている。

サカナクションでボーカル、ギターを担当する山口一郎の原点には言葉がある。小学生の頃から父が愛読する現代詩に惹かれ、年を重ねるとともに言葉とリズムの関係性に目を向けた。やがてメジャーデビューを控えた山口は、日記代わりに短い言葉の断片をウェブサイトに書き綴った。

「いま振り返ると自分自身のための訓練だった」というそれらが、書籍『ことば 僕自身の訓練のためのノート』にまとまった。2001年から06年にかけて書き綴られた全250篇の言葉は、当時の心境をときに赤裸々に表した現代詩のようだ。書籍化のきっかけは、本人も忘れていたというこの言葉の数々を山口の父が見つけたこと。そして父から、本にしてはどうかと持ちかけられたのだ。

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「本で育ってきたので、自分の言葉を書籍化することに抵抗がありました。中原中也、石川啄木、石原吉郎や石垣りん……詩集を出すことで彼らと並べられるのだとしたら、あまりに恐れ多くて」

しかし、小学生の頃から読んだ本の感想を交わすことで多くを教えてくれた父は、山口にとって「先生みたいな人」。だからこそ、「自分が生み出した言葉に感動してもらえたことはうれしかった」という。本の編纂も父に任せた。

「当時僕らを知る人は限られていて、さらに毎日投稿する日記をすべて読んでいた人はまずいない。だからこそ誰かを意識することなく、詩のように心境を表現することができたのでしょう。いまよりずいぶん尖った言葉には、若さや浅はかさも感じます。一方で、若いエネルギーをうらやましくも思える。やはり枯渇と貧困、そして恋愛は文学を生み出す上でエネルギーになりますね(笑)」

本に編まれる言葉と、現在の山口が綴る言葉はまったく違うともいう。いま一曲のために書き下ろす言葉の量は、およそ70曲分。ひとつのメロディに対し、用意した膨大な言葉を部分的にカットアップして完成させる。『裸のランチ』で知られるウィリアム・バロウズが発明した手法だ。

「もとになるのは自分が生み出した言葉ですが、本来の連なりとは違う組み合わせによって新しい意味が生まれます。僕にとっての完成は、自分の想像を超えた瞬間にある。自分でつくった音でサンプリングをするような感覚でしょうか。自分を主体としながら、自我から離れた作品を生み出す感覚を求めています」

メロディやリズムという制約のなかで言葉を綴ることは、現代詩よりも短歌、俳句、詩吟に近いのではないかと山口。本に綴られた言葉には、制約がない点でやはり現在とは大きく異なる。

「いまの僕に音楽以外の目的で詩を書くことは難しい。十数年もかけて確立した手法があり、それに縛られない言葉を書く難しさがあります。あれから僕は、リズムが言葉の意味を上回る瞬間があることを学びました。意味を成していなくても、美しいリズムとともにあれば新しい意味が生まれることがあります」と自身の変化を分析するが、それでもデビュー前のこの訓練は、いまに至るまでの大切なプロセスだったと振り返る。

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未来を見据えながら、長く愛される楽曲を紡ぐ

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サブスクリプションの登場によって音楽の楽しみ方が変わったいま、これまで以上に「長く愛してもらえる楽曲」が必要だと山口は考える。そのために表現者やアスリートは、ときに人間性をも含むコミュニケーションが求められようになったのではないかという。

「(今回の書籍によって)かつてこんな言葉を書いた人間がいまミュージシャンをやっているのか、と思われるかもしれない。正直に言えば僕の恥部をさらすようなことでもあります。けれどそれはSNSで自身を発信することと変わらないのかもしれない。本の内容を評価されたいという思いもありません」

以前山口は、自身の言葉を学ばせたAIに作詞をさせたらどうだろうかと想像した。テクノロジーによっていままで混ざり合わなかった感情が混ざり合い、新しい感動が生まれるのではないかと強く期待しているという。

言葉の世界に埋没していくきっかけをつくってくれた父によって、過去の自分と対話する機会を得た。そんな彼は写真家の森山大道の著作『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』を引き合いに、まさにその通りだと笑う。言葉と音楽を交差させながら紡ぎ続けるその瞳は、遠い先を見据え力強く輝いていた。

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WORKS
詩集『ことば 僕自身の訓練のためのノート』

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メジャーデビュー前の2001年から06年にわたって、山口一郎が書き綴った全250篇の“ことば”を収録する初の単著。ブックデザインは葛西薫と安達祐貴が担当し、銀色インクに黒の箔押し加工がなされている。¥2,420

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LIVE Blu-ray /DVD
『SAKANAQUARIUM アダプト ONLINE』

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2021年11月20日、21日の2日間にわたり開催された、新しい音楽表現手法としてオンラインライブの可能性を追求した公演を映像作品化。巨大な造形物を舞台に、音楽や映像などのさまざまな表現に挑戦した。¥5,500

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1st Album『GO TO THE FUTURE』

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2007年に発売されたデビュースタジオアルバム。現在まで高い人気を集める「三日月サンセット」「白波トップウォーター」をはじめ全8曲からなり、山口が全曲を作詞作曲。録音を含め地元・北海道で制作された。¥1,572

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※この記事はPen 2023年6月号より再編集した記事です。