自分が損をするとわかっていても、なぜかやってしまう「脳の闇」とは?

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    50 中野信子|脳科学者

    各界で活躍する方々に、それぞれのオンとオフ、よい時間の過ごし方などについて聞く連載「My Relax Time」。第50回は、現代社会で起こる人間の悩みや現象を科学の目線から読み解く脳科学者の中野信子さんです。

    写真:殿村 誠士 構成:舩越由実

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    中野信子(なかの・のぶこ)●1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。東日本国際大学教授。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を行う一方、コメンテーターとしてテレビ番組にも多数出演。『人生がうまくいく脳の使い方』(アスコム)、『脳の闇』(新潮社)など著書多数。

    最近は、先日出版した『脳の闇』の執筆に労力をかけていました。「脳の闇」というのは、非論理的な部分を指しています。20世紀は論理ですべて解決できると考えられていて、脳科学では「情動」、心理学でいう「感情」は科学の目から漏れていました。科学のメスが入るようになったのは、ここ20~25年のことなんです。人間が論理的ではないということを発見できたんですね。情動とは、自分が損をするとわかっていても「〜したい」という欲のことです。

    考え方によっては、子どもを産み育てることも非論理的な行動といえるかもしれません。論理的に考えれば圧倒的に損だからです。しかしそれでは世代が終わってしまう。だから非論理的なものが生命の仕組みとして入っているんですね。論理ですべてうまくいくと思われていたのはひと昔前であって、我々はそういう生き物ではないからその部分を分析して解決していく。そういうものを「闇」と総称しました。

    人間の言語能力の遺伝子がいまのようなかたちになってからまだ7万年といわれています。文字の歴史も5000年と浅く、言語能力はコミュニケーション手段としてはまだ不完全です。便利さはあるけど、不自然なツールだから反動も大きくて疲れる。現代はそのしんどさの上で発達を続け、極限に迫っている段階だと思います。ネットもあり、一人ひとりが情報発信者になれる時代に、肉体を酷使しなくてよくなったのに疲れている。面白い時代ですね。

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    疲れていて、意識的にリラックスしようと思ってもできないんですよね。リラックスするには、楽しくて嫌なことが吹き飛んでしまう、仕事よりも好きで無理なくやれることを見つけることです。「趣味は?」と聞かれて、堂々と言える趣味じゃないといけないと思わなくていい。リラックス方法を見つけるために必要なのは自分との対話です。

    私の場合はリセットしたくなったら海に行っています。スキューバダイビングですね。アクティブと思われるかもしれせんが、実は体を動かすのは大嫌い(笑)。その点、スキューバダイビングは海の中では動かないんですよ。冬と春は足が遠のくのですが、5月半ば以降はいい時期なので、早く行きたいですね。

    あとは下手で恥ずかしいですけど、ピアノ。ベヒシュタイン製のピアノのキラキラした透明感のある音が好きなんです。普段は自宅の電子ピアノで練習して、時折スタジオを1時間借りて生のピアノを弾いています。ひとりカラオケみたいなものです。

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    日本独自のルールだと思うのは、公共の場で音を立ててはいけないところです。たとえば、電車の中では静かにしなければいけないとされています。電話をかけるのも他の国だと普通ですが、日本では「帰国子女ですか?」と聞かれてしまうほど(笑)。美術館の中も静かですよね。学芸員が作品について解説する声量も抑えるよう注意されるくらいです。音楽もそうです。音楽を好きで自分がいいと思って楽器を弾いていても、そうじゃない人にはノイズになってしまう。楽器演奏には防音がセットなんですね。だからゾーニングが求められます。

    嗜好品では香水も当てはまりますね。私は好きなんですが、匂いが苦手な人もいますから、つける場面は選びます。アートの集まりやレセプションであればつけてもいいかな、講演会はやめておこうかな、といったふうに。圧が強い日本社会の中でうまく住み分ける工夫が必要なんだと思います。

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    『エレガントな毒のはき方』 日経BP社 5月2日発売

    問い合わせ先/JT
    www.jti.co.jp